1556話 アレクサンドリーネの本心

ベッドの揺れで目を覚ますと、隣にはアレクがいた。


「おはよ……朝?」


「起こしちゃったわね。まだよ。さっき日が暮れたところ。お腹すいてない?」


「うん……すいてないかな。アレクは?」


「私もすいてないわ。そんなことより……」


おぷっ、口を塞がれた……もーアレクったら寝起きの私にも容赦ないんだから……

うおっ……アレクの顔が……だんだん下に……おほっお……












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ふぅ……

すっかり目が覚めてしまったな。アレクったら欲しがりさんなんだからな。かわいいなぁもう。


「ピュイピュイ」


おやコーちゃん。どこにいたんだい? お腹すいたの? 私もだよ。激しかったからかな。何か食べようか。

何がいいかな……今の気分は……


「アレク、味噌汁まいそしるが飲みたくなったよ。頼める?」


「いいわよ。私もお腹すいてきたし。作るわね。待ってて。」


「うん、ありがとね。」


ふふ、ここの設備だとアレクの料理が何でも味わえるんだよな。もっとも、アレクの料理は迷宮内でも美味しかったけどさ。




「ピュイピュイ」


錬魔循環しながら待ってたらコーちゃんが呼びにきてくれた。


うーん……ここを娼館にしたデメリットは、建物内を裸で歩けなくなったことかな。まあ自宅なんだから他の客なんか気にせず裸で歩いてもいいんだけどさ。でもそれで魔王は自宅じゃあ裸だなんて噂が流れても嫌だなぁ。

Tシャツにパンツでいいか。いつもの魔王スタイルの気分じゃないんだよね。やっぱ自宅ではとことんリラックスできる服でないとね。


ちなみにアレクはいつものワンピースではなく、簡素なドレスだった。人目があるもんなぁ。





うーん美味しかった。アレクったら味噌汁だけじゃなく色々と作ってくれちゃって。嬉しいなぁ。なぜか途中からアーニャまで乱入してきたけど。こいつどこにいたんだ? 飯時に左腕にしがみついてくるなんて、食べにくいだろうに……私は平気だけど。


食べたらまた眠くなってきたな……

アレクには悪いけど寝よう。しかしアーニャが離れない。いくらこいつでも私とアレクの寝室にまで連れていくことはできない……悪いが眠ってもらおうか……

いや、その前に風呂ぐらい入れてやるか……アレクに任せっぱなしってのも何だしな。私もさっき汗をかいたことだし。


「アレク、お風呂いこうよ。」


「そうね。でもアーニャはだめよ? まだまだ躾が終わってないんだから。先に行ってて?」


「そ、そうだね……」


アレクは厳しいなぁ……

アーニャを私から引き剥がしどこかへ連れていった。躾か……心が壊れていても、いや壊れているからこそ大事なんだろうなぁ……

アレクには頭が下がるよ……

コーちゃん行こうか。


「ピュイピュイ」




入浴を終えて再び寝室。もちろんアレクも一緒だ。部屋に入るや否や私に飛びついてきたアレク。うん? いつもと少し違うな……野獣感がない……むしろ何やら必死さを感じる……

どうしたんだろう……













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「アレク、何か心配ごとでもあるの?」


横になった私の左肩に頭を乗せているアレク。足は私の足に絡んでいるし、左手は私の右腕にまで回されている。抱きついていると言うよりは、しがみついていると言った雰囲気だ。


「別に……ないわ。ただカースのことが好きで仕方ないだけよ……」


「ありがと。嬉しいよ。」


それならそれでいいんだけど。


「ごめんなさい……嘘ついたわ……心配ごと、あるの……」


「何かな?」


珍しいな……アレクが私に嘘だなんて。


「アーニャのことよ……あの子をカースの側室にするのは構わないわ……構わないのに……カースの左腕にしがみつくあの子を見てたら……そこは私の場所よって気持ちが大きくなってきて……それで……」


「なるほど……」


歩く時も寝る時も、アレクは私の左側にいる。なぜこうなったのかは分からないが初めて手をつないで歩いた時からこうだった気がする。

今思えば、前世でのあいつもそうだった……

これは偶然なのか、それとも何かの因縁なのか……分からない……


もしあいつが、本当にあいつだったら……私は側室にするんだろうか……


もし、アレクにも……


「もし、もしもね。その……アレクにも前世の記憶があって……かつて愛した男がいたとしたら……僕は冷静でいられないと思う。たぶん嫉妬とかもの凄いことになる気がするんだよね。それどころか、もし本人の生まれ変わりが現れたりしてしまったら……殺してもおかしくないと思うんだよね……

それなのにアレクはあいつの面倒を見てくれて、あれこれと許してくれて……器の大きさがすごいよ。アレクが無理してるとは思ってないけど……無理はしないでね。」


「カース……もし私に前世の記憶があったとして、そんな男がいたとしても……私の気持ちは変わらないわ。断言できる。私にはカースしかいないもの。それよりも、無理はしてないわ。カースほどの男なんだなら側室や妾の二人や三人いても全然おかしくないわ。私が認めた女ならって条件はつくけど……

それにもし、アーニャの心が元通りになったとしても……カースに相応しくないと思ったら殺してでも側室にはさせないわ……無理はしないから……」


「アレク……」


なんだろう。

今のアレクの言葉……すごく気が楽になった気がする。あいつを殺すかも知れないって言ってるのに、すごく……


「アレク、ありがとう。なんだか嬉しいよ。自分でもよく分からない気分だけど。」


「いいの? 当たり前だけど本当に殺すわよ?」


「いいよ。その時はその時だよ。アレクの判断に間違いはないだろうしね。」


もしもそんな事態になったら……その時考えよう……

私のいいところは問題を先送りして深く考えないところのはずだ。それなのにウジウジ考えるからダメなんだ。ノリで、勢いで、その場その場で最良と思う判断をすればいいだけなのに。コーちゃんだってそう言ってたもんな。


そうしよ。


アレクの悩み相談をしていたはずなのに、私の悩みが軽減されてしまったのか? これはアレクがいい女だからだろうな。ありがたいなぁ……

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