1559話 アラキ島を飛び立つ時

アーニャは寝かせたまま、ドロガーとクロミに見張りをさせておこう。そろそろ起きる頃だろうし。


本部事務所内は閑散としていた。変だな?

おっ、ようやく一人発見した。


「ビレイドはいるかい?」


「ビレイドさんならたぶん二階の執務室かと」


「ありがとよ。」


二階、執務室か。あいつ真面目に仕事してんだねえ。偉いねえ。


ここかな。確か前の主は……ゼリアテって言ったか。私が娼館で殺したんだったな。

ノックは……いらんな。


「ビレイドいるかー。」


「ひっ、ま、魔王様!」


おっ、机に座って何やら書類なんか並べちゃって。大変そう。


「頑張ってんな。カドーデラはいるか?」


「は、はい! カドーデラさんは外の訓練場で生き残ったエチゴヤの残党を取りまとめてくれてます!」


「そっか。特に問題は起きてないな?」


「い、今のところですけど……」


これなら順調にこの島を取り返せるのかな。もちろんエチゴヤも黙ってないだろうけど。ここをきっかけに全面戦争とか始まりそうだよな。あ、そうそう。


「アラキタに大きめの船が一艘入ってたぞ。注意しときな。」


「大きめの……分かりました。ありがとうございます……」


さて、後はカドーデラと少し話をすればここでの用事も終わりかな。訓練場ってのは……外ねぇ。




おっ、いたいた。カドーデラにピエル。そして白い鎧たちとうす汚い野郎どもが。よく見ればカムイも一緒か。


「よし! 少し休んでなぁ!」


私の姿を見てカドーデラはそう言った。


「魔王さん! おかえりなさいやし!」

「ガウガウ」


「おう、ただいま。カムイも待たせたな。」


「ご用とやらは無事に済まれたんで?」


「ああ、正確には無理ってことが分かった。だから今から迷宮に潜る。ここの支配に関してはもう大丈夫だな?」


「へえ。問題ありませんや。でしたら魔王さんにぁヤスオ兄貴に手紙を届けちゃあいただけやせんか?」


テンモカか……集まったローランド人をオワダに運ぶ必要があるからな。立ち寄るのは悪くない。


「構わんぞ。せっかく取り返したんだから、再びエチゴヤに奪われないよう気をつけろよ?」


「もちろんでさぁ。今のところ魔王さんの契約魔法がかかってない奴にもビレイドがかけやしたからねぇ。よっぽどタチの悪い解呪使いでも来ない限り大丈夫だと思いやさぁ。」


「それならいい。アラニシのローランド人はもうここに移してあるな?」


「もちろんでさぁ。ついでにアラナカのローランド人も見つけてありやすぜ。総勢十人しかいやせんでしたがね。」


いやぁ結構な数字だと思うぞ? 渡航がちょいと困難なこんな場所にまで……


「ありがとな。助かる。それよりお前は帰らなくていいのか?」


「よかぁありやせんがね? さすがにビレイドだけを残してぁ帰れませんや。だからヤスオ兄貴に手紙ぃ書くんでさぁ。せめてゴッゾでも寄越してくれりゃあアタシも安心してヤチロに帰れるんですがねぇ。」


同じ蔓喰でも色々あるよなぁ。


「どうせヒイズル本土でもエチゴヤと全面戦争とかになりそうだしな。そりゃあ帰っておいた方がいいよな。本当ならテンモカの次はトツカワムに行って第四番頭を潰すつもりだったんだけどな。悪いが後回しだ。」


「そんな大事を軽く言ってくれやすぜ……そもそもアラキを奪還してくだすっただけで返しきれねぇ大恩ですぜ。まったく……魔王さんは大きなお人でさぁ……」


はは、照れるな。


「ああ、ついでに蔓喰で迷宮に詳しい奴なんていないか? 入口だけでも知ってる奴がいると助かるんだが。」


「んー……あ、ドロガーがいるじゃないですか。傷裂の兄ぃなら絶対知ってやすよ。潜ったことだってあるはずでさぁ。」


「あー、そりゃそうか。助かった。じゃあ手紙の用意ができたらローランド人と合わせて知らせてくれ。そこら辺でお茶でもしてるからさ。」


まだ昼飯には少し早いからな。


「へいっ! かしこまりやした!」


よし。それで後はもういいだろう。ローランド人を連れて、テンモカへ行って、蔓喰のカシラに手紙を渡して、そこでまたローランド人を乗せてオワダへ。それから迷宮へ突入だ。食料だってどっさりあるもんな。じっくり攻略してくれるぜ。


ちなみにこの話し合いの最中、コーちゃんとカムイはお互いの尻尾を捕まえるゲームをしていた。楽しそうで何よりだ。このまま好きにさせておこう。昼飯時には帰ってくるさ。


さて、本部事務所の前に戻ると……


「カズマカズマカズマカズマ!」


アーニャが目を覚ましていた。そして私の左腕にしがみついてくる。さっきまでアレクがそこにいたのに……アーニャを見て、譲ってくれたのだ……




「というわけで迷宮に行くんだが、入口知ってる?」


「おお、もちろん知ってんぜ。どこに行きてぇんだ?」


「うーん……シューホーとタイショーはどっちが難易度高いんだ?」


「そりゃシューホー大魔洞だろうぜ。どっちも踏破されてないのは同じだけどよ。タイショー獄寒洞は死ぬほど寒ぃことを除けば魔物はそこまで強くないんだよなぁ。まあ奥まで行きゃあ別だろうけどよぉ……」


うーん……どっちにしよう……

難易度が高い方なら……


「シューホー大魔洞にする。案内頼めるか?」


「そりゃあ構わねぇが、俺ぁ入らねーぜ? さすがにそこまで暇じゃねーからよ。」


「入口さえ分かればそれでいいさ。入口を確認後、好きな所まで連れてってやるよ。」


「いいぜ。案内してやる。だが入れるかどうかは別だぜ?」


「あー構わん。どうせ赤兜が警備してんだろ? 場所さえ分かればどうにでもなるさ。」


「ヒュー。さすがだな。そんじゃあ話はまとまったな。クロミと離れるのは残念だが、お前らと行動するのも後二、三日ってとこか。」


「えー? ヨッちゃんもくればいいじゃん? みんなで神域探検なんて面白そうだし!」


おっ、クロミったら意外とドロガーを気に入ってんのかな?


「そう言ってくれんのぁありがてぇがな。俺にも予定ってもんがあんだよ。これでも五等星だからよ。」


「そういうことだ。どうせ内部に入ったらカムイが案内してくれるしな。探索に問題はない。すまんがドロガー、もう二、三日頼むな。こいつはほんの気持ちだ。」


白金大判を一枚。少々過分な気もするが五等星を相手に報酬はケチるべきではないからな。


「おお……すまねぇな。ちっと多い気もすんけど、ありがたく貰っとくわ。」


「お茶が入ったわよ。」


アレクったらいいタイミングで。さすがだね。うーん美味しいね。

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