1571話 ドロガー VS デュラハン

彼我の距離はまだ六、七メイルってとこか。バカな赤兜にしては警戒してる方だな。迷宮の床に座ってお茶なんぞ飲んでる私たちを。


「迷宮の慣習だ。次に入るのは俺たちだ。文句ぁねーな?」


頼むぜドロガーリーダー。言え言え。


「当然だ。それよりお前たちはどのぐらいここにいる?」


「一時間半ってとこか。お仲間は苦戦してんじゃねーのか?」


「そうかも知れんな。どこの隊の者かは知らんがさっさと終わらせて欲しいものよ」


意外だな。こいつら普通に騎士っぽい。赤兜のくせに。なんというか、統制のとれた言動なんだよな。無駄口も少ないし、喋っているこいつ以外は周囲を警戒している。もちろん隙がない。うーん、解呪どうしようかな……しなけりゃしないでいいんだけどなぁ。


「ときに、えらく妙なパーティーだな? お前以外はとても冒険者に見えぬ。だがここまで来ている以上それなりの実力なのだろうな」


私とアレクはお揃いのウエストコートだもんな。超オシャレだぜ。クロミはスカートこそ長いもののエルフっぽいと言うかギャルっぽいと言うか……迷宮らしくないのは間違いないな。革鎧をきっちり纏ってるのはドロガーだけだもんな。


「そういうこった。お前らこそ赤兜にしてはきっちりしてるな。こっちにゃこれだけ美女が揃ってんのに粉すらかけねぇとはよ?」


「迷宮でそのような無駄なことをする余裕はない。我々の任務は陛下の御恩に報いることのみだからな」


「ご立派なこって。だったらもう少し離れてくんねーかい? そんなに探り入れなくても聞けば答えてやんぜ?」


単なるもの珍しさではない。私たちの服装などを含めて違和感があるのだろう。今後のためにも正体を探っておきたいってとこだろうな。じわじわと近寄ってきやがったし。カムイやコーちゃんだっているもんな。

私たちの正体はオワダからテンモカにかけては知れ渡ってるだろうが、東側にはさっぱり流れてないはずだ。迷宮入口での出来事も何かがあったことすら知られてないだろう。当然ながらしばらくの間は追手がかかることもない。

それなのにきっちり警戒をしているとは……赤兜には珍しく優秀ってことか。陛下の御恩とかって言ってたし。洗脳されまくりか。


「ほう? いいのか。ならば聞かせてもらおうか。お前以外の者だが「待ちな。すまんが時間切れだ。じゃあな。先に行くぜ。」


あらら、赤兜ったら残念だったね。


「ドロガー、悪いが全員で入るぞ。ここにアレクたちを置いていけないからな。」


「そうだな……」


「武運を祈る」


ま、まともすぎる……赤兜のくせに!




私たちがボス部屋に入れば扉は閉まる。しかも部屋の中にはすでにデュラハンが顕現していた。よく見れば赤兜の死体も転がっている。あーらら、全滅したのね。


「アレクたちは適当に隅か上で見ててくれる?」


「ええ、そうするわね。ドロガー、勝ちなさいよ?」


「ヨッちゃんがんばー!」


「おう……!」


そして、デュラハンは少し丸まっていた背筋を伸ばすと馬車ごとこちらに突っ込んできた。はねられたら即死だな。


「けっ!」


おっ、また縄か。さっき赤兜の足に絡めたやつとは違うな。両端に石がついてる。投擲武器のボーラってやつか。勢いよく回転して……馬の足に絡む!

おおぉぉーー! 凄いぞドロガー! 六頭もの馬が一瞬で倒れやがった! たった二頭の足に絡ませただけなのに。しかも馬車まで横転してるし。やるなぁ。びっくり。


そこからデュラハンはゆらりと起き上がってきた。まるでダメージなどないかのように。


「見とけよ魔王! 俺ぁやってみせるからよぉ!」


「おう。がんばれ。」


うわぁ、長い鞭持ってんなぁ。ん? うっわマジかよ……あれって背骨じゃん……キッモ……明らかに四メイル以上はあるし。

デュラハンの手元がピクリと動いたかと思えば、ドロガーの肩当てが弾け飛んだ。あんなぶっとい鞭でもスピードは一流かよ。そもそも鞭の動きなんか肉眼で見えるわけないよな。フェルナンド先生じゃあるまいし。


「けっ!」


おっ、ドロガーが何かを投げつけだぞ? デュラハンはあっさり鞭で迎え打ったが……んん? 白い何かが鞭に絡みついてる。べたべたしてるっぽいな。


「おらあぁぁーー! 死ねやぁぁーー!」


鞭の動きが鈍った隙に無骨な剣で斬りかかるドロガー。デュラハンは右手を……一瞬にして振り上げると、その手にはすでに大剣が握られている。いつの間に!? そしてハエでも叩くかのようにドロガーに振り下ろす……


「効かねぇよバァカ! おらぁ!」


な、何だ今の!? デュラハンの大剣がぬるっとドロガーを避けたぞ!? おお! ドロガーの一撃がデュラハンの右手に直撃! ちっ、それでも剣を落とさないのかよ。効いたようにも見えない。魔物のくせに生意気な……いい籠手着けてやがるな。

だがドロガーは止まらない。一撃くわえて離脱しつつもボーラをデュラハンの足に絡めてやがる。こいつしっかり流れを読んでるなぁ。さすが五等星。

デュラハンは剣を振り上げ自らの足に絡みついた縄を切ろうとするが、身の丈ほどもある大剣だ。足元を切るにはサイズが合わないにも程がある。おまけに何やらべたべたした何かが絡みついてるし、もう切れ味ないんじゃない?


「おらぁ!」


さらに追加でデュラハンの足元に何かを投げつけたドロガー。トリモチか? デュラハンの足の裏が迷宮と床にべたべたと張り付いていくではないか。これは勝負あったか? どうやってトドメを刺すかって問題は残ってるが。


「どうよぉこの首無し野郎がぁ! ハルナにあの世で詫びてこいやぁ!」


『火炎斬』


おっ、こりゃあすごい。魔法剣ってやつか。実用性は高くないけどアンデッドには効きそうかな?


「うおおおりゃあああ!」


おおっ! マジか! デュラハンを正面から真っ二つに! やったか……あっ!


「ドロガー! 後ろだ!」


「なっ!?」


デュラハンの左手に抱えられていたはずの頭部が、ドロガーの首を後ろから狙っていた。とっさの防御が間に合ったようだが……ドロガーの左手は……


「バカ! 下がれ!」


縦に真半分にされながらもデュラハンはこたえた様子もなく、なまくらな大剣をドロガーに振り下ろした。切れなくても当たれば危険な鈍器だからな。


「けっ!」


おっ、上手い! 左手に噛み付いた頭部で剣を受けるか! が……

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