1604話 地下四十階

魔力ポーションを二本飲んだ。これで一割ちょいぐらいは回復した。頭痛はおさまらないが、どうにか安全地帯までは持つだろう。


さっきまでの私はどうかしてたな……

いくらコーちゃんを失ったからって……

今、私が暴走したらアレクだって失いかねない……しっかりしないと。ここは魔境と同じく、容易く命が消し飛ぶ迷宮なんだから。


「カムイ、先頭を頼む。ドロガーは後ろの見張り。他は全員ボードに乗ってくれ。」


「ガウガウ」


「おうよ。」


カムイ、今のお前にはキツいだろうが……頼むぞ……


「ガウガウ」


氷柱ゴロゴロでもいいが、ここは気を引き締めなおして安全策だ。コーちゃんの直感やカムイの嗅覚の方が私なんかよりよっぽど信用できるもんな。


さて、この階の魔物は……ちっ、最低じゃん……レッドキャップゴブリンゾンビって……

どんだけここの神はアンデッドが好きなんだよ……


「ガウガウ」


分かってるよ。戻ってこい。代わりに……『火球』


普段のカムイならともかく、今のカムイにはあのクラスのアンデッドはキツいよな……

首を斬り落としてからきっちりと踏み潰さないといけないのに、近寄るとかなり臭いし。


結局、氷柱ゴロゴロで行くしかないじゃん。




ちっ、くそ……さすがにレッドキャップは上級ゴブリンだけあって私の巨大氷柱でも容易く叩き割りやがるか……アンデッドになってパワーも数倍になってやがる。だが、さすがに腕は壊れるのか。もちろん私がやることに代わりにはない。燃えちまえよ……『火球』


せっかく安全地帯までは魔力を節約しながら行こうとしていたのに。そりゃあ火球や氷柱、浮身や風操ぐらいならどんだけ使っても魔力量的には大した消耗じゃないけどさ。

しかし魔法制御的にはそこそこ負担なんだよなぁ……あー頭が痛い。


くそ、罠が少ないせいかレッドキャップどもが次々に現れやがる。中には出会い頭に斧やら剣やら投げてくる奴らも。今の私は自動防御を張ってないからな。あれは他の魔法と違って消費が桁違いだもんな。今日のところはとても張れない。

だから地道に防いでいる。私がミスリルボードの先頭に立って。


「なんだぁ魔王そりゃ?」


「見ての通り盾さ。」


ただし腕に装着するタイプではなくて握り込むタイプだけどな。大きさだって直径三十センチぐらいしかない。


「どう見てもただの盾じゃねぇな。何で出来てやがる?」


「オリハルコンさ。」


ヒイズルにムラサキメタリックがあるなら我がローランド王国にはオリハルコンがある。これはこれで魔力と相性がいいとは言えない金属だが強度で言えばきっとムラサキメタリック以上だ。よって私の盾は最強の盾だ。

そういえばこの盾って名前を付けてなかったなぁ。何がいいか……


「何ぃ!? オリハルコンだぁ!? 聞いたことあんぞ! ローランドの王族にしか錬成できねぇ究極の金属なんだろぉが!?」


こいつ、もの知りだなぁ。


「おお。そのオリハルコンだわ。」


「なんで今まで使わなかったんだ……って魔王の戦闘スタイルには合わねぇもんなぁ。くっ……さすがにいいモン持ってやがんなぁ……」


「カースは先王様からも今代の国王陛下からも可愛がられているのよ。」


アレクがドヤ顔してる。こんな時だけど、かわいいなぁ。


「ほぉん……魔王の名前は伊達じゃねぇんだなぁ……」


「龍王ヘルムートですらカースは無視できないんだからね?」


「龍王ヘルムート? さすがに知らねぇぞ? 聞くからにヤバそうな名前じゃねぇか……」


あー、あいつか。代々国王の召喚獣になってるドラゴンね。暴風龍ヘルムートって言ったっけ。 テンペスタドラゴンだったかな……


コバルトドラゴンにクリムゾンドラゴン、カムイが仕留めたマスタードドラゴンにまだ見ぬヴェノムドラゴン。そしてクラウディライトネリアドラゴンか……色んなドラゴンがいるもんだよなぁ……

フェルナンド先生と引き分けたレッドドラゴンもいるし。その中でも幼体とか成体とかいるんだろうなぁ……私が倒したコバルトドラゴンとクリムゾンドラゴンはあんまり大きくなかったんだよな。幼体かな……手強かったけど。

おおそうだ。忘れちゃいけない。私がノワールフォレストの森、ドラゴンダイブの滝で仕留めた大きな奴、エメラルドドラゴンだっているもんな。




アレクがドロガーに私の自慢を延々と語ってる。照れ臭いがアレクが楽しそうだと私も嬉しい。


「ガウガウ」


おっと、悪い悪い。あそこを右だな。


「ガウガウ」


おお、もうすぐなんだな。カムイもここまでよく頑張ったな。着いたら手洗いしてやるからな。


「もうすぐ安全地帯に着くぞ。でも最後まで油断するなよ。」


今までのパターンからすると安全地帯が近いからって罠が凶悪になったり魔物がどっさり現れたりなんてことはなかった。まあ、それだけに油断はできないんだけどさ。


ふう……本当に疲れた……安全地帯に着いたら、風呂より飯より先に……寝よう……


くっ、安全地帯は目の前なのにレッドキャップゴブリンゾンビの群れかよ。気持ち悪いなぁ……『業火球』


よし、終わった!


寝るぞ! 安全地帯に到着だ!

もう寝て寝て眠りまくってやるからな!

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