1624話 四十五階のボス部屋は

「赤兜。お前の全力を見せてみろ。行け。」


「ああ……」


こんな時の赤兜。無敵の鎧なんだから働いてもらわないとね。私とドロガーは赤兜の攻撃をすり抜けた奴らだけを相手にしてればいい。

ドロガーは槍で、私は不動。絶対近寄ってなんかやらないぜ。レッドキャップゴブリンは魔法なしで戦うには強敵だからな。あー手がダルい……いや、全身がダルい。




「はあっ……がっぼぉ、があはぁ……はぁ……はぁ……」


全てのレッドキャップを仕留めてから赤兜は床に倒れ込んだ。いやーがんばったね。偉い。

あれだけ斬りまくった割りに血とか変な汁が全然付いてないな。『防汚』までしっかり付与されてるわけね。ムラサキメタリックなのに……どんだけ高等技術なんだよ。


「ほら立て。もう少しで魔法が使える場所に出るぞ。そこまで行ったらボードに載せてやるからな。ずっと寝てていいぞ。」


「あ、あぁ……」


絶対服従が効いてるもんね。ほれほれ、さっさと歩け。


「ガウガウ」


カムイは先に行ってこれ以上魔物が来ないようあの場所を守ってくれるのか。偉い。


私たちも本当なら走っていきたいのだが、私とドロガーは体がガタガタ。アレクとクロミは二人でアーニャの護衛。いくら罠がないと分かっていても迷宮内を迂闊に走るのは命取りだからな。慎重に進むぜ。それまでカムイ、頼んだぜ。なぁに、あと二分もかからないさ。




ほっ。何ごともなく通り抜けた。うーん魔力が循環するね。魔法が使えるって素晴らしい。ついでだからちょっと実験。先ほどの空間に手だけ入れて錬魔循環……できないだと? なるほどね。体が一部でも触れてると魔法が使えなくなるってことか。まあいい。面倒だがこの先はカムイを先頭にして、より慎重に進むとしよう。いつまた再び魔法が使えない空間があるか分かったもんじゃないからな。


カムイを先頭に、それ以外の私たちは全員ミスリルボードに乗りこむ。男連中はもうバテバテなんだよね。




結局ボス部屋に着くまで何ごともなかった。魔物はほとんどカムイが瞬殺してくれたし。


さてと、問題はボス部屋に何人入るかなんだよな。できれば安全のために六人で入りたいところだが……アーニャをこんな所に一人で待たせておけるはずもないし。赤兜に一人で入らせるのが無難だが、こいつが死んだら情報すら持ち帰ることもできないし。


「全員で行くかな。」


「いいんじゃねぇか?」


「二倍の強さなど……魔王の前には誤差だろう……」


そりゃあ魔法が使えればな。


「一応魔法が使えなくなることを想定して装備を整えておこうか。アレクとクロミは補給係ね。」


魔力ポーションは無意味だから高級ポーションを十本ほど預けておく。おまけにオリハルコンの盾も持っておいてもらおう。あ、一応この刀も……

腰にはクリムゾンドラゴンの短剣をさして、と。サウザンドミヅチの中折れ帽もかぶっておくか。これで顔以外はほぼ無敵だな。

あ、アーニャにもコートを着せておくか。サウザンドミヅチの。これならドラゴンブレスがきても数度は耐えられるからな。


「おう、準備ぁいいようだな。もし魔法が使えりゃ魔王が一撃で仕留めりゃいい。使えない場合は赤兜が突っ込むってことでいいな?」


「おう。」


「ああ……」


魔法が使えない時はカムイ、赤兜の後に突っ込め。あいつを盾にしつつ安全に、そして確実にボスにトドメを刺せ。


「ガウガウ」


「よし。それじゃあ入るぞ。」


扉を開く。全員が入り終えると閉まる。まだ魔力は使える。この分なら大丈夫かな?


「ニンちゃん! 部屋の反対側! あっちって魔力が使えないっぽいし!」


「何ぃ!?」


『火球』


本当だ……だいたいボス部屋の真ん中地点あたりで火球が消えた。つまりこの部屋は半分では魔力が使え、もう半分では魔力が使えないってことか。とりあえず命の危険は減ったな。だが、ボスが一向に現れないな……


「どう思うドロガー?」


「こりゃどうせアレだろ? 一人、もしくは全員があっち側に行かねーと現れねぇんだろ?」


「やっぱそうか。よし、赤兜行け。」


「ああ……」


絶対服従特攻無敵の赤兜一番機。



部屋の反対側、次の階に降りる扉まで行ってもボスは現れない。てことは……


「全員であっち側に行くしかねぇようだなぁ?」


「ああ。アレク、クロミ。準備はいいね?」


「ええ。」


「いいし。」


二人はアーニャを両側から挟んでいる。

そして全員が魔法の使えない側へと移動を終えると……


「ガウガウ」


ほぉーん……生意気なことしやがるな……


「もうあっちには戻れないみたいだな。これはあの時の透明な壁か。」


全裸になって魔力を空っぽにすれば戻れるんだろうけど、ボス部屋でそんなことをしたらいいカモになるだけだな。


「用意周到なこって。始めっから中を全部魔法無効空間にしとけば良さそうなもんをよ? わざわざこうやって範囲を狭くしやがってよぉ。」


「まったくだな……」


部屋を広く使われると困るってか。だったら始めっから部屋を狭く作っとけってんだ。神の考えることなんか分からんよなぁ……百メイル四方の部屋が半分になったぐらいじゃあそこまで狭さを感じないしな。


「ガウガウ」


「来るぞ! 上からだ! 散れ!」


ほう……


轟音を立てて着地したのは巨大なオーガ。魔境によくいる奴より少し大きい十メイルってとこか。真っ赤で硬そうな皮膚に五メイルはある棍棒。真上から叩かれたら私の装備でも即死だな。無事に済むのは赤兜ぐらいなもんだ。


「くっ、ブラッディオーガロードかよ……」


ほう。そんな名前なのか。だが、アンデッドでないのなら……


「グゴゴゴゴオオオオオオーーーー!」


まずは雄叫びからか。呑気な奴だぜ。


「グゴゴッ!?」


「赤兜行け! 棍棒持ってる指をぶち斬れ!」


調子こいて叫んでるからカムイにアキレス腱を斬られるんだよ。あっさりと地面に膝をつきやがった。今のうちにさっさと仕留めないとすぐ治りやがるからな。

棍棒を持っている右手をぶんぶんと振り回すが腰が入ってないな。本当にただ振り回してるだけだ。ほぉーら、そんな隙だらけなことしてると……首の後ろをカムイに食いつかれてやがる。カムイはやるねぇ。


「グゴッ!」


まるで蠅でも追い払うかのように自分の首を左手で払うオーガだが、その頃にはもうカムイはいない。とっくに地面に降りている。真っ先にアキレス腱を切ったのが効いたよな。足を止めるって大事。


「がはあっ!」


おっ、赤兜もやったか。カムイが作った隙に上手いこと右の人差し指を切断できたか。代わりに吹っ飛ばされたのね。ドンマイ。さすがに指を一本切ったぐらいじゃあ棍棒を落としてくれないか。


さて……これからだな。どうしよう……

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