1553話 飲み過ぎたカース

その夜、私は率先して芸を披露した。下手な歌を歌ったり、酔狂な踊りをしたり。水球お手玉をしたりノーハンドバイオリンを弾いたり。

昼間の件で私の魔力はだいぶ減っている。そんな時にアラキ酒を飲みまくったもんだからとっくに泥酔している。たまにはいいだろう。ヒイズルと違ってここなら命の危険も少ないだろうし。魔力が空っぽになったって構うもんか。


「アレクぅー! 僕はだめなやつなんだよぉー!」


自分でも何を言っているのかよく分からない……


「カース、こっちにいらっしゃいよ。膝枕してあげるから。」


「うん行くぅー!」


「カズマカズマーー!」


私はアレクに膝枕をしてもらい、私はアーニャに腕枕をする。なんだこれ?


「黒ちゃんずるぃー! ウチもぉー!」


クロミまでやって来た。そこは私の腹だ。


「なんじゃおぬしら。もう寝るのか? 宴はこれからではないか。」


村長の言う通りだ。思えばこの村長にもあれこれ世話になってるよなぁ。美形のイケジジイ。いい歳のとり方してるよな。さすがハイエルフ。そこらのエルフとは大違いなのかな。

あっ! そういえば!


村長むらおさぁー! 今さらだけど名前聞いてないよぉー? 教えて教えてぇー!」


「ふむ、そうだったか? では教えてやろう。儂の名は……」




もったいつけんじゃねえよ! 早く教えろよ!


「名前は?」


「……アーダルプレヒト! 儂の名を言ってみよ!」


「エーデルトラウトヤンフェリックスだ……」


「そ、そうとも! 儂の名はエーデルトラウトヤンフェリックスだ! 分かったかカース殿!」


「分かった! エーさんだな! エー村長はいい村長! 間違いない! エー村長ばんざーーい!」


「よ、よさぬか! えぇーい離せ離せ!」


いやーついハイになって高い高いしちゃったよ。ハイエルフだけに? それにしても村長ったら軽いんだから。


「いやー今夜は楽しいね。アレクも飲んでるぅ?」


「ええ、飲んでるわ。カースのおかげでとてもいい気分よ。」


ふふふ、アレクの両耳たぶには紅柘榴石、すなわちガーネットがきらりと輝いている。もう夜も更けたというのに。いいね、かなり似合ってる。


「カズマカズマカズマ!」


おっと、お前も似合ってるぞ。ルビーの首飾り。前世ではこれほど大粒の宝石を贈ってやることはできなかったが……小さなダイヤモンドの指輪は贈ったっけ……

結婚の約束してたのにな……

私が怒りに任せてあんな道を通ったせいで……

車の運転が上手いわけでもないのに飛ばしたりなんかするから……


ぐすっ……ぐおお……うう……ごめん……ごめんよぉーーーー……


「カース……泣くならこっち……私の胸で泣いて……」


「ううぅぅーアレクぅー!」


これはいかん……酒のせいだ……

酒が私を涙脆くしたんだ……


「カズマカズマ!」


アレクの胸に縋り付く私の背中にあや、いやアーニャが縋り付いてきた……

どうなってんだこれ……


「ニンちゃんウチもぉー!」


クロミはアレクごと抱きしめてるじゃないか。少し苦しいぞ。でもいかん……めちゃくちゃ泣ける……

今夜の私はどうしたことなんだ……








……っ……


……痛っ……


朝……か……


ここは……見覚えのある天井……


村長んちか……


むっ……手が動かない……体も……何だこれ……重い……


なんだ……左腕にアーニャ、右腕にクロミ。

そしてアレクは私の上で寝ているではないか。昨夜って何があったったんだっけ?

全然思い出せないな……


「カース……起きた?」


「アレクおはよ、っんむっ……」


もうアレクったらいきなり私の唇を奪ってくるとは。悪い子だ。でもいい子。


「カース、もう起きる?」


「うん、そうだね。起きようか。」


トイレも行きたいしね……


「分かったわ。」『浮身』


おお、アレクったら私にしがみついてた二人を浮かせて引き剥がしちゃったよ。起こそうがどうしようが全然気にしないって感じだな。さすがアレク。




「おおカース殿。起きたか。昨夜は楽しかったの。またそなたの踊りを見せて欲しいものだわい。」


「おはようございます……」


踊り?

何の話だ?

村長がえらくご機嫌のように見えるが……


「朝食ができておるぞ。飲んだ翌朝に最適な朝食がの?」


「ありがとうございます……」


昨夜の私は何をしたんだ……?

全然覚えてない……

そんなに飲んだっけ!?




おお……これ味噌汁じゃん……

村長にお土産で渡した中にヒイズルの味噌まいそがあったっけ。さいこー。二日酔い寸前の体にえらく沁みるね……




ふう。いい朝食だったな。誰が料理したんだろう。村長か?


では楽園に帰ろうかな。両親に会えなかったのは残念だが、さすがにイグドラシルに登られたんじゃあ追いつけないもんな。


しかし問題が……残り魔力が一割ちょいしかない……

一晩ぐっすり寝れば一割五分から二割ぐらいは回復してるはずなのに……

誤差の範囲だろうか……


「カース殿、もう帰るのか? せっかく来てくれたのに落ち着かん男だの。」


「いやー、色々と用事があるもんで。また来ますね。」


「ふふふ、ならば次は人間の楽器を用意してくるといい。そなたの歌をまた聴かせて欲しいからの。」


私の歌?

全然覚えてないぞ……

私は何を歌ったんだ……


まあいいや……帰ろう。

楽園に……


二日酔いでミスリルボードを飛ばす。大丈夫かな……

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