1621話 地下四十五階の試練

さて、しっかり食べてしっかり休んだぞ。

いよいよ四十五階のボスを目指して出発だ。一気にスパッと終わらせてやるぜ。


「ニンちゃん、先頭はウチと狼殿が行くから。」


なぬっ?


「それは構わないけど、飛んだ方が早くないか?」


「ニンちゃんはちょっと働きすぎだし。この階の残りとボスぐらいウチらに任せて欲しいし。」


そうなのか? そんな気はしないけどなぁ……

そもそも私の都合で迷宮に潜ってんだし。まあいいか。それに四十五階も後半だし、慎重に行くのもいいよな。


「分かった。くれぐれも慎重に頼むな。じゃあドロガーは最後尾、赤兜はアーニャの護衛ってことで。」


「おうよ。任せとけ。」


「ああ……」


えらいみんな張り切ってるな。私が楽なのはいいことだが。

ならば私はアレクと腕を組んで悠々と歩こうではないか。


現れる魔物はやはりコカトリスばかり。

クロミは氷の魔法で凍らせるだけでなく、そのまま粉砕してきっちりトドメを刺している。毒が微塵も漏れない見事な勝ち方だな。この階は魔法が使いにくいだろうに、さすがはクロミ。

カムイは一瞬にしてコカトリスの首を斬り落としている。ただアンデッドだからそれでもしぶとく生きてるんだよな。生意気に体と首が別々になっても襲ってくるし。もっとも、どうせカムイが首を踏み潰してすぐ終わりなんだけどな。カムイも足しか汚れてないのはさすがだな。大丈夫だよな? その足って腐らないよな? 後で浄化をしっかりかけてやろう。


いやー、罠が危険なせいで時々ヒヤッとするけど、クロミもカムイも全く危なげなく避けてるんだよな。分かってはいるけど二人とも見事なもんだ。

毒ガスも落とし穴も、ギロチンも落下してくる岩も。全く問題なし。さすがの二人だよな。


「ガウガッ!」


どうしたカムイ!? 何かクロミに警告したみたいだが!?


「ちょっ!? マジぃ!? ヤバ「ガウァ!」


何だ!? カムイがクロミに体当たりしてこちらにぶっ飛ばした……そんなカムイの上に天井が崩落!?『浮身』崩落スピードを緩め、効かない!?「ガウッ」

ほっ、そもそもカムイの素早さなら落ちてくる天井から逃げるのなんか楽勝だよな。いくらクロミにぶつかり体勢を崩した後でも。


「何があったんだ?」


クロミにしては動きが鈍かったよな。すいーっと引き返せばよかったろうに。


「あそこヤバいよ! 魔法がマジで使えなかったし!」


なんだと……? いや、確かに私の浮身も効かなかったし……


「そんじゃあどうすんだ? 違う道ぃ探すんか?」


この道はもう通れないからな……


「そうだな。カムイ、他にボス部屋に行ける道はありそうか?」


長い直線だったから戻るのは面倒だけどね。


「ガウガウ」


「この道しかないって……マジかよ……」


最悪だ……


「そんじゃあ何か? こんだけの岩ぁどかすってのか!?」


「ちょっと待ってな……」


近寄ってみると……


マジかよこれ! 魔力が循環しない……練ることもできなければ魔法として外に出すこともできない……だから当然、岩を収納することもできない。どうすんだこれ? 崩落したはずの天井が元通りになってるどころか上までぎっちり詰まってやがる……

くっそ、面倒なことさせやがるぜ……


「上を通り抜けられる程度には岩をどかす必要があるか。全員でやると危ないからまずは赤兜からだな。上の方に登って崩せそうなところから崩してしまいな。」


「ああ……」


こいつのムラサキメタリックなら岩の下敷きになっても無事だろうしね。


「これ使いな。」


不動を手渡す。こいつでテコを使えば結構崩しやすいはずだ。


「ああ……」


「ドロガーは指示役な。下からどの岩が崩れそうとか見てやってくれ。」


「おお、任せとけや。」


高さ十メイルの通路を埋め尽くす大岩だもんな。せめて上を通り抜けられるように地道に崩していかないとなぁ。こりゃ長丁場になりそうだな……


それ以外の私たちは休憩しつつ警戒だ。岩と反対側からは魔物が来るからな。魔法が使えるエリアまで下がっておこう。

あ、そうだ。一応試しておこう。


『狙撃』


「何だぁ? 何やってんだ魔王?」


「ちょっと実験さ。魔法が使える場所からぶち壊せないかと思ったんだけどな。」


だめか。私のライフル弾が霧散してしまったな。あの辺は魔力無効空間といったところか。ならばムラサキメタリックの徹甲弾ならいけるのか? ついでだからやってみよう。徹甲弾だと魔力を食いすぎるからライフル弾で……


『紫弾』


うーん、どうにか岩を割ることぐらいはできたが……だめだな。とても本来の威力は出ていない。やっぱ地道にやるしかないか。


「やっぱやるじゃねぇか。ありゃあもしかしてムラサキメタリックかよ? よくもまあこんな形にできたもんだぜ。」


岩に突き立つ紫弾を見てドロガーが言う。


「おう。さすがにムラサキメタリックは違うな。」


さて、しばしのんびりとするかな。赤兜には肉体労働をがんばってもらいつつ。いやー適材適所だね。ご安全に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る