1563話 いざ! シューホー大魔洞へ!

全員が城門をくぐり抜けたら氷壁に乗せる。

そして出発。今回の氷壁は空のような青色にしてある。昼間だからな。下から目立たないようにだ。今さらかな。


だいぶドロガーも空に慣れてきたらしい。クロミとお喋りをする余裕があるようだ。だが悪いな。もう着いたぞ。いきなりオワダ商会前に着陸だ。


「はっ? ここは……まさかオワダか!?」


「あー着いたのー? 近かったんだね。」


テンモカとヤチロは直線距離で二百キロルないぐらいだからな。三十分とかからない。なんなら十五分もかかってないだろうな。


「ああ、着いたぞ。よう、番頭さんいるかい?」


ぽかんとしか顔で私たちを見ていた丁稚くんに声をかけた。見覚えがあるんだよな。


「は! はい! お待ちください!」


慌てて店の中へ駆け込んでいった。一生懸命なのはいいことだね。そして三十秒も経たずにバタバタと駆け寄る音が聞こえてきた。


「これは魔王様! ようこそお越しくださいました! おお、これが今回の人員ですね! かしこまりました! この番頭タイト・シリノアが責任もってバンダルゴウへと送り出します!」


「頼むよ。悪いが俺たちはもう行く。後は任せるから。」


「お、お待ちください! じ、実はその、魔王様に聞いていただきたいことがございまして……」


「聞くだけね。何かな?」


「そ、その……実は私、せ、先日……け、けけ、結婚をいたしまして……」


「おおー!それはめでたいね。おめでとう。」


結婚祝いは……必要ないな。この番頭にはかなり稼がせてやってんだから。


「それで、そ、その相手なんですが……」


「うん。相手が?」


いい歳したおっさんが体をくねくねさせながら照れ臭そうに話す姿はあまり見ていて気持ちがいいものじゃないな。


「ポリーヌさん……あのポリーヌ・シラクさんなんです!」


「ほぉー? 番頭ぉやるじゃん。もしかしてテンモカの花、夢幻海楼にいたポリーヌかぁ? ローランドに帰ったんじゃなかったんかよ?」


おお、ドロガーの奴くわしいな。ポリーヌとは……確か私が解毒してやった女かな?


「おお! あなた様は! 音に聞こえし傷裂きずさきドロガーさんじゃないですか! ようこそオワダへ! で、魔王様! 私ついに結婚したんです! もう嬉しくて嬉しくて!」


ふーん。娼婦上がりの女と結婚か。大丈夫なのか? この番頭は大商会のナンバーツーとは思えないほどお人好しなところがあるからな。まあ二人がいいならいいよね。


「そうか。おめでとう。ポリーヌにもよろしく言っておいてくれ。ついでにこれお祝い。二人でお揃いの服でも作るといい。」


魔力庫に少しだけ残ってたエビルパイソンロードの皮だ。これで完全になくなった。かなり長いこと魔力庫で眠ってたんだよな。あげる気なんかなかったのに。まあ、たまには在庫整理をするのも悪くないね……


「おお……これは見たところ蛇のようですが、何たる上質な……」


「エビルパイソンロードってやつ。元は巨大な蛇だったんだけどね。これが最後なんで、まあ使ってみてよ。」


「お、おお……エビルパイソンロード……すごい……ありがとうございます! 過分なお祝いをいただいてしまいまして! ポリーヌともどもありがたく使わせていただきます!」


私とアレクが着てるドラゴン革に比べたら数十段落ちるけどね。


「どんだけでけぇ蛇なんだよ……」


「うーん……さすがに覚えてないな。」


ノヅチに比べたら大したことなかったのは覚えてるけど。ノヅチって砂でも何でも吸えば吸うほどデカくなっていったよな。怖いわー。


「じゃあポリーヌにもよろしくな。しばらく来れないとは思うが、またローランド人を集めたら来るから。」


「はい! お待ちしております! 魔王様の行く道に栄光あれ!」


なんだか別れの挨拶っぽくないなぁ。普通でいいのに。

今度はミスリルボードを取り出してメンバーを乗せる。


『浮身』

『風操』


「じゃあシューホー大魔洞へ案内頼むぞ。」


「おう。ここからほぼ真東だぜ。歩きで行くのはまず不可能だろうが、お前は飛べるからよ。まっすぐ行こうぜ!」


「よし。行くか……あ、待った! 忘れてた。ドロガーさあ、迷宮内で寝る時はどうする気なんだ?」


「あぁ? そんなもん普通に寝袋に決まってんだろ? お前は違うのか?」


「ああ違う。でもお前がそれでいいなら全然問題なかった。クロミは何か外用の寝具なんかあるのか?」


ドロガーをシェルターに入れる気はないからな。


「ウチは普通に魔法使うし。問題ないよー?」


ほほう。さすがはダークエルフ。どんな魔法かは知らんが本人が言うならいいだろう。でも迷宮は長丁場だからな。へばっても知らんぞ?


「それより本気で攻略する気なんだよな? 食糧は足りんのか?」


「楽勝で足りるぞ? 豊穣祭でもらったのもあるが、それがなくてもカゲキョーを攻略するに当たってどっさり買い集めたからな。下手すりゃ三年分はあるな。」


ドロガーとクロミ、そしてアーニャが増えたことを加味してもだ。


「三年分かよ……どんな魔力庫してやがんだよ……

まあカゲキョーだと三十階以降はほとんど食糧を落とさねーって聞いてるからよぉ。シューホーだと二十階ぐれぇまでは食えるもんが多いぜ?」


「それならやはり問題ないな。一応中ではぐれることも考えられるからお前らもそれぞれ食糧を詰めておくか? 魔力庫にさ。」


「てかさぁニンちゃん? ここの神域ってお腹へるの?」


あ……クロミに言うの忘れてた。つーかこいつ正体隠す気ゼロか!


「何言ってんだクロミ? しんいき? 迷宮だろうがどこだろうが人間生きてりゃ腹へるに決まってんだろ?」


「腹の減らない迷宮もあるのかもな。じゃあちょっと引き返して買い物するか?」


「いや、いらねー。中に入りゃあどうせしばらくは肉だらけだからよ。魔力庫は空けておいた方がいいぜ。」


それもそうか。それじゃあシューホー大魔洞目指していざ真東だ!

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