1569話 ドロガーの交渉術

そんなこんなで現在は地下二十一階。ここからは慎重に進む。罠が増えてくるらしいからな。


「信じらんねぇぜ……どうなってんだこれ……もうこんな所まで……」


「カースなら当然よ。」

「ニンちゃんだし。」

「カズマカズマカズマ!」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


コーちゃんは今夜もイワミミタケを焼いてくれと言い、カムイは離れたところで焼けと言っている。ドロガーの言うことなんか聞いてもいない。


「そんで、こっからぁどう進むんだ? 歩くんだろ?」


「ああ。俺とカムイが先頭を歩く。ドロガーは最後尾の警戒を頼む。」


「嫌ぁーなポジションだぜ……お前らなら後ろなんぞ見なくても警戒できるくせによ?」


できるけどね。それでも目視のみ、または魔力探索のみ、とどちらかに偏った警戒は危険だ。五感、魔力も含めて六感を駆使して警戒することが生き残るコツだろう。ドロガーだってそれぐらい知ってるくせに。楽しようとしてんな?


「危険な位置だから頼りになるドロガーに頼んでんのさ。この中でお前が一番冒険者経験が長いんだからさ。それに忘れたか? このパーティーのリーダーはお前だろ?」


「へへっ、なんだよ。分かってんじゃねぇか。そう言われちゃあ仕方ねぇぜ。リーダーとして最後尾の警戒しといてやるよ。おーし! そんじゃあ魔王と狼ぁ先頭だぁ! 女神ぁ女のお守り、クロミぁ遊撃でいいな! 蛇は……どうすんだ?」


「ピュイピュイ」


アーニャの首に巻きついた。どう考えても無防備な一般人だからね。地雷原を一人で散歩するようなもんだ。どれだけ周りが警戒していてもし過ぎることはあるまい。


「よぉーし! そんじゃあ新生ブラッディロワイヤルの出発だぁ! てめぇら! 気合い入れていくぜぇ!」


「おう。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


アレクとクロミは軽く頷くだけか。もう少し乗ってやろうよぉー。

何はともあれ二十一階の攻略開始だ。


氷柱こおりばしら


通路サイズの円柱だ。こいつを私たちより五メイル程度前をごろごろと転がす。罠も魔物も全部まとめて潰してやるぜ。


我々の 手先となりて 氷柱

迷宮ころころ 転がっていけ


うーん。なんだか前も同じような句を詠んだ気がするな。別にいいけど。おっと、さっそく落とし穴か。私たちが歩く前に開いてくれるから助かるね。えーっと、下は特に何もなし。落ちてもイテッで済むレベルか。

そしてこの階の魔物はゴブリンか。生意気にとんがり帽子なんてかぶりやがって。さらに生意気に魔法まで撃ってきやがる。まあ、その魔法もあいつらも丸ごと氷柱に押し潰されてるんだけどね。やっぱ迷宮の進み方はこうでないとね。


「あっぶなーい。」『葉斬』


その割には呑気な声だこと。クロミの上にスライムが落ちてきたらしい。迷宮内ってさっきまで何もいなかった所でもこれがあるからなぁ……厄介だわ。それにしてもクロミもやるよなぁ。普通あの手の切り刻む魔法でスライムは倒せないってのに。どんだけ細かいミンチにしたんだよ。


ん? この先に……


「ドロガー、先頭に来てくれ。カムイは最後尾に。」


「ガウガウ」




「おう、どうした?」


「この先にたぶん赤兜どもがいる。人数は六人。基本的には殺さず解呪してやるつもりだから、最初はドロガーがフレンドリーに話しかけてくれ。」


「そりゃあ構わねぇが。あいつら基本的にクズだぞ? 会話にならなくても知らんぜ?」


「ああ。構わん。任せるよ。」


クズだからこそ生かしておきたいのさ。ふふふ。それから効率よく解呪するには半径二メイル以内には近付きたいからな。別に十メイルの距離からでもできなくはないけど、魔力の無駄遣いが酷くなるからね。


『氷柱解除』




そして警戒しつつ歩くこと三十分。追いついたってことは当然ながら私たちの歩くペースの方が早いってことだ。まあ、あいつらの後ろだとそこまで罠を警戒しなくて済むしね。


「おらぁお前ら! そこを動くな! どこのモンだ!」


目視できる距離まで近付いてようやく気付きやがった。鈍い奴らだねぇ。


「待て待て。俺だ。五等星の傷裂きずさきドロガーだ。」


「あ? ドロガーだと? 傷裂かぁ!」

「え、マジで!? なんでシューホーにいんだ?」

「ぞろぞろ引き連れてんな。おろっ? もしかしていい女もまじってね?」


おっと。アレクもクロミもすでに普段の服装なんだよな。そりゃあ美貌がバレバレだわな。おまけにアーニャも。


「つーか女の方が多いじゃん? こいつはいいな!」

「うーん、でもドロガーと揉めんのも割が悪ぃなぁ」

「なぁーに。そんなもん交渉次第だろ?」


「悪いが通らせてもらうぜ? 慣習通り左に寄ってもらおうか。」


へー。後ろから追い抜く時はそんなルールがあるのか。


「まあ待てって。もう一時間も歩きゃあ安全地帯なんだ。そこでどうよ? 噂みてぇに女ぁ貸してくれよ。おおーっともちろん素材払いでいいぜ?」


噂?


「悪いな。急いでんだ。それにここにいるのは俺の女じゃねーからよ。無理だ。さあ、俺だって赤兜騎士団と揉めたかぁねぇ。寄ってくんねぇか?」


ドロガーはそう言ってるのにバカな赤兜が二人、こちらに近寄ってきた。揉める気はないとの体裁を整えるためだろうか両手を挙げたまま。おおかたアレクの顔を間近で見たいのだろう。アレクったら罪な女の子だね。


でもいいカモなんだよな。『解呪』

うん、普通に契約魔法がかかってたな。そこまで強くはないやつ。でも私でなければやすやすと解呪もできないであろうレベルで。必然的に迷宮の床に崩れ落ちる二人の赤兜。


「なっ! お前ら何をしたぁ! 抜剣!」


全員が剣を抜き、うち二人がムラサキメタリックの鎧へと換装した。


『白弾』


まずは赤いままの二人を片付ける。よし残りは紫が二人。


「ドロガー、一人相手にできるな?」


「いいけどよぉー。なんだかなぁ……」


その顔はせっかく会話で解決しそうだったのに余計なことを……って感じか? だってバカが寄ってきたんだもーん。


螺旋貫通峰らせんかんつうほう


ムラサキメタリックの鎧に換装したばかりだからな。戦闘態勢になりきれていない。そこを全力で突いてやった。ほぉーら、腹に穴が空いたねぇ? そして穴からイグドラシルの棍『不動』を通して『解呪』っと。


「おいっヨギル! 大丈夫かっ!?」


おっと、よそ見なんて余裕かましてると……


「ぬぐぁっ!」


へぇー。ドロガーも鮮やかなもんだな。まさか縄を足に巻き付けただけとは。こいつ転んだ勢いで剣を落としやがった。騎士失格だな。


「ふぁがぉっ!」


横から口に不動を突っ込んでやった。そして『解呪』それから不動を『浄化』


「よし、片付いたな。その剣いるか?」


「いや、いらねー……こんな収納もできねぇ剣なんざ重荷でしかねぇぜ。」


私もそう思う。思うが、いただく。


『収納』


ふぅ。今日一日の間に使った魔力より、この剣二本を収納する方がよっぽど魔力を食うよな。一気に疲れた。だが、筋肉痛はきていない。今のところだが、やはり私の体は確実に強くなっていることだろう。


「ムラサキの剣を……意味分かんねぇよ……」


「魔力でごり押ししただけさ。それよりいい攻撃だったな。まさか縄とはな。」


「あの鎧だからよぉ……何しても無駄だぜ? あーするしかねーだろ?」


それでも対処法を常々考えてたってことだな? さすがは五等星だけあるな。いきなりムラサキメタリックと戦闘になってもきっちり対処しやがった。やるじゃん。


「そりゃそうだ。さて、安全地帯までもう少し歩こうか。」


「お、おお……おっと、こいつらにトドメは刺さないんだな?」


「ああ、今のこいつらはヒイズルにとっては害でしかないクズだからな。せいぜい好き勝手に動いてもらうさ。」


「死ぬほどエゲツねぇな……」


ジュダの野郎も相当エゲツないと思うがね。


あ、そうそう。


「アレク、悪いけど赤い奴を一人だけ起こしておいてくれる? せっかく生かしておいたのに魔物に食われちゃあもったいないからね。」


「ええ、いいわよ。」


『覚醒』


へぇ。さすがアレク。一気にスパッと起こすんじゃなくて寝ぼけてる程度で抑えてるんだね。私たちがこの場を離れる頃、ようやく目が覚めるように。上手いなぁ。頭なでなで。


「も、もう何よカースったら……バカ……」


あらら、クロミがそれぐらいウチでもできるしって言いたそうな顔してる。アーニャは壊れた笑顔のままだけど。


さて、どんどん行こうか。

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