1549話 壊れた心の癒し方
「なんじゃ、もしや
「ええ、まあ……」
「ほほぉう。おぬしの側にはいつもその者がいるかと思えば。反対側にも女が欲しくなったか? それでこそ人間よの?」
この村長えらい下世話なこと言うなぁ。キャラじゃないぞ。
「もちろん違いますよ。色々あるんです。あいつを助けてくれるんなら全部話しますけど?」
「興味はあるが無理なものは無理だの。ところでそろそろ昼だが、腹具合はどうだ?」
「もちろんいただきますよ。」
そこまで腹は減ってないが、ここの飯は旨いからな。
それにしても……
はぁ……やはり無理か。体の傷なら手足が千切れようとも治せるが、心の傷なんて治しようがないよな。増してや、傷どころか壊れてしまってんだから……
やっぱ神の力に頼るしかないか……
「ニンちゃーーん! ニンちゃん久しぶり! ウチに会いにきてくれたん!? ありがとーー!」
おっ、こいつは……黒ギャル……そうだ。クロミだ。いつの間に村長宅に入ってきたんだ?
「久しぶりだな。フェアウェル村にはもう慣れたか?」
「うん! すっかり慣れたよ! もうウチらってズッ同だから!」
ずっどう?
「ウチらって? フェアウェル村のエルフと『ずっどう』ってことか?」
「そうだし! ウチらダークエルフ族とフェアウェル村のエルフ族は『ずっと同胞』だし!」
あー、それでずっどうって言うのね。めっちゃ言いにくいな。
「そういやクライフトさんはいるか?」
「いるよー。いっつも忙しそうに何かやってるし!」
うーん忙しそうなのか。頼みたいことがあったんだけどなぁ。まあいいや。昼飯昼飯。
昼食は村長宅の裏庭で食べることになった。いつだったか私が湯船を出して露天風呂なんかした裏庭だ。おっ、アーさんも来た。
「アーさんはイグドラシル登ってみないの?」
「気が向いたらな……」
ん? その顔は、本当は登りたいけど仕事が忙しくて行けないって表情だ。長老衆も大変だね。でも結構エルフが死んでたもんな。徐々にイグドラシルに吸収されるような死に様でさ。あれは一人で登るようなもんじゃない。誰かが一緒にいないと心が凍ってしまうだろうな。
そこでふと気になった。母上って身体能力はどうなんだ? イグドラシルを登れるのか? アレクが登れたんだから大丈夫とは思うが……
はぁ……それにしてもはるばる山岳地帯まで来たのに収穫なしか……
いや、そりゃあさ? 迷宮を攻略するしか手はないとは思うけどさ……長命なエルフなら何かあってもいいのになぁ……
無理なもんは無理か……
壊れた心を治すのは、死人を生き返らせるレベルなんだな……
アーニャ……お前は本当にあいつなのか?
もし本当にあいつだとしたら……
あの約束は……今でも……
「はい、カース。」
「あ、ああ、ありがと。美味しそうだね。」
「カース……アーニャのことを考えてたわね?」
「う、うん……ごめん……」
「責めてるんじゃないわ。カースは何も心配しなくていいって言いたいだけよ。」
「そ、そうだね……」
うーん……いつもにも増してアレクの頼りがいがすごいな。窮地においては前世の経験なんか何の役にも立たないぜ……
「カズマ!」
ああ、食事だからアレクが覚醒させたのか。私の左腕にしがみつきながらもアレクが差し出す食べ物に食らいついている。獣のように……
「カース殿よ。もしその女が我らの同胞であれば儂は迷わず殺す。自ら何も生み出すことなく、他者の手を煩わせるばかり。人間の言葉で穀潰しと言うそうだな。そんな女を助けたいと言うのか?」
ちっ、この村長えらくストレートに言ってくれるな……
「色々あると言ったでしょう。治す手立てがあるうちは諦めませんよ。神域はイグドラシルだけじゃないんですから。」
「ほほう。ヒイズルがどうとか言っておったな。ヒイズルにも神域があるということか?」
「ありますよ。三つ、もしくは四つほど。」
いつだったか、ヒイズルに行ったエルフを村長は知らないって言ってたが……それが本当かどうか怪しいもんだよな。
「ええー! ヒイズルって小さな島国なんよねー? なのに神域がそんなにあるのぉー!?」
「知らねーよ。あるからあるんだろ。」
いきなりクロミに耳元で大声を出された。うるさいな。
「ねーニンちゃーん! ウチも行きたい行きたーい!」
「それは構わんがダークエルフ族の復興はいいのか?」
以前はそんなことを言っていたような。
「もう大丈夫だし! それより今は神の恩恵を持って帰った方が村のためになるし!」
なるほどな。それはそうだろうね。
それにしても、ダークエルフを連れてヒイズルか。大丈夫だよな? クロミは変化の魔法も使えるし。それに戦力的には美味しいよな。こいつの魔力は軽くアレクの数倍あるもんな。迷宮攻略に役立てばいいが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます