1570話 二十一階のボスと神の怒り

地下二十一階の安全地帯。ひと時の休憩を終えたら再び出発だ。


「よぉ魔王よぉ……」


「ん? どうした?」


「ここのボスだがよぉ……俺一人でやらせてくんねぇか?」


「いいぞ。がんばれ。ちなみにこの階のボスって何?」


首無し騎士デュラハンだ。小っこいくせに手強い相手だ……」


「ふーん。デュラハンか。」


それってアンデッドじゃないの? てことはドロガーとめっちゃ相性悪いじゃん。アンデッドには痛覚なんかないだろうからな。それなのにドロガーは何を考えてるんだろうか。まあいいや。思うところがあるんだろうね。連携が命の冒険者なのにわざわざ一人で戦いたがるなんて奇特な奴だね。




それから慎重に進むこと三、四時間。それなりの赤兜どもを追い越したり、はたまたすれ違ったり。出会う度に隙を見ては解呪をかけてやったもんだから結構時間をくってしまった。ようやくボス部屋だ。


「ドロガーが一人で戦うんなら全員で入ることもないかな。僕が一緒に入るからアレクたちは外で待っててくれる?」


「それもそうね。敢えて強くする必要はないものね。」


一応ドロガーが負けそうになったら介入する気だしね。


「あら、先客がいるね。少し待とうか。」


さすがにこの階は赤兜が多いな。意外と真面目に迷宮攻略してんのかねぇ。歩き詰めだったし、一時間ぐらい休憩するのもいいだろう。さっそくアレクがお茶の用意をしてくれてることだし。


「ねーニンちゃーん、ここって何階まであるのー?」


「さあなー。別の迷宮だと五十階までって聞いたけどな。まあ行けば分かるさ。」


「ふーん、それもそうねー。それよりヨッちゃんさー? なんで一人で戦いたいのー? ニンちゃんたちの影響受けちゃった?」


そこにはクロミも含まれるけどな。


「それもあるがよぉ……まあ、仇討ちってとこだな。情けねー話だがよ……」


それからドロガーは話し始めた。昔のパーティーが壊滅するまでの話を。

原因は二十一階の通路に現れたデュラハン。六頭の首無し馬がひく四輪馬車にのり、馬上から降りてくることもなく奇妙な鞭で攻撃してきたと。通路のサイズは馬車にしては狭いだろうに軽快に動きまわったため、かなり苦戦したそうだ。だが、逃げながらも馬の足を一本ずつ叩き折っては機動力を奪うことを諦めなかった。


その甲斐あって、ついに馬車の動きが止まった。そしてようやくデュラハンが馬車から降りてきた。すかさず囲み、一斉に攻撃を仕掛ける。魔法で牽制をしてから一気にかたをつける……ある者は胴体を、ある者は膝裏を、またある者はデュラハンが左手に持つ自身の頭部を。

次の瞬間、胴体を狙っていた者が縦に両断された……あまりの速さにはっきりと見た者はいないようだが、さっきまで鞭を持っていたはずの右手にはデュラハンの身の丈ほどもある大剣が握られていた。そのサイズはおよそ二メイル半、肉厚の剣だ。

それでもドロガーたちは迷宮の壁を利用するなどして戦い続けた。さすがのデュラハンでも迷宮の壁に傷をつけることなどできないのだから。

またメンバーの一人が持つ楯はかなりの業物らしく、やはりデュラハンの剣を防ぐことができた。しかし、いくら斬撃は防げてもその衝撃までは防げず、何度も吹っ飛ばされた。


そしてついに残りは三人。ドロガーとキサダーニと、リーダーである女だけとなった。何度も撤退しようとしたのだが、その度に背中を向けた者から殺されていったからだ。とうとうリーダーも大腿部を深く斬られてしまい……歩けなくなってしまった。

覚悟を決めたリーダーはドロガーたちを逃すために楯使いが落とした楯を構え、必死の時間稼ぎを敢行した……


その結果……


「ってわけで俺とキサダーニだけおめおめと生き残っちまったってわけよ……二十一階だったしな。どうにか入口まで着けば後はすぐ外に出られるしな……」


「大変だったな。で、そんなデュラハンがここのボスってのはどういうことなんだ?」


「聞いた話だがな……ここのボスは時々ボス部屋から出てくるんだとよ……神の怒りに触れた奴がいる時にな……」


「あーなるほど。で、そんな相手に一人で勝てるのか?」


そいつ接近戦だと無敵っぽくない? 魔法なしだと私では無理だな。


「勝算はある。いつの日かキサダーニの野郎と二人で試すつもりだったけどな……」


「ふーん、まあ頑張れ。それにしても開かないな。ぶち破ってやろうか。」


「やめとけ。それだって神が怒るかもしんねぇぜ?」


「壁や床は怒られたな。でも扉ぐらいケチケチするなって話だよな。」


どっちにしてもすぐ直せるくせに。まったく、神のくせに心が狭いわー。でも仕方ないな。今回ばかりは神の力が頼りだからな。ご機嫌を損ねるのもまずいよなぁ……


「神に……それでよく生きてたな……」


「通路にヤバい魔物なんか出てこなかったしな。」


「あっ、カース。もしかしてオーガの変異種がそれだったんじゃない? 確かブラッディオーガって言ったかしら。」


あー。そんなのもいたっけ。カムイがあっさり仕留めたような気がする。


「強くはなかったけど、やたら再生してたっけ。最後には首だけになっても襲ってきたよね。そう考えるとデュラハンっぽいね。」


「お前らどんだけ迷宮を攻略してんだよ……」


「いや、そいつは俺たちの前に現れたわけじゃなくてな。最初相手をしてたのは赤兜どもだったか。そんで勝てなくて逃げたらしい。ここのとは違って逃げたら追われなかったみたいだし。」


あの時の赤兜は瀕死ではあったが全員生きてたような気がするしね。あのブラッディオーガは結構素早かったし、やっぱ追われなかったと考えるのが自然だろうな。


「あー……赤兜か……あいつらなら神の怒りに触れてもおかしくないよなー。まあよぉ、俺のこの話を信じない奴だって多いんだぜ? 全滅しかけたから魔物を大袈裟に言ってんだろってな。別にいいんだけどな。」


「嘘だろうが本当だろうが警戒するに越したことはないよな。まあそれができない奴から早死にするのはどこの国でも同じだろ。」


「そりゃそうだ。それにしても開かねぇーなー。とっとと倒すなり全滅するなりしろってんだ。」


待つのは苦ではないが、ここで休憩ばかりしていると……


「ほう、先客か?」

「冒険者とは、珍しいではないか」

「えらく寛いでいるな」


ほら来た赤兜。ついでだから隙を見て解呪をかけてやるかな。

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