1565話 シューホー大魔洞
カゲキョーでは迷宮の周囲に街ができていたが、ここは違う。山の中にぽつんと入口があるだけだ。まあ周囲には赤兜用なのだろう、住居っぽいのがいくつかあるようだが。
ここは山の中なのでだいぶ下ったところに街があるらしい。
さて、物珍しそうにニヤニヤとこちらを眺めてくる赤兜ども。
「あっれぇー? お前ってもしかぁ傷裂ドロガーじゃん? どうしたどうしたぁ?」
「えっ、マジで!? 珍しいこともあるもんじゃん? 明日ぁ雪でも降るんかぁ?」
「いいんかぁ? 迷宮税は八割だぜぇ?」
「おっ? 女もいんじゃん? てーか女の方が多いんか?」
「よぉ。久しぶりだな。ちっと潜りたくなってよ。さっさと手続きしてくれや?」
ほほう。顔馴染みか。
「待て待て待て。久しぶりじゃん。話ぃ聞かせろや。ヒイズルにその名を轟かせる傷裂ドロガーさんの武勇伝をよぉ?」
「俺も聞きてぇぞぉ? あれからどうしてたんだぁ?」
「はぁー? お前らもの好きだなぁ。そんなだりぃことしてねーでさっさと行かせてやれよなー?」
「よぉーし女の子たちはこっちで手続きしよぉーぜー!」
あれから? ドロガーにも色々あるってことか。残念ながら興味はないな。
「そいつはまたでいいだろ? 新しいパーティーなんだ。今回は様子見だからよ。出てきたら飲もうぜ?」
「しゃーねーなー。ほれ、これに署名しな。ったくもの好きだよなぁ。迷宮税八割だってのによ?」
「栄光の日々が忘れらんねーんだろ。どうせ記録更新とか狙ってんだろ?」
「ほーれ早く書きな。あーだりぃ」
「おっ、君って黒い肌の割にすべすべじゃん? いい艶してんねー?」
『葉斬』
げっ!
「は? お、おい、テルヒ……テルヒは……」
「な、なんだそりゃ……どうなって……」
「魔法だぁ! この女ぁ魔法でテルヒぃ殺しやがったぁ!」
ちっ……クロミの奴……『狙撃』
残りの三人も始末した。そして死体を収納。肉片も素早く片付けた。そして『浄化』
「おい、さっさと入るぞ。」
「お、おい魔王、こりゃどうなって……」
「いいから。話は後だ。さっさとこの場を離れるぞ。」
「お、おお……」
まったく……せっかくのドロガーの演技が台無しじゃないか。まあ私もクロミに大人しくしとけって言わなかったのが悪かったのか?
迷宮を攻略するのに後ろから追手がかかったら面倒だと思って大人しく入るつもりだったのだが……
少しかけ足でシューホー大魔洞へ突入。ふぅ、やれやれ。
「それでクロミ。何があった?」
確かあの魔法は『葉斬』だったか。赤兜の奴がミンチというかサイコロステーキになってたよな。
「えー? だってあいつウチの腕を触ったしー。キモかったからついやっちゃった。だめだった?」
忘れてた……そういやエルフやダークエルフは人間を虫のような存在だと思ってるんだったか……
つまり私たちが蚊を叩いたりうっかり蟻を踏むような感覚で殺したってことか。
「いや、悪くはない。ないけど次からは俺がやれって言うまで待ってくれるか?」
「えー? 別にいーけどぉー。でもキモすぎて我慢できない時は別だからー。それぐらいいいよね?」
「どうしても我慢できないものを我慢しろとは言わないさ。できる限りでいい……」
戦力としては強力なんだけどなぁ。
「つーか何だぁあの魔法はよぉ……あの頑丈な赤い鎧がコマ切れんなってたよな……?」
「別にあれぐらいフツーだしー。」
そりゃあそうだろうよ……
「よし、乗れ。行ける所まではさっさと行くからな。」
ミスリルボードを出す。ここの迷宮もカゲキョーと同じだ。一辺五メイルの正方形を立てたような通路。ならばガンガン飛んでいってやるよ。最短距離でボス部屋まで。
「マジかよ……もう五階だと……!?」
カムイの言うがままにボードを飛ばしていたら、五階のボス部屋前に到着した。途中に魔物は何匹も出てきたし、赤兜もたくさんいた。魔物は無視し、赤兜には榴弾をばら撒いた。全員即死とはいかないだろうが、かなりの死傷者がでたはずだ。赤兜には容赦する気はない。
ここで止まった理由は、ボス部屋の扉が開かないからだ。
「先客だ。こうなったらのんびり待つしかねぇぜ。装備のチェックと回復を……お前らには必要ねぇな……」
ここまで体力すら消耗してないからな。よし、ちょっとドロガーに面白いものを見せてやろうかね。
「ん? 棍なんか取り出して何すんだ?」
「まあ見てな。」
『身体強化』
『螺旋貫通峰』
「はあっ!? ば、ばかな! ここ、迷宮だぞ!? 迷宮は壁も扉も一切傷がつかねぇのが常識だってのに……」
「少し待ってな。」
扉の下あたりを半円状にくり抜いた。これで中に入れる。
おっ、ボス戦やってるね。少し大きめのゴブリンか。関係ないね。
『榴弾』
ボスも赤兜も全滅させよう。
おっ、マジか! ここの赤兜ども、魔力庫の設定がそっちなのか。中身をぶちまけてやがる。ムラサキメタリックの鎧を発見。色的に古いやつか……
「カース、腕は大丈夫?」
「うん。なんとかね。」
アレクが心配するのももっともだよな。いつも私はこうやって無茶して動けなくなってるんだから。だが、その甲斐あってか少しは体が強くなっているようだ。今のところ筋肉痛はない。
「魔王よぉ……信じらんねぇわ……まさか迷宮の扉をぶち破るとはよぉ……」
「どうよ。すごいだろ。じゃあどんどん行くぞ。」
「お、おお……」
ふふふ。いつもながら人が驚く顔を見るのは楽しいものだ。
この日は十二階まで降りた。そしてそこで休むことになった。
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