1564話 突入準備
ドロガーが簡単な地図を持っていたので見てみると……オワダからシューホーまで直線で八十キロルないぐらい。テンモカに行くよりかなり近い。
しかし、地図にない情報としては……山の峻険さだ。オワダから真っ直ぐ東に飛んでみると、いきなり岩壁にぶち当たった。結構な高度で飛んでたにもかかわらず。これにはびっくり。感覚では現在の高度は二キロル。なのに岩壁の上が見えない。どんだけ高いんだよ。でも気にせず上昇。イグドラシルの時のように、いつまで登ってもキリが無いなんてことはあるまい。
それより気になるのが……
「ドロガー、あれってキノコの一種か? 食べられる?」
「おっ? ありゃあイワミミタケじゃねーか! マジかよ! こんなに生えてんのかよ!」
「イワミミタケ?」
「おおよ! 見てみ? 岩から耳が生えてるように見えんだろ? だからイワミミタケってわけだ。あいつぁ食っても旨くぁねぇんだがよ。薬の原料としちゃあ高く売れるぜ?」
薬かぁ……要らんなぁ。
「ちなみにどんな薬?」
「あ? 決まってんだろ? 気持ちよくなるお薬だぜ? ちっと採っていこうぜ!」
あー、そっち系ね。岩みたいな地味な色してるくせに。
『風操』
「半分やる。そんだけあれば充分だろ。」
「お、おお……お前ホントすげえな……」
「ピュイピュイ」
もーコーちゃんたら。お薬と聞いてすーぐ食いつくんだから。なになに? 生で食べてもそこそこ美味しいって? でもやっぱりお薬は南の大陸産が一番? もーコーちゃんたらグルメなんだから。
体感では高度四キロルを越えた。ムリーマ山脈や山岳地帯にはもっと高いところはあるが、この狭い島国でここまで高い山があるとは……しかも垂直に切り立った岩壁。絶景すぎる。今思えばこの岩壁を迂回した方が早かったかも知れないが、まあここまで来たんだし。このまま上昇を続けよう。
おっ、ようやく岩壁の切れ目が見えてきたか。結局高度五キロルってとこかな。風壁を張ってるからいいけど、外はさぞかし寒いんだろうね。さっきイワミミタケを採った時、一瞬だけ風壁に穴を開けたけど、一瞬じゃあ分からないよなぁ。まいっか。これでやっと進める。
へぇー……頂上ってめっちゃフラットだな。まるでノワールフォレストの森で見つけた高地のように。意外に広いな。密林ぽいものから岩石砂漠っぽい景色まで見える。
おっ、意外と魔物までいるし。野生って言うのも変だがヒイズルで野生の魔物ってあんまり見てないよな?
「ヒイズルってドラゴンいねーの?」
「ばっ、バカ! いるわけねぇだろ! 俺は見たこともねぇぜ!」
ふーん。ここの頂上広場ってめっちゃボス的な魔物が住んでそうな雰囲気なんだけどなぁ。迷宮に潜るよりここに登頂するほうがよっぽど難しいよな。だからボスぐらいいてくれてもいいのに。なんたる無茶な理論!
「まあいいや。このまま東に進めばいいな。」
羅針盤があると本当に便利でいいな。
「お、おお……ここだってきっとお宝だらけだぜ……寄ってかねぇのかよ……」
「行かねーって。お宝なら迷宮の中にあるだろ? どっさりとよ。」
「そりゃまあそうだけどよぉー。ここだってよぉー……」
「じゃあ帰りだな。シューホーをクリアして魔力庫に余裕があったら寄ろうぜ?」
「んー、それもそうだな。魔王さぁ……お前って若いくせにしっかりしてんよな?」
今さら何を言う。
「普段なら俺の行動は全て遊びなんだけどな。今回は遊びじゃないからよ。マジにもなるってもんさ。」
「それもそうだな……」
もちろんドロガーにだって事情は話してある。心が壊れたアーニャを神の恩恵で元に戻してもらうためだと。物見遊山などと言っている場合ではない。
さて、頂上広場の中心あたりでは魔物が襲ってくるかと思えばそんなこともなかった。こんなところに住んでる奴って獲物に飢えてそうなイメージなんだけどな。まいっか。
さて、何事もなく下降に入った。帰りにまた寄ることになるのかねぇ……
こちら側もやはり切り立った岩壁。これを魔法なしで登ろうとしたら何日かかることやら。
「そろそろ近付くぜ。山なりに東に進んでみな。」
切り立った岩壁エリアは終わり、なだらかな斜面に群生する立木エリアへと差しかかった。
「ここらは魔物があんまいねぇからな。冒険者でも来る奴ぁ少ねえな。もうそろそろだぜ。」
普通なら山の下から登るところを上から降りてくる奴なんていないだろうね。さぁて、どっちの作戦でいこうかな……
よし、決めた!
「ドロガー、お前がリーダーだ。俺たちは新しいパーティーで名誉のみを求めてシューホー大魔洞へやってきた。いくら税を払おうと構わない覚悟で入ろうとしている。その設定でいくぞ。上手くやってくれよ?」
「あー、なるほどなぁー。てっきり門番の赤兜どもをぶち殺して突入するんかと思ってたぜ?」
それでもよかったんだけどね。最初ぐらい穏便でもいいだろう。
「じゃあアレク、着替えようか。地味な服装に。」
私は麻の道着にしよう。
「こんな感じかしら?」
「うーん、だめだね。帽子もかぶろうか。」
「そう?」
アレクの顔が見えてしまってはどんなに地味なボロキレを着たって隠しきれない魅力があふれてしまう。
「クロミも顔が見えないようにどうにかしな。」
「えー? もー! 分かったしー。」
ターバンらしき物をぐるぐると巻いている。黒い肌に意外と似合ってるな。口まで隠れて目しか出てないけど。
アーニャにも着替えさせた方がいいな。ミニスカートだもんな。赤兜どもには目の毒だからな。
「さすがに赤兜どものことをよく知ってやがんな。あいつらの本性はとことんクズだからな。税のことがなくてもあいつらが門番してるから迷宮に潜る奴らが減るんだぜ。」
「たまに、本当にごくたまにまともな奴もいるけどな。大半はクズばっかりだよな。あれで天王直属とはな。いや、天王直属だからか?」
「かかかっ! 言うじゃねーか! どうせそんなところだろうぜ。ぃよぉーし、そんならもう少し下に行くか。で、入口まで歩いて登ろうぜ。」
いきなり上から現れたら警戒させてしまうからな。普通に下の道から歩いて行くのが無難だろう。
入口からはだいぶ離れたから、もう見えないだろうが一応『隠形』を使いつつ着陸。
「おーし、そんじゃあ行くぜ。俺たちぁ傷裂ドロガー率いる新進気鋭のパーティー『ブラッディロワイヤル』だぜ!」
なんだそれ……いや、まあいいけどさ……
「お、おう……」
そうして歩くこと十五分。シューホー大魔洞の入口が見えてきた。その周辺で、ゲヘゲヘと下品な声で笑う赤兜どもの姿も。
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