1601話 見えない壁の攻略法

寒い……私は助かったのか……

裸……頭が痛い……


「魔王ぉ! てめぇやっと起きやがったか! 遅ぇんだよ! 何とかしろや!」


うるせぇなドロガー……


「しゃっきりしろや魔王ぉ! 女神ぃ殺す気かぁ!」


「あ!? アレクがどうし……アレク!」


なんだこれ!? アレクの手が、両方とも、逆方向に……しかも、なぜか素肌にウエストコート……めちゃくちゃセクシー……いやいや! 腕が! アレクの白く美しい腕が! バキバキじゃん!


「ボケっとしてんじゃねえ! あいつが来てんだよぉ!」


あいつ……何いっ!? あんなとこに悪食が!? マジかよ! どうしろってんだよ!


「何とかしろや! こっちぁ見えねぇ壁でもう後がねぇんだよ!」


くそっ……無茶言うな! 死ぬほど頭が痛いってのに! ああでも! 奴が迫ってるし!


「そうだ! クロミだぁ! クロミなら何か分かってるかも知れねぇ!」


クロミ? 右肘が真反対に曲がってやがる……どうしたってんだよ……まあいいや。今それどころじゃない……

悪食が迫ってやがる……キモい口をいっぱいに広げやがって……ぶち殺してやりたい……

でも、魔力がない……一割どころか、三分もない……


「ドロガー! クロミを起こせ! 方法は任せる!」


「何ぃ!? くっそがぁ! やったらぁ!」


その間に私はアレクを! くそ! 両腕が……


「ピュイピュイ」


おおコーちゃん! 大丈夫かい!? えっ? カムイが!?


ん? そっちは見えない壁だよな? だがカムイの下半身が壁に入り込んでる!? こ、これは……


引っ張ると抜ける。押し込むと入る。だが、カムイの首から上は入らない……なぜ……あ! もしかして首輪があるからか? ちょっと外してみよう……


いけた……カムイは全身が見えない壁に入り込んだ……

条件は何だ……首輪はだめでカムイはいい。

私の手は……もちろん通らない。コーちゃんも。




『激痛』


「あぎゃぎゃぎゃぎゃいいいいいーーーー!」


おっ、クロミが目を覚ました。ドロガーやるじゃん。


「クロミ! しっかりしろ! お前が治してくれたんだろ? ありがとな。で、あれを見ろ!」


「ひいぃ……めっちゃ痛いし……あっ! ニンちゃん起きたの!? もー! 心配かけすぎ! あれって……え!? 狼殿が!?」


「そうだよ! カムイは首輪を外したらあっちに行けたんだよ! 俺の腹をぶち抜いた何かと今のこの状況、そこら辺から何か思い当たることはないか!?」


もうマジで時間がない……


「あの時……そう! そうよ! あれって何だかさ! 魔力だけが跳ね返ってきたって感じだったし! ニンちゃんが撃った何かは壁の前に転がってたし!」


魔力だけが? ミスリルの徹甲弾が跳ね返ってきたわけではない……まあ、もしあれがそのまま跳ね返ってきたんだとしたら私の腹にも大穴が空いてたんだろうか……いや、違うな。たぶん盛大にぶっ飛ばされてたんだろうな。どっちの方が重傷かは……分からんな。

あれに込めた魔力だけが跳ね返ってきたから、私はどうにか命を取りとめたんだろうか。


『風弾』


試しに軽く撃ってみたら、やはり返ってきた。この見えない壁は魔力を跳ね返すってことか? 赤兜どもはあんまり魔法を多用しないから試してもなかったってことか。刃物などの武器ではいくら攻撃しても無反応ってことか。


ならばカムイが向こう側に行けた理由は……


「クロミ、もしかしてカムイって魔力が空っぽじゃないのか?」


カムイに何があったのかは分からんが……


「そう! そうだよ! めっちゃすごい魔声であいつを止めてくれたし!」


「なるほど……」


すごいなカムイ。どんだけすごい魔声を使ったんだよ。全魔力を一気に放出したんだろうな。


ならば……


「クロミ! 裸になれ! 裸になって全魔力を放出しろ! それでも根性で意識を保て!」


「えー!? ニンちゃんに見せるんなら別にいいけどぉー……今そんな時じゃなくない!?」


「いいからやれ! もう時間がないんだからよ! ドロガーはアレクを起こせ!」


「もぉーニンちゃんたらぁ! そんなに見たいなら見せてあげるし!」


「知らねーぞ! 叩き起こすからな!」


問題はアーニャだな……どうしよう……

普通、平民は魔力放出なんて使えないからな……くっ、両脚とも折れてるのか……


『魔力放出』


「あーもう……めっちゃ頭痛いし……どう、ニンちゃん……ウチの身体、きれい?」


「おう。いい体してんじゃないか。あ、そうだ。『魔力吸引』使えるか?」


「あー、ちょっとなら……」


「アーニャの全魔力を吸い取ってくれ。そしたらまた空にして。」


「分かったし……もー、頭痛いのに……」


よし! アレクはどうだ!?


「あがぁぁぁぁぁぃぃひいぎぃーーーー!」


なんと……アレクが普段出すはずのない声を……


「アレク! しっかりして! 大丈夫!」


「はぁっ、はあぁっ……カース! カースなのね! やっと、やっと目を……」


「時間がない! アレク! 今すぐ裸になって全ての魔力を放出して!」


「えっ!? こ、ここで……ドロガーが見てるし……で、でもカースがしたいなら……」


「違うから! あいつがもうそこまで来てるんだから! 早く!」


「あ、そ、そうよね!」『換装』『魔力放出』


くっ……私やクロミの魔力放出なら一瞬で空っぽにできるのに、アレクは多少時間がかかるのか……

だが、この分なら……きっと間に合う!


残り二十秒ぐらいか……


「ニンちゃん! 黒ちゃんの魔力全部吸ったし!」


「よし! よくやった! じゃあクロミ、もう一回魔力放出をしたらあっち側に行け!」


「わ、分かったし!」


「そういうことかよ! さすがぁ魔王だぜぇ! やっと分かった! おう赤兜ぉ! その女の服ぅ脱がせろ! そしてお前も裸になれや!」


「あ、ああ……!」


ドロガーめ、気が利くじゃないか。あとは……


「コーちゃん! 魔力を空っぽにできる!? それからその首輪、外せる!?」


「ピュイピュイ」


なん……だと……

同命の首輪は外せるけど、オリハルコンの首輪は外せない!? すでに首と一体化してるからって……そんなバカな!

いや! 無理なはずがない! 待っててコーちゃん!


「ニンちゃん! 通れる! 通れるし! 早く!魔力を空にして! 裸になれば通れるし!」


よし! やっぱりか!


「アレク! 魔力が空になったら先に行って! 早く!」


「分かったわ! でもカース! カースも早く!」


「いいから早く!」


くそ……嫌な音がどんどん大きくなりやがる……


きゅるきゅると回転するような音。

ごうごうと何かを吐き出すか吸い込むような音。

ぎいぎいと何かをこするような音。

おまけに臭い……胃の中から腐ってるような異臭……残り五秒ぐらいか……

くそが!

キモい口を開けやがって……その奥は暗闇が広がってやがる……

マジでノヅチみたいな奴だな……ノヅチよりはだいぶ小さいけど。


お前なんか私の魔力が全快してたら……


「ドロガー! 赤兜! アーニャを頼むぞ!」


「おう! って魔王! お前何やってんだぁ! さっさと来いや!」


いくよ、コーちゃん。


『換装』


まずは裸になって……

そして……


『金操』


残り全魔力を込めて!

オリハルコンの首輪を広げる!


コーちゃん、一緒に行くよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る