1554話 揉めてる二人
うーむ……二日酔いで空を飛ぶもんじゃないな……
いつもなら平衡感覚ばっちりなのに今日はふらふら……ミスリルボードが揺れるせいで酔いが増す……酔いが増すからまたミスリルボードが揺れる……
完全に悪循環だな……
こりゃだめだ……
どこかで休憩したいが……下はノワールフォレストの森……山岳地帯ほどではないにしても、ここだって超危険な人外魔境だしな。迂闊に降りるわけにはいかない。
「ピュイピュイ」
この辺なら降りてもいいって? あっ、よく見ればあの巨大な木! そうか、ここらはノワール狼の縄張りなんだね。なら遠慮なく降りよう。少しだけ休憩だ。カムイがいないけど大丈夫だよな?
「アレク、少し休憩するね。思ったより気分が悪くてさ。」
「ええ、構わないわよ。私かクロミが飛ばしてもいいけど、たぶん休憩時間を考えてもカースの方が早いし安全だものね。」
それもそうなんだよな。よし、それではあの大木の根元に降りるとしよう。母上の召喚獣であるロボはいるかな?
バキバキと木の枝を折りながら深い森へと降り立つ。おっ、いるいる。ノワール狼がどっさりと。クロちゃんとネロちゃんはどれだろう。さっぱり区別がつかないな。
「カウカウー!」
「ガウウーー!」
おっ? 群れの中からこちらに駆け寄る二匹。さてはクロちゃんネロちゃんだな? 自動防御解除。そして『浄化』いくらかわいい二匹でも臭いことは臭いからな。
「カウカウ」
「ガウウ」
やっぱりそうだ。久しぶりだねクロちゃんネロちゃん。少し休ませてもらうね。
『水壁』
地面にウォーターベッドを作って……
「アレク、お願い。」
「ええ、いらっしゃい。」
毎度お馴染み膝枕。これで回復速度は五割増しだ。ふぅ……落ち着くなぁ。
「ちょ、ちょっとニンちゃん? 大丈夫なのー?」
「ああ、問題ない。ここのボスはうちの母上の召喚獣だからな。この二匹とも昔馴染みなんだ。一時間ほど休んだら出発するからそれまでゆっくりしてな。」
「ひえぇ……奥様すごぉい……」
ちなみにアーニャは眠らせてある。空で暴れられたら困るからな。眠っていても、胸元の赤い輝きは健在だ……
「…………起きて……カース……」
「……おはよ……一時間経った?」
「ええ。本当はもっと寝かせてあげたいんだけど……」
「いやいや、いい時間だよ。ありがとね。」
寝過ぎてはいけないから一時間で起こすよう頼んでいたしね。さて、寝起きにポーションを一口……くぅーまずい。まずくて目が覚める。頭も体調もすっきりだ。これなら楽園に帰るまでは問題ないだろう。
「グォウ」
おっ、出たな。巨大狼のロボ。邪魔したな。ほれ、数は少ないがお土産だ。みんなで食べな。
魔力庫に入っていた加工されてない食材、すなわちワイバーンやオークをそのままプレゼントだ。そろそろワイバーンもなくなりそうだなぁ。あとは魚介類も少々。森の中だから海産物はありがたいだろ?
「グォウ」
ロボが軽く唸ると、他の狼たちが獲物へと群がった。美味しそうに食べてくれるじゃないか。
「ピュイピュイ」
「グォウ」
コーちゃんの一言に軽く頭を下げたロボ。何て言ったんだろ?
クロちゃんネロちゃんまたね。もう昔のカムイ以上に大きくなっちゃって。ロボのように十数メイルクラスまで大きくなるのかねぇ。
「カウカウ」
「ガウウ」
大きくなってもつぶらな瞳は変わらないね。バイバイ。
よし! 頭もすっきりしたことだし、全力で帰ろう。このペースなら昼までには到着するかな。帰ったら……寝よう……
それから空の魔物に遭遇することもあったが全てクロミが片付けた。私の速度なら振り切ることもできるのだが、楽園にまで付いてこられたら嫌だからね。ペースを落としてクロミに任せておいた。同行する以上は働いてもらわないと。
「クロミ、魔法制御の腕が上がってない?」
「へっへー、金ちゃん分かるぅ? 奥様から少しだけ手解きしてもらったんだー。元々うちらダークエルフは精密な魔法制御が得意なんだけどぉー、奥様はもっとすごかったよぉ?」
なんと……母上ったらそんなことを。だからこいつは尊敬の念を込めて奥様って呼んでるのか。
母上って
よし、楽園が見えてきた。私たちを追跡しているような空の魔物はいないな? それから念のために『浄化』っと。森に降りたらダニなんかが付いてしまうからな。楽園にはヤバいものは一切持ち込まないぜ。持たず
さて、少しだけ懐かしき我が家の玄関前に着陸……
「テンフリーを離せや!」
「だから待てって。落ち着いて話そうぜ、な?」
「ふざけんな! てめぇどんだけテンフリーを貸し切るつもりよぉ! 後がつかえてんだからよ!」
「分かったって。そもそも俺には女を指名する権利なんかないんだからよ。な?」
ここの冒険者か? そして相手はドロガーか。何を揉めてるんだ? 私は疲れてるってのに。
「よう二人とも。昼前からどうした? 落ち着いて話そうぜ?」
「まっ、魔王……さん……!?」
「おお魔王。姿が見えねーと思ったら遠くに行ってたんだって? まあいいや、俺に他意はねー。女は譲る。これで解決だろ?」
「お、おお、そんならいいけどよ……」
うん。ドロガーは偉いね。大人だね。やっぱ遊び方はスマートじゃないとね。よし、一件落着っと。
「だめぇぇぇーーーー!」
なんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます