1610話 赤兜とアレクサンドリーネの奮闘

へー。ムラサキメタリックの剣はやっぱ斬れ味いいなぁ。スパスパ斬ってるし。剣の腕も悪くない。腐っても騎士なんだな。


大小様々なアンデッドに対して防御も何も知ったことかと力尽くで斬りまくる赤兜。なるほどねぇ。よっぽど相性の悪い魔物でもない限り、そうそう苦戦しそうにないな。でもまあ、体力の問題は別だよね。




「はあっ、はぁはぁぐっは……」


「なんだ、もう疲れたのか? じゃあ次は……」


「カース、私が行くわ。」


「分かった。気をつけてね。」


うーん、心配だな。でもアレクにもいい経験だよね。


「カズマカズマカズマ!」


むっ、アレクが離れた途端アーニャが私の左腕にしがみついてきた。まさか鬼の居ぬ間に洗濯なんて気じゃないだろうな……

まあいいや。どうせ私は歩くだけだ。安全地帯に着くまでは自由にさせてやろう。目の前ではアレクが魔物と戦っているというのに……


アレクはすごい。氷斬などの斬れる系の魔法を多用しアンデッドの手足を、時にはいきなり首を落としている。もちろんここの階層に現れるほどの魔物だ。一撃でスパッと首が落ちるなんてことはそうそうない。それでもアレクは同じ箇所に何発も重ねて撃ち込むことで威力を倍増させている。それも同一の方向からでなく、様々な方向から。それなのに着弾のタイミングを合わせるとは、アレク凄いぞ。

そのせいで魔物どもも避けにくく防ぎにくいようだ。たまにごっつい盾を持ってる魔物もいるが、盾を持つ手なんかを斬り落としてるし。アレク上手い!


ちなみに斬り落とした首はカムイが嫌そうに踏み潰している。アンデッド戦はそこまでしないと終わらないもんなぁ。

カムイも忙しいよな。罠を警告して、道を選択して。時には魔物の足元を軽く斬ったりしてアレクをアシストしている。何度かアレクの魔法に巻き込まれそうにもなってるが、さらりと躱してるし。やるよなぁ。




「よお魔王。今さらだが女神の服装はお前の趣味か?」


ドロガー、最後尾の警戒はどうした。あ、クロミが行ってる。


「おう。最高だろ?」


ヒイズルに来てからアレクのようなミニスカートをはいてる女の子なんて見たことがないしね。街の中を歩くのに考えられないレベルの露出度だろう。


「ありゃあローランドでは当たり前なんか?」


「そんなわけないだろ。一応流行ってることは流行ってるがな。アレクほどの貴族があんな服装するのは有り得んな。」


魔槍ベルベッタさんの影響か女性冒険者の間では流行ってるそうだが、あんまり見たことがないんだよな。エロイーズさんぐらいじゃないか?


「ほぉーん、いい趣味してんぜ。」


「だろ? 上下ともドラゴン革だからな。俺のウエストコートとお揃いだぞ。」


「知ってるっての……」


ちなみに私は相変わらずドラゴンのウエストコートを着ている。穴が空いてるからサウザンドミヅチの方にしようかとも思ったが、やっぱ物理的な防御で頼りになるのはドラゴンだもんなぁ。二枚重ねでもいいけど、さすがにダサい。それに動きにくくなっても本末転倒だしね。


「おっとぉ。」


ドロガーの一閃。

通路がそこそこ広いからな。いきなり私たちの横に魔物が発生することもある。今のはオークゾンビか。落とし物は魔石。まあ悪くないだろう。


それにしてもこの先また、見えない壁なんか出てきたら嫌だなぁ。イグドラシルの棍でぶち壊せないかやってみようか……なんせこっちはコーちゃんを失ったんだ。それぐらい許されると思うんだけどなぁ……

いや、でもアーニャのことがあるし……神の機嫌を損ねるわけにはいかないし……

あぁもー、悩ましいなぁ。




「カースぅー! 安全地帯が見えたわよー!」


「分かったー! 最後まで気を抜かないでね!」


言うまでもないだろうけどね。それにしてもアレクはよく頑張ってるよな。相当魔法が使いにくいだろうに。それに、よくここまで魔力が持ったものだ。偉いなぁ。


『氷塊弾』


安全地帯の前に立ち塞がる最後の魔物、オーガゾンビがぶっ飛んだ。奴は壁と氷塊に挟まれぐちゃっと潰れ、後にはコロコロと魔石を落とした。それをカムイはこっちに蹴り転がす。普段なら咥えて持ってきてくれるのに、さすがのカムイもゾンビの魔石は嫌なようだ。魔石は無味無臭なはずなんだけどね。


さて、ようやく安全地帯だ。中に入る前に全員に『浄化』

ゾンビだらけだったからね。きれいにしておかないと。


「アレク、大丈夫? 凄かったね!」


「本当に疲れたわ……やっぱり迷宮は甘くないわね……」


だよなぁ。見た感じ魔力がほとんど残ってないもん。でもこの階の傾向は分かったことだし、残りは一気に飛ぶのも悪くないかな。まあ、休憩が終わってから考えればいいか。ふぅ、歩くだけでも疲れるんだよな。何もしてないようで二、三時間は歩きっぱなしなんだからさ。


「金ちゃん少し寝たら? ほらほらこれでー。」


おおー、クロミの水ベッドか。リラックスできるんだよなぁ。


「悪いわね。お願いするわ。」


ここの安全地帯は広い。アレクとクロミは奥の方へ移動していった。ならば私たちは食事だな。そんなに腹はへってないけど、冒険者とは食べられる時に食べておくものだからな。




「魔王よお、カゲキョーは地下五十階までっつー話だったよなぁ。」


「おう。そう聞いたぞ。」


「こんな階層があと十近くもあるたぁ嫌になるがよぉ。あと十しかないと考えるべきか、どうなんだろうなぁーと思ってよぉ。」


「さあな? あっちは四十五階ぐらいから魔法が使いにくいエリアだったから、それよりはキツいんだろうけどな。」


「そう考えりゃあ赤兜どもが大軍で押し寄せりゃあ楽勝な気もすんがよ? あー、もしかしてよ? だからここの神は三十九階にあんなもん用意してやがったんかもなぁ?」


なるほどね。四十一階から魔法が使いにくくなる。だが赤兜どもにはあんまり関係ない。それが神としては面白くないってとこか。ほーんと器のちっせー神だな。まあ、この考察が正解かどうか分からないけどさ。そもそもてめぇがムラサキメタリックの原料を宝箱に用意したんじゃないのかって話なんだがな。あ、もしかして神ってバカなのか? うーむ、ありえるな。

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