1622話 魔法無効空間
ドロガーは見張りだけでなく、下に落ちた岩をゴロゴロと動かしている。それぐらいなら私たちもやるかな。下の岩をどけておかないことにはどんどん溜まってしまうし、上からも崩せなくなるもんな。
「おう赤兜ぉ! 次ぁその右だぁ!」
ドロガーの指示も堂に入ってるね。私も土木工事には造詣が深いつもりだが所詮は自己流だからな。こんな時は年の功に任せるのが上手くいくってもんだろう。
それにしても赤兜の奴もあんなフルプレートの鎧を着たままよくもまあ土木作業ができるもんだよなぁ。温度調整や重量軽減ぐらいは付いてるんだろうけどさ。
「そりゃあ無理だぁ! こいつを巻けや!」
そう言ってドロガーは赤兜へロープを投げた。あーなるほど。テコでもどうにもならない岩を下から引っ張るわけだな。
岩にロープを巻き終えて、反対側からテコで岩を動かそうと構える赤兜。こちらからは私たちがロープを引く。
「いくぜ! 息を合わせろよ! せえのっ!」
ドロガーの音頭に合わせて引っ張る。私とドロガーの二人だけだが。アレクの繊細な指に荒縄なんか持たせてなるものか。
ふぅ。大岩が転げ落ちる場面ってのは意外と見てて面白いな。普段なら魔法で浮かせるも降ろすも自由自在なだけに。ちなみに今は自分に『重圧』と『身体強化』をかけながらロープを引いている。
ロープの強度がワイヤー並みなら全ての岩をまとめてごっそり処理できるんだけどな。さすがに無理だな。ドロガーによると、このロープの素材は麻らしい。麻の中でもドロガーのこだわりがあるようで強度は高い方だとか。
「おうどうだぁ? そろそろ上ぇ通れるぐれぇには隙間空いたんじゃねぇかぁ!?」
かなりの岩を引っ張り落としたもんな。あー疲れた。サウザンドミヅチの手袋をしてなかったら手の平ズタズタになってたかもな。
「通れそうだ……少し待て……行ってみる……」
上部にできた隙間を匍匐前進。こいつもフルプレートを着たままよくやるよなぁ。
「だめだ……一つ巨大な岩が邪魔をしている……それさえなければ……」
数分後に戻ってきた赤兜はそう言った。
とことんここの神は意地が悪いな。巨大な岩って。そんなもんどっさりとここに積もった岩をどけてからでないと手の出しようがないだろう。普段なら収納すれば解決だってのにさぁ。どうしよ……
こんな時、母上なら……
魔法が使えないはずなのにしれっと風斬なんかを使って岩を切ってしまいそうだな。
フェルナンド先生なら……
当たり前のように岩を斬ってしまうよな。
前校長や前組合長なら……
岩を割ってしまいそうだ。
ありだな……よし。
「もう少し隙間を広げるぞ。具体的には立って通れるぐらいまで。」
「おっ? 魔王にゃあ何か秘策があんのかよ。よっしゃ。そんならもうちょい踏ん張るかぁ。おう赤兜ぉ! おめぇも気張れや!」
「ああ……」
そこまで期待されてもな。とりあえずやってみるだけの話だからな。
それから一時間ぐらいして、ようやく私が立って歩けるほどの隙間ができた。
「そんで魔王? どうする気なんだぁ?」
「あの岩をぶち割れないかと思ってな。」
「はぁあ!? おめ、魔法なしで……そりゃ正気かぁ!?」
「さあな。やってみないと分からないさ。」
どのぐらいの厚さがあるかも分からない大岩だもんな。もし身体強化が使えればぶち壊すことも可能とは思うが……
まあやってみようか。
『
エロー校長の必殺技だ。普段は身体強化のごり押しで使っている……
本来の威力ならばムラサキメタリックをも突き通すのだが……
今の私が使っても大岩はびくともしない。そんなことぐらい分かってるさ。だってただの突きだもん。
だが、構わない。
何度でも繰り返す。
不動を構え、何度も突く。
「おい魔王……いつまでやってんだ?」
「はあっ……はぁ……まだ三十分程度だろ? もう少し待ってな……」
私がもし、心眼をきっちり修得していれば……こんな大岩だって斬ることができたんだろうな。心眼の極意は
だからこの機会に……少しでも……
『螺旋貫通峰』
もし、この大岩のどこかにそのような隙間があるとして……私の不動でその隙間を突くことができれば……
ふふ、できるわけねーだろ……不動の太さは炭素原子の何万、何億倍なんだよ……そんなぶっとい棍で原子の隙間とか……
あー疲れたなぁ……まだ壊れねーのかよ……
「おい魔王……ちっとそれ貸せや。俺にもやらせろよ……」
「ふう……はぁ……はぅ……まあ、待てよ……もう少しなんだからよ……」
普通に考えて、岩を割るならハンマーで楔かなんかを打ち込むのが無難だよな。楔は持ってないがハンマーならある。オワダで変な奴から没収したもんな。そして楔の代わりならムラサキメタリックのライフル弾がある。こいつらを使えば……
だが、まだだ。少なくとも私の体力が尽きるまでは突き続けてやる。ここの迷宮の神め……魔法が使えなければ何もできないとか思ってんじゃねぇぞ? 絶対てめぇの目論見を超えてやるからな……
そしてこの機会に少しでも心眼を修得したいんだよな……先生なら容易く斬り裂くであろうこの岩を、私がぶち壊せれば……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます