1623話 崩落する大岩

あーくっそ、肩が痛いなぁ……

背中も痛い。足もだるいし腰だってぱんぱんになってやがる。

だが、少しは見えてきたぞ。この岩の核とも言える場所が。そこを突き続ければこの大岩だって……


「そろそろ代われって。」


「まあ待て。もう少しなんだよ。」


我ながら非効率的なことやってんなぁ。私がこうしている間にもアレクとクロミが魔物の相手をしてくれているってのに。


目をつぶり、心を落ち着かせる。呼吸を整え、見えない大岩を想像する。通路をさえぎる強固な岩盤だ。こいつを……次の一撃で……ぶち抜いてやる……

だってもう体力の限界だし……身体強化なんか使ってないのに、酷い筋肉痛は確定だな。


ふうぅー。いくぜ……


螺旋貫通峰らせんかんつうほう


「おおっ!?」


ドロガーの声だ。やったか?


目を開けてみると……ほんの少し、ヒビが走っている程度だった……

ちっ、やっぱ私の力なんてこんなもんか。でもいいや。ヒビさえ入ったんなら後はもう地道にやるだけだ。


「よし、ドロガー交代な。これ貸すわ。こいつを打ち込みながらヒビを広げるといい。赤兜と協力してな。」


「おう。魔王はちぃと休んでな。」


「ああ……」


一度範囲外に出てからハンマーとムラサキメタリックのライフル弾を数発手渡す。一人がライフル弾を支えて、もう一人がハンマーを振ればいい。真横にハンマーを振るのって結構ハードだけど、こいつらなら構わんだろう。がーんば。

隙間が広がったら不動を使ってテコの要領でガシガシやれば、いずれ崩壊するだろうしね。あー疲れた。もう腕が上がらない。アレクには悪いけど寝よう。その間ぐらい守ってもらってもいいよね。

カムイ、腹貸せよ。


「ガウガウ」


自分に任せればもう少し早かったって? いやいや、カムイ自慢の魔力刃だって使えないんだぜ? どうやって切るつもりだよ。


「ガウガウ」


あー、爪ね。その手があったか。ついつい牙のインパクトが強いから忘れがちだけど、お前の爪もたいがい反則だよな。

まあいいや。寝よ……ぐう……






おおっ……大きな音で目が覚めた。ついに岩が割れたか。消音を使っておけばよかったな。いや無理か。


「おう魔王。待たせたなぁ。通れるぜ?」


「お見事。もう行くか? 休憩はいいのか?」


「俺たちぁ魔王ほどは疲れてねぇさ。もっとも、問題はここのボスだけどな。」


まったくだ。ボス部屋でも魔法が使えなかったらかなりのピンチなんだよな。それで巨大スライムなんか現れたら全員アウトじゃん。いや、カムイが頼りかな?


あ、カムイで思い出した。


「カムイ、向こう側を見てきてくれるか? どこまで魔法が使えないのかをな。」


「ガウガウ」


「お前一人なら少々魔物が現れたって関係ないだろ。戦わずにささっと見てきてくれよ。」


「ガウガウ」


こんな時こそ身体能力ぶっちぎりナンバーワンであるカムイの出番だよな。


「よし。カムイが帰ってくるまでに、とりあえず向こう側に移動するだけしておこうか。」


「おう。あーそれから魔王よぉ。悪ぃがあのムラサキメタリックはなくなったぜ。」


「何い? まあ……仕方ないか。岩が崩落するのと一緒に落ちたってことか。岩の隙間に落ちたんじゃあとても探せないわな。」


「おー、その通りだわ。さすがに崩れ落ちる大岩の近くにゃあ近寄れねぇしよ?」


「ああ。まあ構わんさ。あんなのまた作ればいいだけだからな。」


問題は……作るのがかなり大変ってことなんだよな。魔力に余裕がある時でないと無理だし。これで魔力庫の中にあるムラサキメタリックの弾丸は徹甲弾が一発だけだ。もっとも出番はなさそうだが……普通の魔物にはオーバーキルもいいとこだもんな。


さて、登るとするか。


「アレクは一番最後に登ってね。」


「え? ええ、分かったわ。」


今日のアレクはミニスカートじゃないから先に登ってもらっても構わないんだけどね。ハリのある素晴らしいお尻をこいつらにじろじろ見せるつもりはないからな。まあ、もうすでに全裸を見られてはいるのだが……

あんな命がけの状況なんだから文句を言う気はないけどさ……ドロガーに赤兜め。お前ら一生分の運を使い果たしたな。


「ニンちゃんウチはー?」


「アレクの前かな。」


クロミは長いスカートだからそんなに気にすることもないだろ。好きに登れよな。


「じゃあ先頭は赤兜な。登ったらそのまま向こう側に降りて警戒してな。」


「ああ……」


いやーこいつは実験台というか鉄砲玉にちょうどいい人材だな。最強クラスの鎧があるせいで命の危険を心配しなくていいし。


「ガウガウ」


あら? カムイのやつ、もう戻ってきたのか。早すぎだろ。ふむふむ。


「降りてから少し行ったらもう魔法が使えるとよ。おまけに魔力が使えない空間には罠がないとさ。」


思えば、罠を作動させるのにも魔力が必要だろうからな。私たちの魔力を感知したりとかさ。今回のケースはその魔力が使えないせいで罠が発動しないのか、それとも仕掛けてないのか。どちらにせよ安全なのはいいことだ。




さて、多少の誤算はあったが全員が岩を乗り越えた。

ちなみに誤算とはアレクの登る順を最後にしたせいで降りる順も最後になったことだ。岩を降りるアレクのぷりぷりプリティーなお尻が丸見え……トラウザーズ越しだけど。

ちなみにドロガーはクロミが降りるのを真下からガン見していた。ブレない奴だわ。まあ、クロミが落ちたら受け止めるつもりで待機してたんだろうけどさ。私だってアレクを真下で待ってたから分かるとも。あっち側と違ってこっちは岩がやけに切り立ってるんだもんなぁ。


一番大変だったのはアーニャだ。引っ張り上げて、吊り下ろして。ドロガーがロープ持ってて助かったわ。地味に疲れたな。私はほぼ見てるだけだったけど。


さあ、ここから少しだけ魔力が使えないまま進む。ほんの百メイル程度だ。いきなり魔物が現れることはないだろう。だが、あっちから大挙してやって来ることはある。


現に今も……


レッドキャップゴブリンが横いっぱいに広がったままこっちに来ている。厄介すぎんだろ……

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