1591話 戦士たちの休息

ドロガーの野郎、うまいこと私の装備の隙間を狙ってきやがった。当たり前か。おー痛い。


「カース、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。ちょっと痛かっただけだから。」


細かい切り傷や打撲はいくつもあるが、骨折なんかはしてないもんな。さすがに五等星を相手に目隠しはやり過ぎだった……

だが、いい稽古になった。こうやってコツコツと……いつかフェルナンド先生のように……


ん? 無理じゃない?

先生は目隠しで私の狙撃スナイプを防ぐんだぞ? 至近距離で、なおかつライフル弾並みの速度だってのに……

うーん……先生が遠いぜ……


「なあドロガーさぁ。」


「ん? なんだ?」


『狙撃』


「あぎゃっ! 痛って! バカ! この魔王ぉ! 何しやがんだぁ!」


「うーん、やっぱそうなるよなぁ。」


頬を掠めた程度だ。当然ドロガーは反応すらできていない。


「あ? なんだぁ?」


「さっきの話さ。うちの師匠の剣鬼は今のそれを弾くんだよ。化け物すぎるだろ?」


「はぁ? 今のやつをか!? 弾くってどうやってだよ!?」


「なんか木刀とか太い棒とか使ってたなぁ。あ、弾くだけじゃなくて斬ったりもする。もう一回やってみるか?」


「い、いや……やめとくぜ……」


「しかも目隠ししたままな。もう意味分からんわ。それがうちの無尽流『心眼』なのさ。俺は未だに全然できないけどな……」


はーあ……


「はーん……世の中にぁすげえ奴がいくらでもいんだなぁ……」


「ヒイズルには誰かいないのか? お前とキサダーニはだいぶ名前が売れてるみたいだけど。」


「あー、昔はそれなりに居たんだけどよぉ。ほれ、天王に対する反乱でよ。どいつもこいつも死んじまったぜ。」


あー、三回ほど反乱が起こったんだっけ?


「ふーん。それはそうと、飲むか?」


今日はしっかり休む日だからな。


「いいんかよ。飲もうぜ。お前も飲めよな?」


「ニンちゃんウチもー!」


「ピュイピュイ」


私はそこまで飲む気はない。アレクとイチャイチャする気まんまんだからな。


「ほれ。がんがん飲んでいいぞ。」


アラキでゲットした酒を樽ごと置いておく。


「ガウガウ」


カムイは朝から風呂かよ。それもいいなぁ。




「ういっ、ひっく、のあぁクロミよぉーー!」


「なぁにぃヨッちゃーん!?」


あらら。こいつらすっかり酔ってるな。こんな時に赤兜が来たら大変だぞ?


「なっしおめぇはそねぇきれぇなんかぁ!?」


「意味分かんないしー! ちゃんと喋ってよぉー!」


ん? ドロガーが意味不明な言葉を喋ってるぞ?


「じゃけえっちゃ! なっしのぉ! クロミぁ! そねぇも! きれいなんかっちゃ!」


ドロガーって酔い過ぎじゃない?


「ヨッちゃん意味分かんないしー。はいこれ。」


影幻想えいげんそう


ん? クロミが何やら魔法を使ったぞ?


「今のは何だ?」


「ヨッちゃんに幻を見せてんの。ヨッちゃんにはウチが適当に何か返事をしてるように見えてるよー。」


「へー……」


えげつな……

ドロガーが一人でひたすら何か喋ってるし……うわぁ……キモ……


「ねえ金ちゃんさぁ。黒ちゃんはお酒飲まないのー?」


「さ、さあ? でも今は飲ませない方がいいと思うわよ?」


心なしかアーニャが飲みたそうな顔をしている気もするが、確かに飲ませるべきではないだろう。だいぶ血色が良くなったとは言え、まだまだ痩せ細っていることに変わりはないんだから。


幻を見ながら酒を飲むドロガーの相手はコーちゃんがしている。コーちゃんにしてみれば酒が飲めればそれでいいってとこだろうか。


「クロミ、少しばかりアーニャの相手を頼めるか?」


「いいけどー。後でウチの相手もして欲しいしー。」


「ああ、後でな。」


何の相手をするのかは知らんぞ。まったく……


「アレク、お風呂入ろ。たまには朝から、ね?」


「う、うん……入る。」


ふふ、アレクと二人で風呂だなんていつぶりだ? アレクったらアーニャの世話で大忙しだったもんな。というわけでカムイ。後でマッサージしてやるから早く上がってくれ。アレクと二人きりでイチャイチャするんだからさ。


「ガウガウ」


手洗いもだって? 分かってるっての。まったくカムイは贅沢なんだから。


よし、カムイが出て行った。


『闇雲』

『消音』


これであっちからは見えないし、こっちの声も聴こえない。


「こうやって二人だけでお風呂に入るのって久々じゃない?」


「そうね。私がアーニャの世話にかかりっきりだったから。でもカース、ありがとう……」


ふふ、アレクが身を寄せてきた。かわいいなぁ。


「人間一人の世話をするのって……信じられないぐらい大変なのね……私が小さい頃ってどうだったのか、つい気になっちゃったわ。」


「大変だと思うよ。僕なんかマリーと姉上に一ヶ月近く介護してもらったことがあるけど、意識がなかったからどれだけ大変だったか分からないんだよね。しかも、アーニャみたいな場合は特に大変だよね。」


ろくに世話をしてない私が言うのも何だけど。


「そんなこともあったわね。それにしてもアーニャ……分からないわね。ただ心が壊れているだけなのか、天王に何かされたのか。売り飛ばされた奴隷の身で一国の王と面会したとは思えないけど……」


「そうだね。さっぱり分からないね。だからとりあえずはここの神の力で治してもらおうね。もし、それでもだめならジュダに会ってみるしかないかな。ロクな奴じゃあなさそうだけど……」


「そうね。でも今はそんなことより……」


アレクの口が私の口をそっと塞ぐ。もう、会話はいらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る