1612話 クロノミーネの撹乱
ふあぁ……よく寝た。クロミは大丈夫だったのかな? すごい血の量だった気がするが……
「あっ、アレク。クロミはどうだった? 大丈夫?」
「ええ、問題ないわよ。カースは気にしなくていいわ。」
その言い方は逆に気になるが、アレクが気にしなくていいと言った以上、私は気にしない。それに気付いてしまったしね。怪我とかではなくただの定期的なアレだな。やっぱダークエルフにもあるんだな。生物なら、哺乳類なら当たり前なんだろうか。でもアレクにアレが来てるのを見たことがないんだけどね。そこら辺の話はアレクったら全然してくれないんだもんな。カースは気にするなの一点張りで。だから私も気にしてないけどさ。
「クロミが大丈夫ならそれでいいよ。それよりアレクだよ。だいぶ疲れてたと思うけど、調子はどう?」
「もう大丈夫よ。さすがに魔力は半分も回復してないけど。体調に問題はないわ。」
「それならよかったよ。お腹すいてない?」
「ええ、もうぺこぺこよ。」
「じゃあ何か焼くね。僕も小腹がすいてきたし。」
何を焼こうかなー。もちろん肉、それから……サザエとアワビだな。こんな迷宮内で海産物を食べるのも乙なもんだろ。
あ、焼き上がるタイミングでカムイが帰ってきた。少しは心配してたけど、まあ無事でよかったよ。お前も食べるだろ?
「ガウガウ」
結局、香ばしい匂いに釣られて全員が目を覚ました。いや、クロミ以外の。
「おう魔王、クロミはどうしたんだ? さっきぁ虚ろでよく聞いてなかったけどよ?」
私がつい大声を出したせいでドロガーまで目を覚ましかけてたのか。
「女の子には色々あるのよ。男が気にすることじゃないわ。」
「お、おお……」
さすがアレク。スパッと言ったね。
『ニンちゃん……ニンちゃん来て……』
ん? これは珍しい。クロミから
『分かった。少し待ってな』
私も返事をする。
「ちょっとクロミが呼んでるから行ってくるわ。」
「はぁ? クロミがぁ? いつの間にぃ?」
ドロガーのやつ酔ってないだろうな?
「たった今だよ。ほれ、これも好きに焼いていいぞ。」
肉と魚を追加で出しておく。まったくクロミめ。私よりドロガーを呼んでやれってんだ。
「クロミ、大丈夫か?」
そこには青い顔をしたクロミがいた。膝を抱えて床に座り込んでいる。
「あぁニンちゃん……ごめんね心配かけて……」
いや、悪いが心配してないぞ。だってアレクが大丈夫って言ったから。
「出発のことなんか気にしなくていいからな。いくらでも休んでな。」
「うん……ごめんね……で、でも、その、問題があって……」
「ん? 問題? 言えることなら言ってみな?」
無理して言わなくてもいいんだけどね。
「ウチ、今、その……アレの最中で……」
「ああ、分かってる。」
クロミだけではない。魔境で戦う女冒険者はみんな同じだよな。ノワールフォレストの森みたいなところでいきなり生理が来たからって魔物が手加減してくれるわけでもなし。大変だよな……
「で、でね……その問題っていうのが……」
「ああ。気にしなくていいぞ。」
どんな問題かは知らないが。
「今日からしばらく魔法が使えないの……」
「やはり問題ないな。気にするな。」
そんなことかよ。全然何てことないし。
「でっ、でも! う、ウチが魔法を使えなかったら……何の役にも立たないし……」
「そうか? クロミは魔法が使えないと役立たずなのか?」
「ち、違う?」
うーむ。聞いた話では、ダークエルフはエルフより魔力が高い反面体力で劣るとか。だがクロミに関してはそんな面は全然見えない。客観的に考えて歩いて付いてこれるなら特に役立たずってわけでもないんだよな。
「問題ないな。アーニャと同じペースで歩けるんならな。それぐらいできるだろ?」
「で、できるし!」
「なら問題ない。クロミは役立たずじゃないさ。」
それに、どうせ一週間ぐらいだろ? その間ぐらいここで休んでたっていいし。私やアレクだって魔力が全部回復してないんだから。
「うわぁーんニンちゃーん!」
あーあ抱きついてきちゃったよ。おうよしよし。クロミはいい子だねんねしな。
『快眠』
うわぁ……あっさり効いちゃったよ。魔力抵抗ゼロかよ。こりゃ戦うどころか弱い毒にもやられるレベルじゃん……レッドキャップゴブリンなんかに軽く引っ掻かれただけでもヤバそうだ。
一週間ここで休憩だな。それだけあれば私の魔力だって満タンになるし問題はないな。一週間程度じゃあ悪食が現れることもないだろうし。
「と、言うわけでしばらくここでのんびりするぞ。」
「俺ぁ全然構わねぇけどよぉ……」
「けど、何だ?」
「いやー正直なところ悪食が恐ろしくてしょうがねぇんだよ。二度と遭いたくねぇぜ……大丈夫だろうなぁ?」
「知らねーよ。一週間かそこらなら大丈夫だろ。それにな。今のクロミはただ魔法が使えないだけじゃなくて、あらゆる抵抗がない状態らしくてな。弱い毒をくらっただけで死にかねんからな。ここは用心してのんびりしてようぜ?」
だいたい急いでるのは私の方だってのに。
「まっ、しゃーねーな。俺だってクロミのこたぁ心配だからよ。」
「ああ、せいぜいのんびりしてようぜ。食い物に困ることはないんだからさ。」
通常の迷宮探索だと食糧の確保が至上命題のはずなんだがね。私の魔力庫のおかげでその心配はない。あと一年だって潜っていられるんだからさ。さーて骨休め骨休め。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます