1603話 悲しみのカース、三十九階のボス

「ちょっとニンちゃんまだぁー? いい加減にして欲しいんだけどー?」


悲しいから泣いて何が悪いってんだ……くそ。


「うるせぇよ……別に平気だし……全員乗れよ……」


よし、見た感じ一本道だし、ひき逃げアタックで一気に行ってやるよ……


「あんま無茶すんなよ? 罠だってあんだろうからよぉ……」


罠だったらコーちゃんが……




いない……


「ガウガウ」


おお、カムイ……頼りにしてるからな。お前は死ぬんじゃないぞ……


『氷柱』


罠があろうとなかろうと、こいつを転がしながら進めば関係ない。出会った魔物は全部轢き殺してやるからな。ここのボスも、ここの神も……絶対許さん……




いくつもの分かれ道はあったが、カムイの言う通りに進むとボス部屋に着いた。たぶん他の見えない壁を通過しても行き着く先は同じなんだろうな。それにしても三十九階か……妙なタイミングで変な罠が出てきたものだ。四十階のボスは急に強くなるって話だったが、ここのボスは強いのだろうか。

表面上は元気だが、全員とっくに限界だからな。本当ならじっくり休んでからボスと戦うところだが、この階にはもう居たくない。休むのは四十階の安全地帯に着いてからだ。


「どうすんだ? 魔王やるか?」


「ああ、俺がやる……ドロガーは休んでな。」


いつものように扉を開けて、中に入る。いつも通りのボス部屋だ。さて、どんなボスが出てくるのやら……


ん? この音は……


まさか!?


いきなり、普段私たちが通って下の階に降りるはずの扉が開いた。そこから姿を現したのは……


「お、おい魔王! 悪食あくじきじゃねぇか! どうすんだよ!」


くっくっく……まさかこんなに早く再会できるとはな……

あれ? でもさっきのあいつより小さいぞ? 口の大きさからして半分ぐらいしかない。舐めやがって……まともな戦いにするためには、このサイズでないと無理だと思われてんのか……


「全員壁際へ、一ヶ所に固まってて。」


コーちゃんの仇だ。お前ごときじゃ釣り合わないけどな。


暗黒大穴ブラックホール


ふん、終わりだ。一瞬にして全身を吸い込んでやった。全長二十メイルってとこか。大したことない。どこがノヅチなもんか。ただのぶっとくて口がキモい蛇じゃん。


でも……

くそ、頭が痛いぞ……一発で魔力が空っぽになってしまったか。無駄遣いも甚だしいな……

だが分かったことがある。今のこいつ、やはり本物の悪食に比べるとかなりの雑魚だ。

禍々しいプレッシャーも、抗いがたい吸引力もない。本物と比べると子猫みたいなもんだ。舐めやがって……ボス部屋に出てくるレベルではないな。


「カース、大丈夫?」


「うん、ちょっと頭が痛いかな。つい限界まで魔力を使っちゃったよ。アレク、ボードを頼める? 少し休みたいかな。」


本当はかなり痛い……


「ええ、任せておいて。」


「おい魔王、あいつ短剣落としてんぜ。拾っとけよ。」


「いや、いい。ドロガーにやるよ。」


あんな奴が落としたモンなんか要るかってんだ。それにドロガーは大活躍したもんね。


「ふーん、そんなら貰っとくけどよ。おっ、これ結構いいやつだぜ。しかもこいつぁ……クロミ、見てくれや。どう思う?」


「えー? へー、おっもしろーい。これ魔力吸引できるやつじゃん。まあ吸引ってか強奪的な? ヨッちゃんと相性いいんじゃない?」


「ああ、そうだな。悪いな魔王。いいもん貰っちまってよ。」


へー。斬りつけた相手から魔力を奪うってのか。えげつないなぁ。しかもドロガーの場合は痛覚数倍もあるしね。激痛を与えつつ魔力も奪うってのか。マジでえげつないじゃん。

魔力吸引なら私もサウザンドミヅチのウエストコートとトラウザーズに付いてるんだよな。やっぱマウントイーターの魔石でメンテナンスしてよかったよなぁ。

あ、てことはさっきの見えない壁ではドラゴンじゃなくてサウザンドミヅチの方を着てたら意外と無傷だった可能性もあるのか? 上手くいかないもんだよなぁ……くそ。


「残念ながら魔物から奪える程度の魔力じゃあ足しにならないからな。上手いこと使ってやってくれ。」


でも、そいつでドラゴンなんかぶっ刺したら相当回復しそうではあるな。刺さればの話だけど。これ以上ポーションを飲めない時には重宝するかもね。


さて、いよいよ四十階か。いい加減休まないと……体力も魔力もヤバい。全員これ以上ポーション飲むのはマズいし。




「一気に広くなりやがったぜ……」


ドロガーがそう唸るのも当然だ。

今までの通路が一辺五メイルの正方形を立てた形だとすれば、この階は一辺十メイルはある。無駄に広い。


「アレク、魔力はどれぐらい回復してる?」


「一割もないわね。」


当然か、というよりさっきの今でよくそこまで回復したものだ。


「クロミは?」


「ウチもだしー。つーかヤバいし。魔力ポーション飲み過ぎて頭おかしくなりそうだし。」


くっ、いくらダークエルフでもポーションを飲み過ぎると危険なのは同じか。しかも今回クロミが飲んだのはアレクの、つまり人間のだもんな。そりゃあ調子も悪くなるか……


カムイは魔力、体力ともほぼ空っぽ。ドロガーと赤兜は体力はどうにかある方だが魔力はほぼゼロ。私が踏ん張るしかないな……

くそ、ついムカついて暗黒大穴なんか使うんじゃなかった……

あんな奴が現れるから……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る