1548話 懐かしきフェアウェル村

朝食は昨日リリスが作ってくれたスープだ。残った分を魔力庫にキープしておいたんだよな。それから肉だな。朝から肉ってのもたまにはいいだろう。


「ピュイピュイ」


おっ、コーちゃんおはよ。アレクを呼んできてくれる?


「ピュイピュイ」


ここは我が家の食堂。ここでは私以外にも何人かが食事中のようだ。うちに泊まった客には朝食サービス付きだったりするのかな?


「あっ、あのっ、だ、だんな様! お食事はいっ、いかがいたしましょうか!」


あら、この子も見覚えがあるぞ。私が運んだんだから当たり前か。食堂係って感じかな。


「ああ、俺たちのことは構わないでいいよ。自分たちで好きなものを食べることにしてるからさ。リリスから聞いてない?」


「あっ! そ、そうでした! し、失礼しました! ごごごめんなさい!」


「でもせっかく声をかけてくれたことだし、ここの客に出している飲み物を三つほど貰えるかい?」


「は、はいっ! かしこまりました!」


きびきび動くじゃないか。十二、三歳ってとこかな。確か娼婦をしたくないって子だったっけ? したくないことをする必要はないよな。




それから、やってきたアレク、そしてコーちゃんと三人で朝食を済ませた。ちなみに運ばれてきた飲み物は少し苦いお茶だった。アレクでも知らない味だったのでノワールフォレストで取れた何かのようだ。




さて、それでは出発しようかね。あいつを含むヒイズルから連れてきた女たちは一室に集められていた。そこからあいつだけを連れて、いざエルフの村へ。でも出発前にポーションをごくごく。先ほどのリリスへのプレゼントで結構魔力を消費しちゃったんだよな。ただ溶かして固めるだけじゃなかったし。

よし、残り四割ってとこか。これだけあれば問題ないな。マウントイーターでも出ない限り。

ちなみにあいつはアレクに眠らせてもらっている。さすがに山岳地帯に行くのに魔力の無駄遣いはできないからな。




効率を重視しつつも可能な限りの最速で飛んで三時間弱。やはり一直線に来れないせいで時間をロスしてしまうな。一度大陸の西側にまで出てから北上したからな。だが、このあたりの見覚えのある地点からまっすぐ北東へ向かうルートしか覚えてないんだもんな。やはり危険な山岳地帯では確実に到着することが大事なのだ。


さて、遠くに見えてきたぞ。天を衝くような神木イグドラシルが。見たところ変わりはないな。ここまでマウントイーターにやられたら最悪だもんね。

ここからはゆっくり。ある程度近付いたら村長むらおさ伝言つてごとで連絡だ。あのじいちゃんはハイエルフだけあって魔力が相当高いんだよな。だから伝言が通じやすくて助かるね。


『久しいなカース殿。正門を開けておく。入ってくるがええ』


うん。村長は元気そうだな。さぁてだいたい半年ぶりのフェアウェル村だな。両親は到着してるんだろうか?


正門と呼べるのかどうか怪しいほどのボロい門の前に着陸。と、同時に門が開いた。今日は門番いないのか? と思ったら内側にいた。


「久しぶりだな。お前は変わらないな。」


長老衆に名を連ねる幹部エルフ、名前は……あ、アーダル……


「久しぶりだねアーさん。みんな変わりはないかい?」


「ふっ、我らに変わりはないがお前たちは変わったな。精霊様、ようこそお越しくださいました。そちらの女もよく来たな。ん? その人間は……まあいい。」


「ピュイピュイ」

「お邪魔します……」


眠らせているアーニャについてはスルーか。それでいい。

それよりこの野郎……アレクをそちらの女だと? まあ歓迎の言葉が出るだけ前回よりかなりウェルカム感ありありだけどさ。やっぱアレクも登頂者だもんな。


「狼殿はいないようだな。まあ入れ。村長の機嫌がまた良くなったぞ。」


村長の機嫌? また? まあ会えば分かるか。




少しだけ懐かしい村長宅へ到着。ここで長いこと寝込んでた時もあったんだよなぁ。


「よく来たなカース殿。奇遇と言うべきかの?」


「半年ぶりぐらいですかね。奇遇とは?」


「知らぬのか? そなたの両親、そして兄が二週間ほど前にやって来たぞ?」


なっ!? マジかよ! 父上に母上、そしてオディ兄まで……マジでフェアウェル村を目指したってのか……


「えーと、五人ですよね? 今どこにいるんですか?」


「おお、その通りだ。そなたの両親、そして兄とマルガレータバルバラ、あともう一人ほどいたの。」


ベレンガリアさんは覚えてもらえなかったのか……


「で、その五人はどこに?」


「イグドラシルに登りおったぞ?」


やっぱりか……

いつだったか父上と話したんだよなぁ……

母上のためなら登ってもいいとか言ってたもんなぁ。スパラッシュさんの故郷、ルイネス村で農業やるんじゃなかったのかよ……

まったく……私が言うのも変だが、変な両親だなぁ……


まあいい。ここに来た本題はそれではない。


「ところで村長。この女の子を診て欲しいんですよ。どう思います?」


「ふむ、無茶を言うものではないぞ? この人間……心が壊れておるではないか。」


……一目で分かるのかよ……


「どうにもなりませんか?」


「当たり前だ。死人しびとを蘇らせることができぬように、壊れたものは治らぬ。ワシらは神ではないからの。」


やはり無理か……


「エルフではこのように心が壊れた場合ってどうしてます?」


「さてのぉ……そうそうあることではないからの……一つ言えることとすれば、我らの仲間に……愚者も弱者もいらぬということぐらいかの。」


それって殺すって言ってるに等しいよな。はるばる来たけど、結局参考にならなかったか……

やはり神の恩恵に縋るしかないのかな……

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