1551話 赤い宝石
そもそも私だって金属加工は得意な方だからな。バッチリやれるってとこを見せてやるぜ。あ、そうだ……
「金具はいる? いるならこれ使ってよ。」
残り少ないオリハルコンだ。
「んー? いや、なくていいや。今回は原石をカットするだけで終わりだな。」
「へー、それはすごいね。楽しみ。」
金具のないイヤリング? どうやって耳につけるんだろう? 金属加工がないなら私の出番が……
「そんじゃこいつに魔力込めてくれよ。ゆっくりなー。」
「はいよ。」
そういえばそうだったな。作業に何やら魔力を使うようだが、一旦この箱に溜めておくんだったか。
錬魔循環をしながら箱に触れて魔力を注ぎ込む。
「待て待て待て! ちったぁ加減しろって!」
バカ言うな。私のような繊細な魔力制御ができる人間はそうはいないぞ?
「もう満タンになったのか?」
「おお、お前の魔力はやべーんだって! マジで加減しろや!」
違うな。この箱がしょぼいんだよ。まったくダークエルフの技術も大したことないな。
「よし、そんじゃカットいくぜ。まずは
貰いもんだけどね。
「おう、これを空中で固定しといてくれや。できんだろ?」
「できるに決まってんだろ……」
『
まったく……鉱石に金操を使うのは消費が酷いんだぞ。
「よーしそれそれ。いいぜー。動かすなよー?」
『
うおっ!? なんだそれ!? 手元で何かが……まるで小型の竜巻!?
もしくは私の
おおっ!? 一瞬で原石を真っ二つに!? うお……切断面がピカピカ!?
しかも……なんだこれ!? なんて複雑なカットを……
あ……これ、知ってる……ラウンドブリリアントカットだ……
あいつから飽きるほど聞かされた……
ダイヤモンドとルビーが好きなあいつ……
七月生まれで……
「おう、できたぜ。次いくぜ!」
「お、おお……」
次は
「おらぁ! がちっと固定しとけ!」
「おう!」
『金操』
やはり原石をがっちりと固定すると……
『
すごいなこれ……
かなりの高速回転だ。そして原石が見る見る輝きを増していく……
「おらぁ! 魔力が足りねーんたよ! 追加だ追加ぁ!!
「おうよ!」
面倒だな。私から直に吸い取れよ!
「加減しろや! 壊す気かよ!」
うるせぇなぁ……作業に集中しろよ……
「よぉーし! いい魔力が溜まってんな! こりゃあ捗るぜ!」
それにしても変な格好だよな。両足は裸足、そして足の裏で変な箱を挟み込んでる。その箱の上に私は原石を浮かせつつ固定しているわけなんだが……
ぬっ!? このカットは……確かフラワードリームダイヤモンド? この石はガーネットだが……それをわざわざ……
職人のセンスは分からん……
だが、クライフトさんがアレクに似合うと確信してやってんだ。私は信じて固定を続けるだけだ。
「よぉーし! できたぜえ! これでどうよ?」
「いいじゃん。すごい出来栄えだね。これならアレクもきっと喜んでくれるだろうさ。」
「これ金具もなしにどうやって耳に付けるんだい?」
「まあ慌てんな。おもしれーもん見せてやるぜ?」
「お、おお……」
「ほらほらぁー! また魔力が減ってんぞ! もっとくれや!」
えーい! 足りんと言ったり多すぎると言ったり! 注文の多い奴だな! もうカットは終わってんのに次は何だよ!
『
「おーし完成だ。んあー疲れた……」
「最後の魔法は何なの?」
「へっへっへ。こいつを付けたい場所に当てて『付着』と唱えてみな?」
どれどれ……手の甲に付けてみるか。
『付着』
おおー。これはすごいな。魔力なしできっちりくっ付いてくれるのかよ。
「外す時は『離脱』だ。そいつに指先で触れてから唱えろよ?」
ふむふむ。
『離脱』
おー。これは便利だ。穴を開けず磁石もいらないピアスって感じか。むしろ耳の裏表両方に別々の宝石を付けるのもありだな。
「一応聞くけどこれ他の魔法と干渉したりしないよね?」
「するわけねーだろ。そのぐれー計算済みだっつーの。おめーとさっきの女の声にしか反応しねーぐれーの機能だって付けてんだよ。どーよ。すげーだろ?」
「マジか! それりゃすごいな! あの一瞬でそんな機能を付与したってのか? すごい!」
「へっへっへー。どーよダークエルフ舐めんなよ。んあー疲れた……」
本当に凄いな。ただの職人ってだけじゃない。魔道具作りの腕まで凄いじゃないか。
疲れてるところを悪いが……
「じゃあ次いこうか。」
「んあー? なんだぁ?」
赤い宝石を見てたらちょっとな……
「これを首飾りにしてくれる?」
「んあー紅玉石かよ。やたらいい石ばっか持ってんじゃねーか。作ってもいいけど何も付与しねーからな?」
そう。真っ赤なルビー、赤兜の隊長から貰ったやつだ。あいつの好きだったルビー……
「ああ、構わんよ。その分カットをしっかり頼むよ。」
「まあいいけどよー……」
「あとこの金属で鎖を作りたいんだけど、大丈夫?」
アイリックフェルムだ。
「んあー? 何だこりゃあ!? 全然魔力が通んねーじゃねーか! どうなってんだこれ!?」
「無理矢理やれば通るさ。魔力ならガンガン補充するからまあやってみてよ。」
「んんー……マジかこれ……どんだけ魔力込めさせる気だよ……後だ後。先にカットすんぞ……」
『金操』
がっちり固定する。
『
「あー……これでどうよ……」
「お見事。寸分の狂いもないな。じゃあ鎖と金具いこうか。」
これはブリオレットカットだったかな。やるなぁ。やっぱいい腕してんなぁ。
「まったくよお……」
『金属成型』
おおおーー! 見る見る細かいチェーンが連なっていく! 見てて面白いなこれ!
「はあぁーはぁ……ぐふぅ……んあーもー……二度とやんねーからな……」
アレクに贈ったアルテミスの首飾りにはオリハルコンでチェーンを作ってもらったが、それに比べると少し太いかな。あっちの繊細なチェーンもいいけど、これはこれでいいな。
これをあいつに……
「ありがとね。いやー助かった。ありがとありがと。あ、これ置いてくよ。」
肉をどっさりプレゼント。無茶させちゃったからね。私も魔力がどっさり減ったけどさ。
よし。これで心置きなく帰れるかな。
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