1590話 カースの考え休むに似たり
…………ずま…………
……かず………………
………………ずま……
……わた………………
………………たし……
朝か……
妙な目覚めだな。すごくよく寝たって気はするのに、どこかすっきりしない。二度寝しようにも眠れそうにない。
起きるかな。
「カズマカズマカズマカズマーー!」
うおっ、びっくりした。アーニャが先に起きてたとは。あっ、何か辛そうな顔してる。さてはトイレか?
一人じゃあこのシェルターからは出られないもんな。
『浮身』
一緒に外に出て……トイレはあっちだぞ。できるか?
おっ、一人でできるな。
おお、スッキリした顔してるな。よしよし。
「カズマカズマ!」
腹がへったのかな? 朝飯は全員起きてからだな。そして今日は一日休みにしよう。ここでのんびり過ごすのさ。ドロガーには酒も飲ませてやろう。
「カズマカズマ!」
それにしてもアーニャ……
初対面の時は何やら妙な言葉を口走っていたが、今は「カズマ」としか言わない。
やはりどう考えてもお前はあいつなのか?
ええーい! やめやめ! 分からないことを考えても仕方ない。いつもこうやって堂々巡りになるんだよな。私の考え休むに似たりだ。余計なことは考えまい。いつも通りノリと衝動と勢いで判断するのがベストなんだ。コーちゃんだってそう言ってる。
「ニンちゃんおはよー。黒ちゃんもおはよー。」
「おう、おはよ。早いな。」
「ほら、ウチって気配に敏感だし? 黒ちゃんも変な魔力持ってるし? 起きちゃうんだなぁー。」
ん? 変な魔力?
「クロミさ、ちょっとアーニャの魔力をチェックしてくんない? 流れとかさ。」
「いいよー? どーらどら。」
額と臍に手を当てて、慎重に感じ取っているようだ。
「うーん、やっぱ変だねー。あっ、これってあれだよ! 赤い人間の変な魔力の流れと似てる!」
「マジか!」
「うん
こんな時に魔法が体系化されてないとどうしようもないんだよな。言語化できないって言うかさー。いや、そりゃあ私の不勉強は棚に上げるけど。
魔法学院とかできっちり勉強してれば少しは違ったのだろうか……
だが……
てことは……
「ジュダに何かされた可能性があるってことだよな!?」
言われてみれば、これだけの美貌だ。真っ先に天都イカルガに送られたって話だったもんな。普段アレクを見慣れてる私では気付きもしないよ。
だが……それがなぜ、流れ流れてアラキ島まで行ったのかが分からん。
それにしてもジュダの野郎……ダークエルフですら分からない何かを……ただの洗脳魔法ではない。そんな魔法をわざわざ拐われてきた奴隷女に施したってことか?
くそ……何を考えてやがる……
洗脳魔法なら私が解呪できるはずなのに。くっそ、フェアウェル村に行った時に村長あたりにもう少し詳しく診てもらえばよかったんだ。壊れているから無理、で終わったもんなぁ……
つくづく母上がいなかったのが悔やまれる。
いかんな、私はマザコンか? ついつい母上に頼ってしまう。頼りがいのあり過ぎる親ってのも困ったもんだな……
「……という訳なんだよ。」
起きてきたアレクにも説明しておく。
「なるほどね……さっぱり分からないけれど、何かしらの禁術って可能性もあるわね……」
あー……禁術か……
ますます母上に聞いておきたかった……
「それか個人魔法ね。そうなると対策なんかしようがないし、ジュダ本人にしかどうにもできないわよね……」
あー……個人魔法ね……
くっそ。流れ者のクセにやけに手強いじゃないか。本当は流れ者じゃなくて侵略者だったりするんじゃないか?
実はメリケイン連合国の鉄砲玉で、ヒイズルを征服したら次はローランドとかさ。
さすがに無理か。せいぜいヒイズルの王になるぐらいで打ち止めだな。これ以上欲をかくとうちの国王がドラゴンで天都を丸焼きにしに来るぜ? 来るかな? 無辜の民を巻き添えに?
うーん……さすがに来ないかな。
ジュダの思考も分からなければ、クレナウッド国王の考えも分からないや。
いやいやいや!
ついさっき私の考え休むに似たりって言ったばかりじゃん。だめだめ。分からんことを考えても無駄無駄。
「はい、カース。」
「お、おお、ありがとう。今日もおいしそうだね!」
私がぼーっとしている間にアレクが朝食を作ってくれていた。
おお……薄味ミネストローネ風スープか。はぁー沁みる。美味しいなぁ……心まで暖まりそうだよ。
「おう魔王。今日は休むんだろ? ちっと相手しろや。」
「相手? 稽古か?」
「おう。いくら休みだからって一日中だらだらしてるわけにゃあいかんだろ。おめぇ棒術はまあまあイケるみてぇだが剣はどうよ?」
剣か……かなりサボってんだよな……
まあいいや。稽古だしな。
「舐めんなよ。これでも達人や剣鬼の弟子だぜ?」
正確には剣鬼フェルナンド先生からは弟子だと言われてないけど……
「ほぉ? ローランドにゃあ凄えのがいんだな。おら始めんぞ。こい。師匠が名前だけじゃねえってこと見せてみろや。」
そりゃあ知らない人間に二つ名を言っても大袈裟としか思えんわなぁ。
ドロガーは木刀か。ならば私も稽古用の木刀で。これを握るのはいつぶりか……
「ほぉ? ちったぁマシな構えしてんじゃねえか。」
まずはストレートに正面から上段打ち下ろし。わざわざ受け止めるドロガー。今のがイグドラシルの木刀『修羅』だったら終わってたぞ?
「おらぁ油断してんなよぉ?」
してねーよ。私の木刀を受け止めた瞬間に蹴りで金的かよ。さすがに冒険者だけあるな。ルール無用ってか。私のトラウザーズなら避けるまでもないが、それでは稽古にならないので軽く身を捩って蹴りを躱した。
「甘ぇよ!」
右足での蹴りを躱されてたたらを踏んだと思ったら、その足で踏み込んで鳩尾に肘かよ。接近戦の好きな奴だな。
「ちっ!」
接近戦が得意なのはお前だけじゃないんだよ。身を低くして潜り込んで来やがったから、木刀の柄で頭を狙ってやった。鳩尾はくれてやるつもりだったんだが……あっさり引きやがったか。判断早いな。
「ちっ、やるじゃねぇか。木刀の使い方ぁ分かってんなぁ。振るだけが能じゃねぇよなぁ。」
それにしてもドロガーの野郎、さっきから喋りっぱなしだよな。私は一言も喋ってないってのに。余裕かましやがって。
あ、そうだ。どうせ稽古なんだから……
「ちょっと待て。」
タイムだ。魔力庫から取り出したのはオディ兄から借りっぱなしの
こいつで……目隠しだ。
「あぁん? なんだそりゃあ? 俺を舐めてんのか!?」
「いいや、俺の流派は無尽流。その奥義を極めるためにはこんな稽古も必要ってことさ。」
未だにできないけど……
「知らねぇぞ……いくぜ!」
ボッコボコにやられた……
くそう……うーん痛いよう……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます