1586話 アレクサンドリーネの戦い
私が休憩しようと言えば、アレクは素早くお茶の用意を始めてくれる。なんて甲斐甲斐しいんだ。惚れ直してしまうよ。
「はいカース。」
「ありがとね。」
そして一番に私へ持ってきてくれる。
「ふぅ、やっぱりアレクのお茶はおいしいよ。」
「よかったわ。お茶の淹れ方はメイドのサラに教わったの。」
あー、あの気配を感じないメイドさんか。なんだか懐かしいな。
「で、ボスだけどアレクがやるんだよね?」
「ええ。いいわよね?」
いいよなカムイ? 本来ならそろそろお前の出番だけど。
「ガウガウ」
「いいよ。魔力がまだ全快してないと思うけど。」
「そうね。六割ぐらいかしら。でも、関係ないわ。カースに褒めてもらえるよう、私はやるから!」
「でもさアレク。忘れたらだめだよ。僕らクタナツ者は生き残れば勝ちなんだから、ね?」
どんな命懸けの勝負だろうと、結局は生き残った方の勝ちなんだからさ。
「そうね。分かってるわ……」
よし、扉が開くようになった。
「待ってカース。私、一人で入るわ。」
「え!? ちょ、ちょっと待ってよ! せめて僕だけでも一緒に入ったらだめなの!?」
「ごめんなさい。一人で入りたいの。」
そ、そんな……
確かに六人以下で入った方がボスは弱いけどさ……
それなら私が一緒に入ったっていいじゃないか……
「お願いカース……どうしても一人でやりたいの。」
「……いくらアレクのお願いでも……」
ここは迷宮だぞ? 命の危険がありまくりなのに! それをアレクが……分かってないわけないよなぁ……
くっ……
「じゃあ十五分だけ……でどう? それまでに扉が開かなければ、ぶち破って入る。いいね?」
「いいわ。その時間で勝ってみせるから……お願いよカース。私はやるわ……」
「分かった……しっかりね。」
結局コーちゃんの同行すら断ってアレクは一人でボス部屋へ入ってしまった……
あぁもう! 心配すぎるぞ!
同じくデュラハンならもう負けることはないとは思うけどさ! そこまで自分を追い込まなくたって……
「金ちゃんも頑固だねー。あれが人間の貴族ってやつー?」
「確かにアレクは貴族だけどな。それとは別かな。アレクにだって意地があるってことさ。」
「ふーん。」
それを言うなら私だって生まれも育ちの貴族だけどな。下級だからあんまり貴族って気がしないんだよなー。平民よりはいい生活できてたと思うけど。
あぁそれにしても心配だ……
まだか? まだ三分ぐらいか?
「うっとおしいからちっとは落ち着けや。さっきの感じからして油断しなけりゃ問題ねぇだろうぜ?」
うろうろと辺りを歩き回る私にドロガーが言う。そんなことぐらい分かってんだよ。そもそもアレクが油断なんかするかってんだ。
くっ、まだ五分ぐらいか……
なんて待ち長いんだ……
「ほらニンちゃん。これでも飲みなよー。」
これは?
「へえ、冷たくて美味しいな。甘くないけどスッキリしてる。」
「いいでしょー。ウチらの村の近くに生えてたエルダートレントの葉で淹れたんだー。またいつか帰りたいよね。」
お、重い……あの辺り一帯の草木は全て枯れるどころか消滅してしまったからな……
「そのエルダートレントは枯れてないのか?」
「近くとは言ってもまあまあ離れてるしねー。採るのも大変だけど美味しいもんね。」
ああ、トレントだもんな。でも蟠桃をゲットするのに比べたらまだ簡単だと見たぞ。
およそ十分経過……
まだか……
あと三分……
もう二分……
まだか……
残り一分!
よし、もう行こう! 体感なんだから一分なんて誤差の範囲だ!
「慌てんな魔王。開いたぜ?」
「なに!?」
本当だ! やった! アレクが勝ったんだ!
慌てて中に駆け込みアレクを探す。
いた!
迷宮の床に膝をついている! 呼吸も荒い!
でも! 傷はない! 服が汚れてすらない!
やったぜ!
「アレク!」
「カース……私、やったわ……」
あぁもう! こんなに汗びっしょりになって……髪が顔に張り付いちゃってるよ。どことなくエロティック。
かなり魔力を振り絞ったんだろうな……
「はい、これ飲んで。」
「カースが飲ませて……」
もうアレクったら甘えん坊さんなんだから。
口移しだ。
「んっ……」
かなりマズい高級魔力ポーションでも私からの口移しなら美味しいはずだ。だよな?
「ふぅ……ありがとうカース。美味しかったわ。魔力も回復したし。さあ、次の階に行きましょ?」
「それならよかったよ。少し休憩していかない?」
「それは安全地帯でいいわ。ね?」
「それもそうだね。じゃこれに座って。」
鉄ボード。魔力がほぼ空っぽになるまで魔法を使いまくったんだ。疲れてないはずがないからな。
どんなボスだったか気になるが、その話も安全地帯に着いてからだな。まったく……心臓に悪いよ……
でもアレクが無事でよかった。おまけにボスを一人で撃破したんだ。これはアレクにとっていい経験だよな。自信にもつながるだろうし。
落ちてたのは大剣。やはりデュラハンだったんだろうな。これはいい記念だ。アレクに収納しておいてもらおう。使い道はなさそうだけど。
地下二十五階。先ほどまでと同じく氷の円柱を転がして進む。ただしペースは早めに。さっさと安全地帯まで到着したいからな。
およそ二時間後、見つけたが……ちっ、また赤兜だ。こいつらホントどこにでもいるな。ゴキブリかってんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます