1572話 決着!

剣が命中する直前、ドロガーの左手に噛み付いていた頭部はするりと落ち、鈍器と化した剣がドロガーを打ちつけた。おまけに頭部がドロガーの脛に噛み付いてやがる。さすがにしぶといな……


「くそがぁ!」


ドロガーの魔法剣がデュラハンの右膝を薙ぐ。おおっ、やった! スパッと切断しやがった! 縦に半分になった上に右膝を断たれたデュラハン。右半分が床に崩れ落ちる。だがドロガーも動けない。脛を噛まれた上に、デュラハンの頭部が重しとなって足を止めてるってわけか……


「ぐがあああぁぁぁっあーー!」


なっ!? あの頭部……ドロガーの脛を……噛み切りやがった、だと!?


「くそがぁぁぁーーーー!」


バカ! ドロガーのやつ自分の足ごと頭部を斬ろうと……だめか。逃げられた。その上、噛み切ったドロガーの足をペッと吐き捨てやがった……不幸中の幸いか、ツイてたな。


先ほどからデュラハンの胴体はピクリとも動いていない。ベタベタと床に貼りついてるし。この頭部との戦いが最終局面と見でいいだろう。


「ドロガー、まだやる気か?」


「あ、当たり前だぁ……邪魔すんじゃねぇ……」


「邪魔はしない。だからそこの左足を拾って少し後ろに下がれ。」


「あぁ?」


「ほれ、早くしないとデュラハンの頭が襲ってくるぞ?」


「お、おお!」


よし、それでいい。


『業火』


「なっ!? ま、魔王! 何しやがる!」


「邪魔はしてないぞ。倒れた馬と馬車、それから動かない胴体を燃やしただけだ。動いてないんだから関係ないだろ? さっさと頭部を仕留めろ。」


うーん、やはりアンデッドはよく燃えるね。


『ゲギャギャギャギャアァァァーーーー!』


おっ、アンデッドのくせに生意気に『魔声ませい』かよ。残念ながらその程度じゃあ私はおろかドロガーにも……効いてるんかーい! ぼーっとしてんじゃないぞ。


「おい! ドロガーしっかりしろや! 仲間の仇をとるんだろうが!」


「はっ!? お、おお! そうだよ! このクソデュラハンがあ! ハルナの仇ぃぃーー!」


『火炎槍』


炎の槍が一直線にデュラハンの頭部へと向かう……が、当たるわけがない。的が小さいんだからさ。デュラハンはデュラハンで頭部だけのくせに動きがやたら鋭いんだよな。ふよふよ浮いてるくせに。身重な胴体がなくなったせいか?


「はあっ、はぁ……くそがぁ!」


『火炎斬』


うーん、燃える斬撃もさっぱり当たってないな。デュラハンの頭部も迂闊にドロガーに接近してはこないが、このままだとスタミナ的にドロガーが不利だな。なんせ相手はアンデッドだし。


『ゲギャギャッ!』


ん? ただの魔声じゃないぞ? 何やら奇妙な魔力を感じる……


『解呪』


効果は分からないが何か怪しかったからドロガーに解呪をかけてやった。負けんなよ?


「はっ、ふぅ……とことん小賢しいデュラハンがぁ……そろそろ終わりにしてやんぜ……」


『火炎網』


おっ、これは面白い魔法だな。炎の網か。魔力はさほど込もってないが範囲は広い。どうにか逃げるデュラハンの頭部を捕獲したが……


『ゲギャギャッギャギャ!』


動けないくせに、しつこく妙な魔法を使ってきやがるな。だが無駄だ。


『解呪』


「悪ぃな魔王よぉ……助かるぜ……」


「いいからさっさとトドメを刺せ。」


「おうよ……」


『縛炎』


おっ、網のような炎が収束しデュラハンをぎちぎちに締め付けてる。それでも燃える気配がない。しぶといなぁ……だが。


「みんなの……ハルナの仇だ! 死ねやぁぁぁーー!」


片足となり、立つのもやっとの状態から飛びあがり渾身の力を込めた打ち下ろし。


『ゲギャギャギャギャァァァーーーー!』


最後の足掻きか? だがもう遅い。ドロガーの一撃はデュラハンの頭部を見事に真っ二つにした。


「はぁっ……はぁ……ざまぁみろ……傷裂ドロガーを舐めん……じゃねぇ……」


「おい、一応きっちり燃やしておけよ。アンデッドはしぶといんだからさ。」


「お、おお、分かってる……」


『火柱』


やっぱ動かないアンデッドを燃やすには火柱が一番だよな。国は違えどその辺りは同じだな。


『ゲギャギャァァァ…………』


最後までしぶといな。半分になって、燃やされながらもドロガーに噛みつこうとしている。あっさり串刺しにされたけど。やがてドロガーの剣に刺さったまま、静かに燃え尽きた。


その場に現れたものは、最初にデュラハンが使っていた背骨のような鞭だった。趣味悪っ……


「ヨッちゃあぁぁーーん! やったね! 見てたよ! ヨッちゃんって呼びにくくなっちゃったよー!」


クロミがミスリルボードから降りてきた。


「話は後だ。足を繋ぐぞ。クロミは治癒系の魔法は使えるか?」


「少しねー。ニンちゃんこそいいポーション持ってるんだよね?」


「ああ、ほらドロガー。さっき拾った足を出せ。そしてここに寝ろ。」


『水壁』


「お、おお……すまねぇ……」


よし。では傷口を『浄化』できれいにして……


「じゃあ繋ぐよー。えーっと、向きは……こうかな? よし、こうじゃん?」


『治癒』


二ヶ所も切断されてるから向きが分かりにくいよな。デュラハンの頭部が飲み込まなくてよかったが、体がないから飲み込みようがないのかな。


「ほれ、これも飲んでおけ。半分な。」


「おお……すまねぇ……」


残り半分は傷口にかけるからな。


「うーん、治癒の魔法って苦手だしー。まだぁー?」


知らねーよ……治癒の魔法が使えない私に分かるはずがない。




「ほう? デュラハンに勝ったのか。名誉の負傷と言ったところか。うちの者どもはどうした?」


ちっ、さっきの赤兜どもが入ってきやがった。


「全滅みたいだな。さっきまで鎧兜が転がってだぜ?」


ドロガーがこの様だから私が話さねばなるまい。ちなみに鎧兜はいつの間にか消えてた。


「それにしても奇妙な状況だな。その者だけが負傷しており他の者が無傷とは。そのようなパーティーに先はないぞ?」


ドロガーだけに戦わせるおんぶにだっこパーティーだと勘違いしてやがるな?


「ちょっとうちのリーダーとデュラハンに因縁があってな。一人でやるっつーからやらせただけだ。まあ次のデュラハンが現れるまでには出るから気にするな。」


そもそも今回ドロガーが倒したデュラハンだって所詮は迷宮のボスでしかないもんな。大昔、ドロガー達のパーティーを潰した本人、本魔物と同じなわけないしな。まあドロガーの心の整理がついたのなら良しとしよう。 なんせ当時の奴より倍は強いデュラハンに勝ったんだから。これは金星だろ。


「クロミ、もういいぜ。ありがとな。魔王もポーションありがとよ。」


「おう。せっかくだからこれにでも座ってろ。」


鉄スノボ。人間一人が座ったまま迷宮を行くにはこのサイズがちょうどいいんだよな。


「すまんな。そんじゃあ赤兜の旦那よぉ、お先にな。お前らの武運も祈ってるぜ?」


「うむ。我らもすぐ追いつくだろう。先に行っておくがいい」


残念。たぶん無理だろ。最深記録が二十三階だろ? おおかた次かその次のボスが強いんだろうな。二十一階だなんて半端な階でさえこれほどの強さだったんだから。そんじゃおっ先ぃー。


それにしてもカムイが戦いたがらないとは珍しいな。どうしたこと?


「ガウガウ」


アンデッドは臭いから嫌? そりゃそうだ。でも、もっと臭いマスタードドラゴンとは戦ったくせに。実際にはアーニャのため、ひいては私のためだろ? わがまま言わずにさっさと攻略しようとしてくれてるんだろ。まったく、カムイはかわいいやつだぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る