1583話 アレクサンドリーネの心中

ここは……カースのシェルターの中?

私はどうして……


あ、デュラハンとの戦闘中にクロミから声がかかって……慌てて後退したけど、気を失ったんだわ……


あの感覚は……きっと魔力を抜かれたのね……

まさかデュラハンが魔力吸引なんて高等技術を使えるだなんて……一瞬で残りの魔力をほぼ全て……でもカースからすれば微々たるものよね。はぁ……


あら、服が……そう、カースがきれいにしてくれたのね。アーニャも隣にいる。ふふ、よく寝てるわね。反対側にはカースも。

ああカース……あなたはいつも私を助けてくれる……きっと今回もカースが助けてくれたに違いないわ……

意識を失った私を見て、慌てて助け起こす姿が目に浮かぶ……この世の何よりも確かで、誰よりも愛しい私の男。


前世ね……想像もつかないわ。魔法のない世界、貴族がほとんどいない世界。奴隷はいないはずなのに奴隷のように働かされる世界。

そんな世界でカースと将来を誓い合っていた……かも知れないアーニャ。


ローランド神教会によると生まれ変わりはあるらしい。だからカースに前世があってもおかしくないし、アーニャがたまたまカースのいるこの世に生まれてきてもおかしくはない……

でもそれって一体どれほどの確率なの?

いつだったか、カースから確率について習ったけれど、生まれ変わってもまた会えるだなんて……奇跡でも起きない限り……


まさか……アーニャは奇跡を起こした?

一体どうやって?


また一つ、アーニャを治す理由ができたわね……殺してしまいたいぐらい憎い相手なのに……

もしも、カースを想うがあまり奇跡を起こしたのだとしたら……その想いを、どうして私が否定できようか……


カース……罪深い男……

どれだけ私の心をかき乱すのよ……バカ!

バカバカ!

かわいい顔して寝ちゃって! 私の気も知らないで! 私がアーニャを殺したらどうする気なの?


それぐらい分かってる……

もし私がアーニャを殺したら……泣きそうな顔で言うんだわ。仕方ないね、いいよ、いいんだよ……って。本当に甘いんだから……

ソルやリゼットみたいな一流の女を袖にして、ジーンやクロミみたいに強力な女にすら見向きもしないくせに……


アーニャみたいな壊れた女に執心するなんて……


ほんっと……カースらしいわ。


バカ……でも、大好きよ。




このままいつまでもカースの寝顔を見つめていたいけど、朝食の準備をしよう。カースのために、めいいっぱい。


「あっ金ちゃんおはよー! 調子どーお?」


「おはよう。ほぼ空っぽになるほど魔力を抜かれた割にはいいわ。クロミにも迷惑をかけたわね。」


「んー、全然だよ。それより調子がいいのはウチが魔力を入れたからだし。金ちゃんの全魔力からしても大した量じゃないけどねー。」


「さすがクロミね。治癒ができる上に魔力譲渡まで使えるなんて。ありがとう。助かったわ。」


「どーいたしましてー。魔力譲渡って無駄が多いから好きじゃないんだよねー。百の魔力を込めたって十も渡せればいい方だし。」


そうらしいわね。魔力譲渡の使い手なんてあまり出会わないから聞いたことしかないけど。いつだったか王都の治癒魔法使いナーサリーさんは魔力吸引を使ってたっけ。


「あれ? クロミ、その耳はどうしたの? 変化へんげの魔法は……」


「あははー、ヨッちゃんにバレちゃったから使うのやめたんだー。ここを出たらまた使おっかなーって感じ?」


私が聞いてても隠す気があったとは思えない会話をしてたし、きっと時間の問題だったんだわ。クロミらしいわね。


「そうだわ。クロミ、これあげる。きっと似合うわ。」


「へー、耳飾り? いいじゃん。きれいじゃーん。金ちゃんありがとー! へへーどうどう? 似合う?」


魔法学校時代に誰かに貰った耳飾り。時々パーティーなんかで付けることはあったけど、今の私には要らない。カースから貰った最高の耳飾りがあるから。


「ええ、よく似合ってるわ。黒い肌に青い輝きがよく映えてるわよ。」


本当によく似合ってる。黒くシミひとつない肌はまるでカースのシルキーブラックモスのシャツみたいに滑らか。そこから涙が一雫ひとしずく、いや左右で二雫ふたしずくかしら。


「ホント!? ウチの肌黒い? えへへーやったー! 金ちゃんありがとねー!」


そういえばカースが言ってたわね。エルフは同胞って言われると喜ぶって。ダークエルフは黒いって言われると喜ぶのかしら?


「今度一緒に買い物に行くのも楽しそうね。それか服を仕立てたりするのも。」


「それいい! 楽しみ! いつ行く!? 明日? あさって!?」


「さ、さあ……ここを出てからかしら?」


そもそもダークエルフって服はどうしてるんだろう? クロミの服はデザインはともかく仕立ての腕はかなりのもの。材質だってカース並みとはいかないけど、かなりの上級素材ね。


「お前ら朝からうるせぇぞ……起きちまったじゃねぇか……」


「ヨッちゃんおはよー。今って朝なの?」


「知らねーよ……俺が起きれば朝なんだよ。」


「朝食作ってあげるから待ってなさい。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


あっ、コーちゃんもカムイも起きてきた。カースはまだかな……後で見に行こう。アーニャは起きてもあそこからは出られないわよね。出入口が上にしかないから。浮身を使えないとどうにもならないものね。


それより……コーちゃんがこっちに来た、ということは……あの中では今、カースとアーニャは二人きり……






「それにしても女神よぉ。やっぱ魔王はめちゃくちゃだよなぁ……」


「いつものことよ。で、何があったの?」


どうせデュラハンを瞬殺してくれたってだけだろうけど。


「お前が気ぃ失った後さ。燃やそうとしたみてぇだが、魔力を吸収されるのに気づいたんだろうぜ。部屋の天井辺りから氷の塊を落としまくってよ? あっさり終わったぜ。」


降り注ぐ氷塊ね……カースが使えば私のなんかより桁違いの威力になるわよね。あの部屋は外で使う時よりだいぶ低いけど、それでも……


「それにさー。昨日赤兜に襲われたんだけどー。ニンちゃんたらぜーんぶ水で押し流しちゃったんだから。もう通路いっぱいに水がどっぶわぁーーーって! めちゃくちゃだったよ!」


え? 赤兜が!?


「カースらしいわね。」


やっぱりカースがその気になったらムラサキメタリックでも相手にならないわよね。無理に正面から叩き壊す必要はないんだから。

さすがカース。本当に素敵だわ……


いつか……私だって……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る