1560話 テンモカにて
外で少し冷たい風に吹かれながら熱めのお茶を飲む。悪くないね。
「お待たせしやした。書いてきやしたぜ。」
カドーデラが手紙を持ってやってきた。ならばもうテンモカに戻るとするか。
「ついでにアタシとこいつをアラキタまで運んじゃもらえやせんか?」
「通り道だし構わんぞ。」
カドーデラとピエルね。
「魔王、この手紙を誰かバンダルゴウへ行くローランド人に持たせてはくれんか?」
ピエルか。兄である現当主に手紙か?
「それぐらいなら構わんが、その誰かがデルヌモンテ伯爵家にきちんと行く保証なんてないぞ?」
「分かっている。その者にはこれで頼んで欲しい。そしてできることならこの額で契約魔法をかけてもらえないだろうか……」
なるほど。ローランド金貨で五枚ずつか。手紙を届けるだけにしては張り込んだな。
「分かった。できる限りのことはしよう。それにしてもお前、手持ちに金貨があるとはな? 貴族失格だぜ?」
王国では金貨を含む貴金属の持ち出しは禁止だからな。
「分かっている。これはこっちに来てから手に入れたものだ。エチゴヤに囚われた時点で全財産を失ったことだしな。」
「ふーん、大変だったな。まあいいや。この件は引き受けた。手紙が無事に届くことを祈っておくんだな。」
それから、ビレイドもローランド人を引き連れてやってきた。では、全員でアラキタへ行くとしよう。そこでカドーデラとピエルだけ降ろす。新しく入港していた船が気になるってとこだろうな。
「じゃあ行くぜ。みんな集まりな。」
『氷壁』
『風壁』
「そいじゃあビレイド、留守は頼んだぜ?」
「は、はい……カドーデラさんもご無事で……」
『浮身』
『風操』
今回はアーニャを眠らせてもいないし、ドロガーに消音もかけていない。すぐ着くからな。
ほら、二十分もかかってない。
「じゃあな。このまま下ろすぞ。」
「へい。ありがとうございやす!」
「手紙……頼むぞ……」
『浮身』
二人をゆっくりと地面へと。つーかわざわざ私が使わなくてもピエルの奴は使えるよな? もういいけどさ。ではこのままテンモカへ。
来る時も通った城門前に着陸。多少混んでいるが私には関係ない。なんと言っても領主公認の名誉テンモカ領民だからな。領主一族に次ぐ力があるとか。
証書を見せると門番の騎士もささっと通してくれた。もちろん小銭は握らせてやったけどね。
これだけの人間を連れてぞろぞろ歩くのもなぁ……まずはローランド人を騎士団詰所に運んでおくか。そこですでに集まっている者と合流させておくとしよう。
おおー、五十人近く集まってるじゃないか。やっぱ豊穣祭でのパフォーマンスが効いたのかな。領主に蔓喰、色々と協力してくれたんだろうな。
「魔王様、先日は主人がお世話になりました。タチアナでございます」
「おお、闘士ギルドの組合長の奥さんかな。ローランドに帰るんだったな。」
「はい。子供たちが三人いますがよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。ただ、こっちに帰ってくる時が大変そうだが大丈夫なのか?」
一人は十歳ぐらいの女の子、もう二人は四、五歳ぐらいの男の子か。年子かな?
「はい。私もこちらに来て多少は魔法の腕が上がりましたもので。この子たちを守るぐらいならどうにかなるかと」
あ、そうだ。このおばさんに頼もう。
「ちょうど頼みたいことがある。報酬はローランド金貨で五枚。あんたならこの価値が分かるだろ?」
「もちろんです。違法なことでなければお引き受けいたします」
「簡単だ。この手紙をバンダルゴウのデルヌモンテ伯爵家に届けるだけ。一応は当主宛てだが、門番に渡せばそれでいい。やるか?」
「私がそれで罪に問われる可能性はござませんか?」
貴族を何だと思ってんだよ……いやまあ無理もないんだろうけどさ。
「あそこは当主も当主夫人も真っ当な人格だからな。わざわざヒイズルから手紙を届けた人間を罪に問うような真似はしないだろう。なんなら魔王に頼まれたと言ってもいい。」
「そうですか……それならばお引き受けいたしましょう」
「では約束だ。この手紙をバンダルゴウのデルヌモンテ伯爵家に届けてもらう。対価は金貨五枚。いいな?」
「はいっうっうう……ふはぁ……これが魔王様の契約魔法ですか……」
「悪いな。依頼人の頼みでな。特に不都合はないさ。じゃあこれな。よろしく頼む。」
「はい。かしこまりました」
子供たちが睨んでくるなぁ。私は何も悪いことはしてないぞ?
まあいい。これでピエルの頼みは解決だ。後は私の知るところではない。エルネスト君に何か手紙を書こうかとも思ったが、そこまでエルネスト君に用もないんだよな。
さて、後は蔓喰のカシラに手紙を渡せば終わりか。アラキでの出来事も少しは知らせてやらんとな。
「アレク、蔓喰の事務所に行こうよ。場所知ってるよね?」
「ええ、覚えてるわ。ここからだと少し歩くわね。」
「いいよ。もうすぐ昼だし、散歩ついでに何か食べようよ。ドロガーにクロミ、一旦解散で。昼過ぎにまたここに集合な。」
あら、アーニャが私を行かせないとばかりに飛びついてきた。腰の後ろに。
「いいぜ。よーしクロミ、旨いもん食わせてやるぜ?」
「うーん、まいっか。ヨッちゃん行こ。」
コーちゃんとカムイは私たちの方に来た。当たり前だな。仕方ないこのままアーニャも連れていくか……
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