1581話 デュラハンの奥の手

アレクを抱きかかえてから……『火柱』

何をしたのかは知らんが全て燃え尽きてしまえ。それで終わりだ。


ん? 火勢が……弱まっている?

知ったことか! そのまま燃えてしまえ。


『火球』


何だ? おかしい……

私の炎ならデュラハンごとき一瞬で燃え尽きるはずなのに……


ついに火が消えた……


まさか……?

確かめてやる! 魔力弱々で『火球』

温度も低ければスピードものろのろだ。


なるほどね……デュラハンの野郎……

なぜそんなことができるのかは知らないが、頭部から火球を吸い込みやがった……つまり、こいつは魔力を吸収したってことか……


頭部がきっちりと首の上に座ってやがる。この状態でなら吸収できるってことか?


だが、甘いな。アレクの魔力はほぼ一瞬で吸い尽くしたようだが、今はもう吸えないと見える。身軽に飛び回れるはずの頭部をそうやって固定してしまったら、本当にただのアンデッドでしかない。どうやら至近距離でないと吸収できないんだろ?

近寄ってなんかやらんからな。

そして……ぶっ潰れろ!


『降り注ぐ氷塊』


大して広くもないボス部屋だが、高度五十メイルもあれば十分だ。


おまけに『氷壁』

逃がさんぞ。周囲を分厚い氷で覆ってやった。いくらその大剣でも、剣以上に厚い氷は切れまい? そぉら、もう時間切れだ。


『氷壁解除』


粉々になれや。これだけもの氷塊だ。ヒュドラやマウントイーターですら防ぎきれなかったんだからな。お前には無理だ。


『消音』


おそらくは轟音を立てて氷塊がデュラハンに命中していることだろう。私にはとても静かな光景にしか見えないが。

部屋中に氷の破片が舞い散る。きらきらしてきれいだな。ダイヤモンドダストってか。気温もだいぶ下がったかな。


『風操』


よし。跡形もない。終わったな。

まったく……アンデッドのくせに魔力吸収だなんて舐めた真似しやがって。

だが、奴にとっても魔力吸収は使いたくない手だったようだな。見たところ魔力吸収を使っている間は完全に足が止まるんだろう。一瞬で相手の全魔力を吸収したのは見事だが、近寄らなければいいだけ。おまけに足が止まるもんだから自分から近寄ることも無理ってわけか。

それでも先ほどはアレクから魔力を吸収しなければ燃え尽きて終わってたんだろう。だから使うしかなかったってことか。こりゃあ赤兜にとってはさぞかし楽勝な相手だったろうな。ムラサキメタリックのお得意様じゃん。

やはりこの階が最深記録だったのってだいぶ過去のことなんだな。ドロガーの言う通りか。


「もー! ニンちゃんめちゃくちゃだよぉー! うるさいし寒いし!」


「おお、悪い悪い。さっさと出ようぜ。そういえばクロミって魔力入れられる?」


「あー魔力譲渡? 少しならいいよー。あんまり効率よくないしー。」


「悪いな。少しだけアレクに頼むわ。」


「ちょっとだけよぉー?」


『魔力譲渡』


へー、やっぱクロミも手から出すんだな。そしてアレクのヘソから入れるのか。


「はい終わりー。金ちゃんって人間にしては結構たくさん入りそうだね。さすがニンちゃんが選ぶだけあるじゃーん?」


別に魔力量でアレクを好きになったわけじゃないけどな。


「なあ、前からちょくちょく気になってたんだがよ。クロミってやたら人間にしてはとかって言うよな。まるでクロミは人間じゃないみたいに聞こえるぜ?」


おー。鈍いドロガーもついに気づいたか。


「そりゃあそこいらでは見れないほどキレーな顔してんからよ。人間じゃないみたいに綺麗って言えなくもねぇけどよ?」


「あー、いっけなーい。バレちゃった? ウチ人間じゃないよ?」


クロミもあんま隠す気ないんだろうなぁ……別にどうでもいいけど。


「その話は後にして、さっさと出ようぜ。そこの剣はクロミにやるよ。」


「もーらい。意外と呪われてないよねー。」


「えっ!? ちょ、ちょい待て! クロミが人間じゃねえってどういうこった!?」


「とりあえず出ようぜ。その話は次の安全地帯に着いてからな。」


「ちょ! ちょっと待てぇぇーー! 聞かせろよぉぉーー!」


今はドロガーなどに構っている場合ではない。アレクが気を失っているのだから。ミスリルボードに乗せて、コートをかけておく。そしてそっと浮かべて……さあ次は二十四階だ。




「よし。全員乗ってくれ。一気に行くぞ。」


最速で安全地帯を目指す。この階にも赤兜は多いだろうが無視だ。




到着。赤兜どもはいない。カムイの指示通りボス部屋を目指すと大抵は途中に安全地帯があるんだよな。


「今日はここで泊まるぞ。じっくりと休むからな。」


「おう。そんじゃあクロミのことを聞かせてもらうぜ?」


「いいよー。じゃあとりあえず……」


『変化解除』


変化へんげの魔法。解除しても耳ぐらいしか違いがないんだよな。


「ん? どこか変わったん……耳!? そ、その耳は!?」


「そうだよー。ウチはダークエルフなの。今は滅びたソンブレア村の一人、父はカールフリードリヒグンドルフォイ。母はエメレンツィアレオポルディーネル。そしてウチはクロノミーネハドルライツェンだよ。」


へー……クロミって父ちゃんの名前知ってんのか。てことは両親ともダークエルフってことか? それは少しだけ珍しいな。


「さっぱり分からねぇ……だがエルフってのは聞いたことがある……南の大陸にはドワーフって奴らがいるそうだが、エルフってのはローランド王国の遥か北にいるかも知れねぇそうだな?」


他国のことなのによく知ってんなぁ。それより気になってのはドワーフだ。いるのか!?


「ローランドじゃあそこまで知られてないがな。それよりドワーフのことを聞かせろよ。」


「いや、俺も名前しか知らねぇぜ。そもそも本当にいるのかなんて分かるかよ。それよりクロミだぁ! 人間離れした美しさとは思ってたがよ……まさか本当に人間じゃねぇとはな……」


「ヨッちゃんこそ人間にしては強いと思うよ? 嫌いじゃないしー。」


「けっ、人間にしては、かよ……そんなら魔王はどうなんだ? ダークエルフと比べてよ?」


「ニンちゃん? めちゃくちゃだよ? 村が滅びた原因の魔物を退治してくれたんだから。」


「何だぁそりゃ!? おい魔王よぉ、夜ぁ長えんだ。きっちり聞かせてもらうぜ?」


「まあ、いいけどさ。とりあえず風呂の後な。」


アレクをきれいにして、さっさと休ませてあげなければならないからな。

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