1562話 救出されたローランド人の一場面
はふぅ。いやー旨かったなぁ。迷宮ではこの味が堪能できないと思うと残念だ。専属料理人として連れて行きたいもんだわ。マジで。
「おいしかったよ。色々と世話になったね。」
「こちらもいい勉強になりやした! ワイバーンですか……忘れたはずの血が疼いてきやすね。ローランドにはさぞかし色んな魔物がいるんでしょうねぇ……」
「そうだな。会いたくない魔物も多いかな。それより今日でテンモカを出るからさ。残ったワイバーン肉は好きにしていいよ。フライパンは返してね。それから勘定はいくらだい?」
「いえいえ! これだけ勉強させていただいたんで、いただけませんや! フライパンは少々お待ちくだせぇ。最後に心を込めて磨かせていただきやすんで!」
ただ洗って返すんじゃなくて、心を込めて磨くときたか……いい。とてもいい。この店主はとてもいい男だ。ここはいい店だなぁ。
「フライパンだと? 魔王はそんなもんまで提供したってのか?」
「まあな。あのフライパンで焼くと肉が焦げつかないし、中までしっかり火が通るんでな。」
オリハルコンやムラサキメタリックだとどうなんだろうな……全然火が通りそうにない気がする。
「そうかよ……確かにうまかったぜ……」
「ご馳走になったよ。いつかローランドにも行ってみたいものだね」
「ふん……ゴチになったな……」
「ふぅ……」
「…………」
結局残り二人は何者だったんだ? まあわざわざ尋ねようとは思わないが。
食後のお茶を飲みながら待つ。えらい時間かけるなぁ。
「お待たせしやした! いやぁ磨いても磨いても手触りが一向に変わらないもんで! つい不安になっちまいやしてね!」
「いや、いいんだ。充分きれいになってるし、その気持ちが嬉しいよ。これはミスリルだから。職人が研ぐつもりで磨かない限り変化はしないんだ。ありがとうレッカさん。いつかテンモカに来たらまた顔を出すよ。」
「ありがとうございやす! 今を時めく魔王様に名前を覚えてもらえるなんざ末代までの誉れでさぁ! ぜひまたいらしてくだせぇ!」
悪い気はしないが『今』だけが絶頂みたいな感触もなくはないな……まあいいや。
「ああ。じゃあまた。」
「美味しかったわ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「カズマカズマカズマカズマ!」
「闘技場にも顔出せよな? 次ぁ正面からやろうぜ?」
「僕は遠慮しておくよ」
「俺と殴り合いすっか?」
「また……」
「…………」
「……じゃあな。」
さすがに闘士連中に用はないからな。私だってソネラプラとはもう戦いたくない。魔法ありなら話は別だけどね。
さて……騎士団詰所に戻るかな。それで全員をオワダに連れていけば、今日にでも迷宮に入れる。ちょっと魔力の残量が気になると言えば気になるが……ドロガーにも予定があるって話だし、早めに解放してやらんとな。
おっ、ドロガーもクロミも早いな。もう戻ってるとは。
「待たせたな。それじゃあ行こうか。」
「おう魔王、ちいっと前言撤回するぜ。」
「ん? どうした?」
ドロガーのやつ何かあったのか?
「お前らの迷宮行きに付き合うことにするぜ。もちろん顎足付きな。」
「そりゃあ構わんが、いいのか? 迷宮は危険なんだぞ?」
「舐めんなよ? 俺だって五等星だぜ? シューホー大魔洞の地下二十階ぐれぇなら到達してんだよ。ちっとお前らとなら踏破できるんじゃねぇかと思ってよ……踏破者になる名誉を思やぁ数ヶ月収入がねぇことなんざ全く問題なしだぜ。」
確かにね。こんなチャンスそうそうないよな。ちゃんと計算できるタイプだったのね。やるじゃん。
だが、それならそれで問題発生だな……
まあいいや。ローランド人を運んだ後で考えよう。
「ところで今日はこのまま城門を越えてもいいのか?」
近くで待機している騎士に尋ねてみた。
「い、いえ、申し訳ありませんが領主様からはそのような許可はいただいておりません……」
「分かった。だが歩いて城門から出る分には構わんよな? 手続きも便宜を図ってくれよ?」
「そ、それはもちろんですとも! ど、どうぞこちらに!」
騎士の先導で私たちは歩き始めた。ちょっとした大名行列だな。元奴隷のローランド人にしては身なりもこざっぱりしてるし。気を遣ってくれたんだろうな。見たところ歩けないような奴もいないし。きっちり治療が終わっているらしい。欠損している者がいないのは幸運だったと考えるべきか……
「なあ騎士さん。一応聞いておくけど、このローランド人の中に舌や足の腱を切られてた者はいたかい?」
「え、ええ、いました。舌を切られていた者が二人、足首裏の腱を切られていた者が四人です……」
なん……だと……?
「……足の方は治してくれたようだが、舌は無理だよな? ないものはどうにもならんだろ?」
「そ、その通りです……で、ですから魔王様のお言いつけ通り、そのような真似をした者どもは同じ目に遭わせてあります!」
別に言いつけたわけじゃないんだが……
「その二人を教えてくれ。誰だ?」
「は、はい、こちらです!」
騎士は小走りで列の後ろの方へと移動した。私も行こう。
「こ、この二人です!」
女か……二人ともくすんだ金髪。ローランドによくいるタイプだ。三十代前半ぐらいだろうか。私を見て頭を下げてきた。
「頭を上げてくれ。助けるのが遅くなって悪かった。ところでローランドに帰ってから行くあてはあるか?」
二人とも頷いてくれた。それならひとまず安心だ。全員の行くあてを確認する気などないが、もしこの二人が「ない」と答えていれば、楽園まで連れていっただろうな……
「ここの騎士はお前たちをそんな目に遭わせた奴の舌を切りとったそうだが、その現場を見たか?」
これまた二人は頷いた。この騎士を疑っていたわけではないが、確認は大事だからな。
「手持ちの金はどれぐらいある? 見せてくれ。」
今度は首を横に振った。そうか……一文なしか……当たり前だな。きっと他の者もそうなんだろうな。だが、全員に金を渡す気はない。
私は二人の胸元に手を入れる。張りのない胸してやがる……その状態で魔力庫から大判を取り出した。金を渡すところを他の者に見られるわけにはいかないんだよ。こいつらが脅しとられるだけだからな。
ヒイズルでも一千万ナラーがローランドでの一千万イェンとはならない。せいぜい百万イェン、金貨十枚ってとこだろう。だが、ないより遥かにマシなのは当然だ。せめて強く生きていって欲しいものだ。
私の好意を理解したのだろう。二人は泣きそうな顔で頭を下げてきた。そして胸の大判を魔力庫に収納したようだ。奴隷生活では魔力庫の使用すらできなかったんだろうな……
同じ目に遭わせるだけではヌルかったか……全財産を取り上げるぐらいしてもよかったな。まあいい。天都イカルガにはまだまだ拐われたローランド人がいるそうだし、そいつらを助ける時の参考としよう……
それにしてもムカつくな……
声を出させないだけなら契約魔法で事足りる。それなのにわざわざ舌を切り落とすような外道……
アキレス腱だってそうだ。足が動かないよう契約魔法をかければいいものを……
さては……その程度の費用をケチったか、それとも加虐趣味か……
両方ってセンもある。やはり同じ目ではヌルかったな……腐れ外道め……
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