1617話 地下四十二階、そして四十三階

「カース、よかったの? あの二人危なくないかしら?」


「危ないね。特にドロガーが。いくら今のクロミに魔力がないからって奥の手ぐらい絶対持ってるだろうしね。」


いや、でもそれはドロガーも同じか。ならば相打ち? それはそれで困るな。


「私はクロミの気持ちが分かるつもりだけど……それでもさっきまでのクロミはどこか不安定だったわ……」


どこかどころか丸っきり不安定だったよな。まあ女の子には色々あるってことかねぇ。ドロガーにお任せだな。




アレクとお茶を飲みながらのんびり待っていたら階段からコツコツと足音が聴こえてきた。もうかよ。早くないか?


あれ? おかしいぞ……足音が一人分しか聴こえない……

マジかよ……


「ガウガウ」


二人いるって? ああ、片方がおんぶしてるのね。てことは二人とも生きてるんだよな?




「おう、待たせたな。」

「お待たせー。」


「早かったじゃないか。やっぱドロガーだな。まぁ、二人とも無事でよかったわ。」


「無事じゃないし。ヨッちゃんに足腰立たなくされちゃったし!」


それはローキックのせいだろうが。いくらドロガーが早撃ちだからって私たちが降りてから十五分と経ってないんだからな。


「まっ、何だな。クロミぁ俺の魅力に参っちまってもう立てねぇんだとよ?」


「おおー。ドロガーやるじゃん。男を見せたな。」


「ち、違うし! 別にウチ立てるし!」


それでもドロガーは無理するなって顔をクロミに向けたまま、下ろすことはなかった。クロミも口以外で抵抗をすることもなかった。一件落着かな?


では出発だ。全員を乗せて……


氷柱こおりばしら


さあて、がんがん行こうか。地下四十二階、攻略開始だ。




到着。安全地帯だ。うーん、やはり魔力が満タンだと快適だよなぁ。少々派手に魔法を使っても頭が痛くなることもないし。しかも節約なんか考えなくていいからますます頭を使うこともない。

これだから母上にはほど遠いって気もするが、楽したいのが人間だもんなぁ……勢いがある時は勢いに任せて行けばいいや。




さて、昼休憩も終わった。少し眠りたい気もするが、今寝たら夕方まで起きそうにないもんな。ここは一気に次の安全地帯を目指すべきだろう。


行くぜボス部屋。ほーれ氷柱ごろごろー。




到着。


「じゃあさっきと同じ感じで。もしまたメタリックアンデットスライムだったらいけないから全員なるべく隅にいてね。」


全員と言いつつも私の目はアレクしか見てなかったりする。


「ええ。期待してるわ。」


アレクの期待。見事応えてみせようじゃないか。




まずは部屋を埋め尽くす巨大スライム。


『乾燥』


敵じゃないね。普通ならかなり苦戦するんだろうけどね。相手が悪かったね。


そして……きた!


『鉄壁』


見えないけどだいたいの動きは読んでるぜ。魔力を感じた瞬間に鉄壁で防いでやった。

そしてそのまま追加で『鉄壁』


よし。ばっちり閉じ込めた。では……


『金操』

『重圧』


紙より薄く潰してやるよ。

あっ、少し漏れてる。『点火つけび

よし。鉄壁の穴を溶接してやった。


おっ、終わったか。いつの間にか地面にポーションっぽい瓶が落ちてる。どれどれ匂いは……

うぅむ……臭いのは臭いんだが……いつものに比べるとまだマシか。でもポーションなら臭くないと効き目が悪いんだよなぁ。


「ニンちゃん貸してー。」


「おお、どう思う?」


「あーこれ飲んだらダメなやつだし。なんかぁーアンデットになりそうな匂いがするしー。」


なんだその匂いは……


「貸してみろ。」


今度はドロガーまで。


「あーこれちっと覚えがあんぜ。エチゴヤの奴らが下っ端に飲ませるやつ……えーっとな……たしか……そう! 『反死反命丹はんしはんめいたん』だぜ! 正確にぁこいつを元にあれこれ調合するんだろうけどよ。」


あー、少し覚えがあるな。反死反命丹はんしはんめいたんか……確かバンダルゴウの宿で襲ってきた奴らが飲んでたよな。死後、すぐにアンデット化するんだっけ? 迷宮の産物だったのかよ。

役に立ちそうにはないが一応キープしておこうかな。ゼマティスの伯父さんが喜びそうだし。きっとこれを元にえげつない薬とか作りそうだよなぁ。


「よし、さっさと次行こうか。」




次は四十三階だ。

攻略開始!




終了!

安全地帯に到着!


「なんだかよぉ……魔王よぉ……始めっからこうしてりゃあもっと早かったんじゃねぇか?」


「そうでもないさ。俺の魔力だって無限じゃないんだからさ。一人でやれることなんてたかが知れてるぜ? チームワークが大事なのさ。」


「何だそりゃ……」


「各自がそれぞれの全力を尽くすことが迷宮攻略には必要ってことだよ。現に三十九階ではお前が大活躍したじゃないか。だろ?」


さすがに私一人じゃ無理だよ。カムイやコーちゃんがいないとルートだって分からないんだからさ。


「へっ、そりゃそうか。まったく世話がやける奴だぜ。」


「間違いないな。さすがはヒイズルに名が轟いてるだけある。ありがとな。お前を誘ってよかったよ。」


「ば、バカやろお! 何言ってやがんだよ! べ、別にこんぐれぇ楽勝だってんだ! 俺ぁ五等星の傷裂ドロガーだからよぉ!」


うーん、ドロガーっていい奴だな。マジで誘ってよかった。遊びに行こうぜ、で迷宮まで来てんだからさ。付き合いのいい奴だなぁ。半分以上はクロミが目当てなんだろうけどさ。


まあ何でもいいや。今夜はここで一泊だな。あー今日も疲れた疲れた。

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