1597話 透明な壁
次の瞬間、私たちは安全地帯から弾き出されてしまった。見えない何かに……
コーちゃんの警告もあり、とっさにアレクの身を抱きしめることはできた。そんなアレクの手にはアーニャの手が握られている。
「ぎゃああああああああーーーー! こ、これだ! あの時も! こんな風に! 来る! また来る! あ、あいつが来るんだぁぁぁぁーーーー!」
ちっ、さっそくこいつの巻き添えかよ。一度は安全地帯への立ち入りを許したくせに、えらく狭量な神だぜ……
「カムイ! どっちだ!」
「ガウガウ!」
よし、そっちだな。
悪食なんぞ無視だ。ボス部屋にさえ行けばいいんだ。こっちにはカムイがいるからな。ボス部屋には最短ルートで行けるんだ!
「全員乗れ!」
ミスリルボードなら、鈍行なんぞに追いつかれることはない。
「てめぇもさっさと乗るんだよぉ!」
「あ、ああ……」
ほほう、ドロガーめ。面倒見がいいじゃないか。
「クロミ! あいつの気配を感じたらすぐ言ってくれ!」
「分かったし!」
「ピュイピュイ」
コーちゃんもありがと! 頼りにしてるよ!
幸い、ヤツの姿は見えない。先ほどは私たちの進行方向に向かったようだが……
「ガウガウ!」
ちっ、左折のできない丁字路か……しかもボス部屋に行くには左折をしないといけないのか。見えないバリアが張られているかのように、左側へは進めない。だから赤兜どももボス部屋へ辿り着けなかったのか……?
詳しく話を聞いておくべきだったな……
「おい赤兜! お前らのムラサキメタリックの剣でもここに傷を付けることはできなかったのか?」
「あ、ああ……迷宮の壁と同じく、傷一つつけられなかった……」
ちっ、そうだろうな。くそ、ここの神はどんな試練を与えたいんだよ。知恵で通過させたいのか、力で突破させたいのか……どっちだ。
いくらボンクラだろうと赤兜が一ヶ月近く探索しまくって到着できてないってことは、全通路を走破したぐらいでは着けないってことだ。そして基本的に安全地帯は各階層に一ヶ所、先ほどの安全地帯に入れなければいずれ悪食と遭遇してしまうことになる。もっとも、この迷宮は一方通行ではないんだから前の階に戻ることはできる。
その道順は分かるよなカムイ?
「ガウガウ」
よし。
「たぶん、ここみたいな透明な壁はいくつかあるはずだ。そして、そのどこかを通らなければボス部屋へは行けそうにない。意見が必要だな。特に赤兜! お前らがここでやったことを全て言え!」
「あ、ああ……」
ふむふむ……
罠の一種だと考えて、解除できないか周辺の壁や床、天井までチェック済みか。他の罠が作動しただけでバリアに影響なし。
だけ?
たったそれしかやってないのか!? 一ヶ月もかけて!?
その程度かよ……それって案外ここの神がこいつらの無能っぷりにイラついたってことはないよな?
「ピュイピュイ」
くっ、どこでも入り込めるコーちゃんですら通れないのか……
「一応最後の手段としてはこの棍でぶち壊せないか試してみるが、なるべくなら使いたくはない。」
神の怒りを買うわけにはいかないからな。くそ……だんだんムカついてきた。
「カース、一度だけ全力で撃ってみてくれない?」
「分かった。やってみる。」
アレクの意見は私より数倍信頼できる。
「まだよ! クロミ、カースの魔法が当たった瞬間をしっかり感じとって!」
「分かったし。」
クロミもか。きっとアレクには深い考えがあるんだろうな。では、魔力ポーションをアレクに渡してと。
……今できる貫通最強の魔法と言えば……
『電磁徹甲魔弾』
ミスリルの徹甲弾を超加速。加速のための距離を開けて、真正面から放った。残った魔力を全て込めて。
倒れそうになる私に、アレクが魔力ポーションを口移しで飲ませてくれた……
やったか……
「ちょっとおおーー! ニ、ニンちゃん! そ、それ!」
「ん?」
クロミが私の腹を指差している。何だ? はあっ!? ばっ、そんなバカな!
腹に穴が空いている……ドラゴンのウエストコートを貫通して……バカな……ちっとも痛くな……くっ、徐々に痛みが……
「カース! そんな! だめ! いや! だめよだめ! だめなのカース!」
「どけぇ女神! おうクロミ! さっさと脱がせんぞぉ!」
「ま、待て……脱がせるな……クロミ、服の穴から手を入れて治癒できるか……アレクはポーションを……」
このウエストコートとシャツを脱いだら出血がもっと酷いことになる……くそ、腹が焼ける……痛みが……
「できるし! 金ちゃんはポーション飲ませて!」
「あ、わ、わたしが、あ、ああ、あんなこと言ったから、か、カースが……」
いいから、アレク、ポーショ……
「ギャワワッギャワワッ」
「おいやべぇぞ! 悪食が来てんぞぉ!」
くそ……どっちからだ……
「金ちゃん早く!」
「ピュイッ!」
コーちゃん何を……アレクの首に……噛み付い……
「ガフッゴホッ、ハアッハァ……」
「ニンちゃんが血を吐いたし! やばいって!」
ぐふっ……息が……
「くそがぁ! 行くぞ赤兜ぉ!」
「あ、ああっ!?」
ドロガー……何を……
だめか……意識が……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます