1611話 安全地帯での出来事

私たちが食事を終えた頃、クロミが戻ってきた。


「金ちゃんよく寝てるよー。よっぽど疲れたんだねー。」


「そりゃそうだろう。普段の十倍以上魔力を込め続けてたんだからな。」


でも、今思えば海中でのトレーニングとかやっててよかったよな。海中での魔法の使いにくさときたら相当なもんだからな。あの経験があったからこそアレクはここでもカゲキョーでも慌てずに行動できてるんだろうな。


「それじゃあどうすんだ? 女神が起きるまで待つんか?」


「ああ、そうしよう。全員自由行動ってことで。そうそう、風呂に入りたい者がいるなら出すぞ?」


「おー、そりゃあいいな。ようクロミ、一緒に入ろうぜ?」


「えー、別にいいけどぉー。ヨッちゃんて助平なんだからー。」


おやおや。ドロガーとクロミったら実はいい仲なのか? ドロガーやるじゃん。


「ガウガウ」


手洗いしろって? 昨日もしたばかりじゃないか。クロミ達が上がってからな。それまではちょっと腹を貸せよ。お前のふかふかな毛皮を枕に昼寝といこう。あら、アーニャも来た。まあいいや。一緒に昼寝だ。


「お前は見張りな。誰も来ないとは思うけど気を抜くなよ?」


「あ、ああ……」


こんな時こそ赤兜を働かせないとな。




「おう魔王、上がったぜ。」

「おっ先ぃー。」


「ん、おぉ……」


んー、よく寝てた気がする。そんじゃカムイを洗うとするかね。アーニャはこのまま寝かせておこう。




ふぅー。それにしてもカムイの毛並みときたら真っ白で綺麗だよなあ。手触りだっていいし。そりゃあクロミだって一緒に寝たくなるわな。

それにしてもお前凄かったんだってな。魔声一発で悪食を止めたんだって? とんでもない威力だったそうじゃん。

改めて考えても偉業だよな。


「ガウガウ」


なに? 私の血をたっぷり飲んだからだって? コーちゃんも? あー、そうだったよな。魔力がめっちゃブーストされたってわけか。むしろそこまでやった魔声ませいですら止めるのが精一杯と考えるべきか。くっ、悪食め……いつか絶対ぶち殺してやるからな……

あ、呪いの魔笛まてきを吹いたら現れないかな? ノヅチは現れたんだし。ありだな。アーニャの件が片付いたら、またこのシューホー大魔洞にやってきて……


「ガウガウ」


いいから洗ったら乾かせって? 分かってるって。お前も落ち着きがないなぁ。


『暖風』


全ての指先から暖かい風を出す。出しながらマッサージも行う。どうだカムイ? 気持ちいいだろ?


「ガウガウ」


それと並行してブラッシングだ。まったくお前ほど贅沢な召喚獣はいないぞ?


「ガウガウ」


私ほど恵まれた召喚主もいないって? 正解だよ。




よし終わり。じゃあ私はのんびり風呂に入るからな。


「ガウガウ」


カムイは風呂上がりの散歩だと? せっかくきれいにしたばかりなのに……落とし穴なんかに落ちるんじゃねーぞ……




ふう。いい湯だった。

あらら、ドロガーとクロミもアレク同様に水のベッドで寝てるじゃん。おまけにアーニャまで。


「おう赤兜、お前も風呂に入りたければ入っていいぞ。何ならその後寝たっていいから。」


「あ、ああ……すまん……」


さてと私は……アレクの寝顔を見ながら酒でも飲もう。スペチアーレはコーちゃんと飲む日までとっておくから……

センクウ親方のラウート・フェスタイバルにしようかな。今の気分には少し甘すぎる気もするがアレクの甘い寝顔を見ながら飲むもんだし、悪くないよな。

逆にツマミをクタナツギルドで買ったあんまり旨くない干し肉にすれば……合わなくはない、かな。


ふふ、よく寝てるなぁ。かーわい。




みーんな寝てる。アレクもクロミも。

ドロガーも赤兜も。そしてアーニャも。カムイは散歩から帰ってこないし。私もシェルターに入って寝ようかな。アレクも連れてさ。もはや安全地帯が信用できないからこうやって見張りをしてるんだけどさ。赤兜が同行している以上、再び悪食が現れる可能性も少しはあるかなーと思ったが、やはりアレは『同じ階層に長く留まった時』という条件なんだろうな。だいたい一ヶ月か。あいつらの隊長は昼と夜が分かる魔道具を持ってたみたいだから正しいんだろうな。

一ヶ月か……赤兜どもみたいなクズがよくこんな女もいない迷宮で耐えられたよな。あ、いや、洗脳されてるから関係ないのか。洗脳されてる奴とされてない奴がいるんだろうな。きっと隊長クラスは間違いなく洗脳されてるんだろうね。あーやだやだ。




それにしても……揃いも揃って同じ水のベッドの中から顔だけ出して寝てると、棺桶にも見えてしまうな。縁起でもない。


ん? ん?

クロミのところが!


「おい! クロミ! 起きろ! 大丈夫かよ!」


水が真っ赤に染まってやがる! いつの間に怪我なんかしたんだよ!


「おい! クロミって! 起きろ!」


『乾燥』


とりあえず水のベッドを解除して……

『浄化』

服もきれいにして……

さあ傷口はどこだ……


「カースぅ……どうしたの……?」


アレクが起きてしまった……つい大声出してしまったもんな。


「大変なんだよ! クロミが! 血塗れで!」


「ええっ!? こ、これは……」


「ど、どうしよう! 傷口が分からないんだよ!」


「ちょっと待ってね……これってもしかして……」


アレク、分かるのか?


「カース、後は私に任せて。ちょっとクロミを奥に連れていくわ。」


「う、うん。大丈夫?」


「問題ないわ。カースはもう寝てていいわ。」


「そ、そう。頼むね。」


アレクが大丈夫って言うんなら大丈夫だよな。私も寝るかな……

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