1550話 ダークエルフの職人クライフト

食後、私はこっそりクライフトさんを訪ねた。注文したいものがあるからだ。だいたいの住居はクロミに聞いた。


おっと、ここかな。


「クライフトさん。いるかい?」


「んあー? おっ、魔王じゃん。久しぶりだなぁ。」


あれ? クライフトさんって私のことをそう呼んでたっけ?


「久しぶり。また注文に来たよ。」


「んあー、どうせまた厄介な注文なんだろ?」


「クライフトさんなら楽勝だろうさ。まずはこれ。」


灰簾菫石かいれんきんせきの原石を出す。カゲキョー迷宮で入手したタンザナイトだ。外では澄んだ群青色、魔法の光に照らされた場合は高貴な紫に輝くのさ。


「んへー、きれーじゃん。こいつをどうすんだ?」


「まあ待ってよ。まだあるから。」


次はこれ。紅柘榴石べにざくろいし、つまりガーネットだ。透明感のある赤褐色の輝きはアレクの魅力を引き立てるのにちょうどいいだろう。


「んほー、深い色合いしてんなぁ。」


「これを使って耳飾りを作ってくれる? 俺の連れ、アレクサンドリーネを知ってるよね。あの子に最も似合うように。カット、形や大きさ、全て任せる。クライフトさんのセンスで頼むよ。」


「んあ、燃えるじゃねーの。えーと、魔王の分も合わせて二組ずつ作ればいいんか?」


「いや、アレクの分だけ。二組だけでいい。そうすると原石が余るからクライフトさんにあげるよ。それだと対価には足りないかい?」


「んんー、まあ問題ねーなー。それよりいつまでここにいるんだ?」


それが問題なんだよな。ここに来るまでクライフトさんに注文する気なんかなかったからさ。


「完成するまでってとこかな。急いでくれると嬉しいけど。無理のない範囲で。」


「んーむ、作るだけならすぐだけどよー……今回は全部丸投げだからよー。んー……」


あー、アイデアを出すのが大変なのか。ならば……


「後でアレクを連れてくるよ。本人を見ればイメージも湧くんじゃない?」


本当なら私があれこれ注文するべきなんだが……

アルテミスの首飾りを注文した時はすっとイメージが湧いたんだけどなぁ。イヤリングってどんなのがアレクに似合うんだろ。難しいよなぁ……


「そーなー。それもいいかもなー。」


これまた本当ならアレクに内緒でいきなりプレゼントしたかったのに。もうすぐ誕生日なんだから。


「じゃあ、後でね。」


「おうよ。」




アレクは村の女の子たちと仲良くお喋りをしているようだ。エルフもダークエルフも美女ばかりだけど、アレクには敵わないね。三国一。


「カズマカズマカズマカズマカズマーー!」


アレクの横にいたアーニャが素早く私の左腕にしがみつく。それを女の子たちは微笑ましげに見てくる。


「アレク、ちょっと来てくれない?」


「いいわよ。」


他の女の子たちはまだアレクと話し足りないって顔をしてるな。すぐ済むから待っててくれよな。


なお、アレクだけでなくアーニャとクロミまで付いてきた。


「ニンちゃんさっき一人で行ったんじゃなかったのー?」


「行ったけどな。ちょっとアレクに用ができてな。」


「私に?」


「覚えてるよね。アルテミスの首飾りを作ってくれたダークエルフの職人クライフトさん。」


「え、ええ。」


内緒にしておきたかったけどなぁ……


「迷宮で手に入れた原石を使ってアレクにプレゼントを贈ろうと思ってさ。もうすぐ誕生日だし。」


「カース! こんな時なのに……ありがとう覚えててくれて……」


「当たり前だよ。アレクの誕生日が過ぎると冬って感じがするよね。まあこの村だとすでにクタナツよりだいぶ寒いけどさ。」


「カース……嬉しいわ。ありがとう……」


「ふーん、人間て誕生日を大事にするんだねー。金ちゃんいいなー。」


そういえばクロミってアレクを金ちゃんと呼ぶんだったな。なんだかなぁ……

誕生日か……


あいつの誕生日は七月だったな……ルビーの首飾りを贈ったことがあったっけ。ルビーか……




「んあー、来たか。なんだクロノミーネまで一緒かー。」


「一緒じゃ悪いー?」


「んーん別にぃー?」


「クロミよりアレクを見てよ。どうだいクライフトさん。イメージ湧くかい?」


エルフの美的感覚ってどうなんだろうね? アルテミスの首飾りは私の指示だから参考にならないし。


「ふーん……人間にしちゃあ綺麗な顔してんなぁ。肌艶といい髪質といい魔王が狂うのも分からんでもないなー。」


人間にしちゃあは余計だよ。素直に褒めやがれ。


「で、イメージは湧いたかい?」


「んー、まあな。人間だしよー、贅沢に大粒にカットして豪華な仕上がりにしようかと思ってたがよー。やめた。耳たぶで小さく光る、夜の星のように作ってやるよ。その子の美しさからすると豪華な宝石はむしろ邪魔だ。」


「おお! それはいいな! いいこと言うじゃん! ぜひそれでお願い!」


きらりと光る星のように。つまりイヤリングってよりピアスって感じか? あ……


「でも耳に穴は開けないからな? 適当に耳にくっ付くようにしてよ?」


「当たり前だろー。こんなきれーな耳に穴なんか開けるかよ。まあ任せとけ。いい感じにやってやるよ。でもいいのか? だいぶ石が余るぜ?」


「じゃあデザイン違いで何組か頼むよ。カットを変えてもいいし。」


「なるほどなー。任せときなー。明日の昼にはできるが……どうよ魔王? 手伝わねーか?」


ほう……職人の邪魔をしてはいけないと思っていたが、本人からそう言われるのなら話は別だ。


「いいのかい? ぜひやりたい。」


これが自分の装備ならば面倒な話だが、アレクへのプレゼントだからな。


「よっしゃー。せいぜい魔力を供給してもらうぜー?」


「いいよ。出せるだけ出すわ。というわけでアレク。出来たら戻るからそれまではみんなで適当に過ごしててくれる?」


「カース手ずから……本当に嬉しいわ……分かった。待ってるから……でも無理しないでね?」


「うん。こっちは気にしないで楽しんでてね。」


「うわぁー金ちゃんいいなぁー。ウチも何か欲しいし!」


「ヒイズルまで付いてくるなら自分で入手できるわ。行くわよ。カースの邪魔をしないの。」


アレクはアーニャを私から引き剥がし、クロミを連れて出ていった。よし、アレクのために張り切るぞ!

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