1613話 戦う男たち

それからおよそ三日が過ぎた。しかし依然としてクロミの体調は回復しない。

だが、私もアレクも魔力が満タンにまで回復している。特に私なんかは久々の満タンな気がする。どこか気分が最高にハイっなところもある。今なら悪食ですらブチ殺してやれそうなほどに。

実際あいつと相対したらどうするのがベストか……ムラサキメタリックですらボリボリと咀嚼したって話だからな。口の中は無敵なのかも……ならばどうにかしてあの口を閉じさせるか……

逆にどんだけ飲み込めるか試すのもいいかも知れないに。『津波』なんかでさ。

他には……『超圧縮業火球』なんてどうだろう? 通路なんかで使うとこっちも危ないけどさ。あんなのを飲み込ませたら効きそうな気もするが。それともモノに関わらず、吸い込んだものは全てどっか別のところに行ったり、血肉として吸収できるとか?

うーん、分からん。分からんから迂闊に出遭うとやばいね。カムイの魔声が効いたってことは完全に無敵ってわけでもないんだろうけどさ。どうしたものか……


「はいカース、お待たせ。」


「おっ、ありがと。うーんいい匂いだね!」


朝食はアレクのミネストローネ風味噌まいそ汁。色んなバリエーションがあるもんだなあ。おっ、やっぱおいしいな。


「ねぇ、ニンちゃんさ……」


「ん? どうした?」


クロミがやけに元気のない声を出しやがる。


「どうも今回のは長引きそうだし……何ならウチだけ置いていってくれても……」


なんだよ今回のって。毎回違うってのか?


「置いていくぐらいなら乗せていくぞ。アーニャと一緒に座っておけばいいさ。」


「で、でも、ウチ、しばらく何もできないし……」


「一人も二人も変わらないさ。あんまり気にすんな。よし決めた。明日出発しよう。クロミはボードに座ってな。」


あんまりのんびりしすぎて悪食が現れるのも怖いけど、クロミが珍しく落ち込んでるからな。先に進めば少しは気が紛れるだろ。


「ニンちゃん……」


「まあ正確には全員でミスリルボードに乗るから今までの攻略と違いはないんだけどな。」


「うん……ありがと……」


それにしても、いつも無駄に明るいクロミのこんなにもしおらしいところを見てしまうと、ギャップにやられ……るわけないか。クロミはクロミだもんな。




「赤兜ぉ、相手しろやぁ。」


「ああ……」


この二人はこの三日間、よく打ち合っている。純粋な剣術でも、総合的な対戦でもドロガーの方が強い。やっぱ五等星は違うね。

だが……


「よぉし、次ぃ! ムラサキ纏えや!」


「ああ……」


一度ひとたび赤兜がムラサキメタリックの鎧を装備すると……


「ちっ、くっ、おらぁ!」


「…………」


「ふんぬっ! はあっ! ほっ!」


「…………」


「くっそ、おらぁくらえ!」


「きかん……」


さすがに剣はおろか魔法まで使っても勝負にならない。おまけにドロガーお得意のロープワークもすっかりバレバレときた。一日目なんかはそれで足をくくって勝ったりしてたんだけどな。


「ちっ、参った……」


赤兜がドロガーの脇腹に剣を突きつけている。さすがにフル装備のムラサキメタリックには勝てんわな。


「ガウガウ」


あらら、カムイもやりたいの? いいけど怪我させるなよ? 治癒できる人間がいないんだからさ。

もしあの時、タイミング悪くクロミが魔法を使えない時だったら……私たちは全滅してたんだろうなぁ。やっぱ明日の出発やめよっかなぁ……


「カムイがやりたいってさ。相手してやってくれよ。」


「いいぜぇ。どっちとやりてぇんだ?」


「ガウガウ」


マジかよ。


「二人同時に来いってさ。」


「はっ、そりゃあ俺も舐められたモン……おらぁ!」


おっ、ドロガーやるね。いきなり網をばら撒きやがった。赤兜を巻き込むことなんか何とも思ってやがらん。


「くっ……」


必死に避けた赤兜。それじゃあダメだよ。


「ガウ」


赤兜が避けられるならカムイが避けられないはずがない。赤兜は避けるのではなくカムイを押さえ込むべきだったのだ。打ち合わせなしでそれをやれってのは無茶な話だけど。


「くそがっ!」


避けたカムイは間髪入れずドロガーに頭突き。どうにか籠手で防ぎつつ受け流したようだが……


「ガウ」

「ぐがっ!?」


ドロガーの右手側に流されたカムイだが、両前脚で体を支えて……後ろ蹴り!? 丸まった背筋を伸ばす動きか。やるなぁ……ドロガーったら背中を蹴られて三メイルは飛んだな。


「隙あり……」


体を伸ばしきったカムイに赤兜が襲いかかるが……


「ガウ」


だらりと力を抜き、床にぺたり。背中を狙って振り下ろされたムラサキメタリックの剣がギリギリを掠めた。危な……

もし今の赤兜が普通に斬るつもりでなく薪割りのように叩き割る動きをしてたら危なかったぞ……まあカムイはそこまで読んで下に逃げたのかも知れないけどさ。




それからは二人がバテて倒れるまで対戦が続いた。途中惜しい場面もあったんだよな。カムイが放置されてた網の上にいた時に、ドロガーが端を引っ張ってさ。珍しくカムイがよろけるところが見れた。あの一瞬の隙を活かせないから勝てないんだよなぁ。いや、そりゃあさ、なら私に魔法なしでやれって言われても無理だけどさ。


「ガウガウ」


もー。私も相手してやるって? 頼んでねーっつーの、もー。やるけどさ。






もーだめ……めっちゃ疲れた……

カムイは速すぎる……

今日のところは引き分けにしといてやるよ……


「カース、お風呂入る?」


「う、うん……でももう少し後で……」


「じゃあ、はいこれ。」


「あ、ありがと……」


はぁー冷たくて美味しい……これはオワダのオラカンを絞ったものか。疲れた体に沁みるね。


おっ、これまた珍しい。クロミがカムイと風呂に向かってる。カムイは愚痴を聞かせる相手には最適だが。たぶん違うな。普通にカムイのために行動してるっぽい。今、自分にできることをするってわけか。偉いな。


やっぱ明日出発しようかな。

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