1566話 迷宮内のトイレ事情
地下十二階の安全地帯。気分的には夕食の時間だ。
「ドロガーさぁ、昼と夜が分かる魔道具持ってないの?」
「あれかぁ……ねーよ。迷宮だとあると便利なんだけどよぉ。迷宮以外だと役に立たねぇんだよ。そのくせ天都イカルガの王家御用達の魔道具屋で完全受注生産ときたもんだ。最低でも三億ナラーだぜ? 誰が買うかってんだ!」
時の魔道具ほどではないが、さすがに高いな。だが、全然買えない金額ではない。迷宮内で昼と夜が判別できたら便利だよな。体調に関わる話だし、体調は命に関わる。まあいいや。ここには赤兜がたくさん潜ってるようだし、持ってる奴から奪えばいい。
「なるほどな。キサダーニは全財産二十億ナラー以上あるようだったが、お前だと買えないのか?」
「へっ、舐めんなよ? 買えるに決まってんだろ。買う意味がねーから買わねーだけだってんだ!」
「そりゃそうか。よし、焼けたかな。食おうぜ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんは昼間のイワミミタケも焼いて欲しいと言い、カムイはそれを焼くなら違う鉄板を使えと言っている。違いの分かる二人だね。ミスリルボードは十人乗っても余裕なぐらい広いってのに。
「カズマカズマカズマー!」
迷宮に入ってからもアーニャは眠らせていない。先は長いことだし、いつまでも眠らせたままでは体によくないからな。また多少は歩かせないと今後の体力にも関わってくる。壊れた心を治す前に体をしっかりと作っておかないとな。
ちなみに、最近アーニャはついにフォークを使うことを覚えた。ナイフは使えないが、フォークで肉を突き刺して口に運べるようになったのだ。これもきっとアレクの教育の成果だろう。電撃マナーレッスン恐るべし。
ただ、大きい塊でもフォークに刺さったものなら無理矢理食べようとするため、あいつの周辺には細かく切った肉を並べておかなければならない。それは私の役目だったりする。
さらに言うと食事中は私の左腕にしがみつかなくなった。食べることが優先なのか、アレクのレッスンの成果か……アレクのおかげだろうな。
ふぅ。腹いっぱい。よし、風呂に入ろうかな。
「ちっと聞いておきてーんだがよ。お前ら出すモン出す時ぁどうしてんだ?」
うーん、トイレ事情か。答えにくいな……特にアレクの口から答えさせたくない。だが、ドロガーのこの質問は避けて通れない重要問題なんだよなぁ……
「俺らは基本的に安全地帯でしかやらない。一番奥の隅に『
初級魔法『土芥』普通は土をぽろぽろと出すだけの役に立たない魔法だが、私が使えば洋式便器だって作れるのさ。
カムイは時々トイレを使うがコーちゃんはそもそも何も出さないしね。コーちゃんが何かを食べるのって栄養や魔力補給以外に娯楽って面が非常に多いんだよなぁ。
なお実際には土芥だけでなく水の魔法と乾燥まで使い、少し強度が出るよう仕上げてある。座るからね。おまけに便器の内部にはある程度の水も溜めてあるため、匂いが漏れることはない。どうせほぼ一泊しかしないからね。
「やっぱり魔法かよ……ほんとお前らとんでもねぇな。で、出発する時その便器とやらはどうしてんだ? 放置か?」
「そりゃあそうだろう。だいたい翌日の遅い時間には消えてんだからさ。」
だいたい昼前には消えてるよな。同じタイミングでシェルターは消えたりしないのに便器だけ消えるとは不思議なものだ。魔物の死体を放置した場合も同じようなタイミングで消えるんだろうか。違うか、すぐ素材を落として消えるだけだもんな。いずれにせよ『迷宮だから』で済ませるしかないな。
「それ、やめといた方がいいぜ。お前なら魔力庫に収納するなり焼き尽くすなりできんだろ? 赤兜の奴らだって誰も守っちゃいねーけどよ。迷宮にゴミを捨てるような真似をすると神が怒るらしいぜ?」
なんと……言われてみれば私だって楽園にゴミを捨てる奴は許せない。なるほど、それは神も同じってことか……
「分かった。なら今後は朝イチで焼くことにしよう。」
臭そうな気もするが私の炎なら一瞬で何もかも燃え尽きる。心配はいるまい。
ちなみにアレクもクロミもこの話には入ってこない。この手の話は私に任せてくれたらいいのだ。
「聞いた話だけどよ? 過去にこのシューホー大魔洞で二十階超えのパーティーがいたそうでな。そいつら五等星ぞろいで腕は確かなんだがどうにもマナーが酷かったんだと。クソ、小便はそこら辺に垂れ流して放置。酒飲んで暴れちゃあゲロまでぶちまける。おまけに唯一の女と全員で……その後も特に片付けることもなく、目が覚めたら安全地帯を出発ときたもんだ……」
迷宮ならば後始末なんかしなくていいと考えるのが普通だよな。だが、それを差し引いても今の奴らは酷すぎるな。来た時よりも美しくって言葉を知らんのか。
「で、結局そいつらはどうなったんだ?」
「詳しくは知らねーが、神の怒りをくらったらしいぜ。全滅こそ免れたみてぇだが二度と迷宮に入ろうなんて気ぃ起こさねぇんじゃねぇか?」
「ふーん。神の怒りは怖いな。お互い気をつけような。さて、風呂入るとするわ。ドロガーもクロミも入るよな?」
「はぁ!? 風呂だぁ!? 入るに決まってんだろ!」
「ウチも入るぅー! ニンちゃん一緒に入ろぉー!」
この夜、私はアレクと二人きりで風呂に入ろうとしたのだが、アレクはアーニャと入ってしまった。クロミにはカムイを洗う任務を任せた。
結局私はむさ苦しくもドロガーと裸の付き合いをするはめになってしまった……
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