1547話 リリスへのご褒美

すっかり暗くなったので『光源』

夜はまだまだこれからだもんな。周囲ではすでに酔っ払いたちが歌ったり踊ったりと、はしゃいでやがる。そろそろ私も肉を焼くのをやめてもいい頃かな? 飲みに移行しようかね。


「魔王さまぁー! 一杯どうぞぉ!」

「あぁーずるい! 私が注ぐのよ!」

「ささ、どうぞどうぞ」


「おう。お前ら仕事は順調か?」


娼婦の仕事に順調もなにもないとは思うが……


「はぁい! こんなやりやすい娼館ないですよぉ!」

「だって嫌な客は断れるんだもんね!」

「そうよね。リリス様のおかげで安心して働けるね」


「そうか。それならいいんだ。領都に帰りたくなったら言えよ。リリスには無理だが俺がいる間だったら運んでやれるからな。」


「ありがとうございます! ほぉーんと魔王様って慈悲深いんですねぇ!」

「ほんとほんと! 普通年季が明けてもすんなり解放しないとこばっかりだもんね!」

「さすがはリリス様の主人たるお方。私たちも安心です」


リリスの評価がやけに高い。あいつ、かなり頑張ってるんだな。行き場のない女たちの居場所か……ヒイズルからあの女たちを連れてきてよかったかもな。


「なぁ魔王さんさぁ。昼間に連れてきた奴らの中にひょろい男もいたよねぇ? あいつらは男娼かい?」


スレた雰囲気の女冒険者が話しかけてきた。


「ああ、たぶんな。」


「ふぅん? くくっ、楽しみができたよ。女を責めるのも嫌いじゃないけどさぁ。やっぱ責めるんなら男だよねぇ?」


知らねーよ……


「本人が嫌がらないなら好きにしていいさ。毎度……」


色んな奴がいるなぁ……




でもこうやって大勢でわいわい盛り上がるのはやっぱ楽しいな。吟遊詩人がいればいいのに。あいつらって酒場が盛り上がってればいつの間に現れるんだよな。でもさすがにこんな魔境にまで来ないだろうな。残念。


「カースぅ? あの曲弾くから聴いてねぇ?」


あらら、アレクが酔ってる。もう、かわいいんだから。

あっ、この曲は!

いつだったか領都の辺境伯邸で聴いたやつだ。吟遊詩人ノアが歌った『魔王の歌』

これって泣けるんだよなぁ……


「おっ! 魔王の歌じゃねぇか!」

「おお! ノアの曲だろ!?」

「いい曲だよなぁ!」

「俺ぁきっちり歌えるぜ!」


マジか。そんなに浸透してんのか!? これはノアの功績かな。今度会ったらチップを弾んでやろう。




この夜、光に惹かれて空飛ぶ魔物もいくつか寄ってきたがその程度では邪魔できない盛り上がりを見せた。

アレクのバイオリンは冴えに冴え、冒険者たちを大合唱させるに至った。どいつもこいつも暑苦しく肩を組み、体を揺らして大声で。

酔って調子に乗った私は全員の前で軽いダンスを披露してやった。ダンスと言うよりはロカビリー風ツイストだが。これが意外にウケがよく、一人、また一人と真似する奴が増えたわけだ。いやー楽しいな。髪型をリーゼントにしてみようかな? ワックスやジェルなんかないけど魔法でどうにでもなるしね。まあまたでいいや。とにかく今夜は踊るぜロックンロール!






翌朝……いや昼前かな……

私はいくら酔っていてもあの場で雑魚寝するような真似はしない。アレクだっているんだからな。きちんと自宅の寝室で寝ている。もちろん隣にはアレクも。いやー昨夜は楽しかったなぁ。最早ここも私の故郷だよな。

少し怠いけど、アレクが目を覚ます前にアンデッドの処理だけしておこうかな。燃やすだけだし。




南の城壁までひとっ飛び。うーん、もうすぐ冬だってのに……かなり臭いなぁ……

うわぁ……手足のないアンデッドが数匹……打ち上げられた魚みたいにその場でバタバタ動いてやがる……

他には相変わらず尻から喉まで杭に貫かれてるやつ。手足だけは動き続けてるんだよなぁ……キモっ。壁を見たまま座ってるやつ、ぐるぐる歩き回ってるやつ、いっぱいいるなぁ……

つーか、前回見た時より三倍ぐらい広くなってるし。増築したのね。誰が?

すごい奴がいるもんだ。


『火球』

『火球』

『火球』


鉄製とはいえ、檻が溶けない程度の威力にしておかないとな。アンデッドなんてそこそこの威力があれば余裕で燃えるんだから。それにしても『不死晒しの刑』か……死んでからもこうして動き続けるなんてね。あーキモいキモい。立て札には名前や罪状が書いてあるけど、アンデッドになっちゃったら誰が誰か区別なんかつかないよな。


おっ、一匹ほどまだ動いてるな。こいつが上級になりかけの奴か。早いうちに処理しておいてよかったね。


『火球』


よし終わり。燃え尽きるのを待って、落ちてたら魔石を回収しておこうかな。アンデッドの魔石ってあんまり価値ないけど、上級になりかけの奴なら多少はマシだよな。残ればの話だけど……




おっ、一個だけ残ってた。『風操』で手元に寄せて『浄化』

よし。これできれいきれいだ。


リリスにはボーナスが必要だな。あいつのメイド服はサウザンドミヅチ製だから……ドラゴンブーツでも発注してやるか? 今回は無理だな。発注だけできても取りに行けないしリリスは楽園にいるんだから採寸もできない。また今度にしよう。

そうなるとボーナスは……




「おおリリス。終わったぞ。灰も残さず燃やしておいた。」


「ありがとうございます。旦那様のお手を煩わせてしまい申し訳ありません。」


「いや、構わん。それより何か不足しているもの、または欲しいものはないか? よくやってくれてるから褒賞をやりたくてな。」


リリスは少し考えているようだ。


「では何か髪の毛をまとめるものをいただけますでしょうか。」


「おっ、オシャレに目覚めたのか?」


代官自ら接客してるって話だしな。お気に入りの客でもいるんだろうか。


「いえ、少々髪が伸びてきたもので。」


「あー、なるほど。分かった。ちょっと待ってな。」


魔力庫からアイリックフェルムの兜を取り出す。一部を利用して……


点火つけび

『金操』




「ほい、お待たせ。」


「マジェスタですか……棒刺しタイプの。ありがとうございます。真っ白で美しい仕上がりですね。まさか目の前でお作りいただけるとは。以前いただいたかんざしよりかなりの上物のようですね。」


マジェスタって言うのか。私の中ではかんざしなんだけどな。まあいいか。それより以前かんざしあげたっけ? 覚えてないな。


「それ、武器にもなるから。魔法が効きにくい金属だしな。上手く使うといい。」


「ありがとうございます。寝所で私に不埒な真似をした者はこれで殺すことにいたします。旦那様のご恩は忘れません。」


大袈裟だなぁ……


「おう。でもあんま無茶するなよ? 命を大事にいこうぜ。」


「かしこまりました。」


そう言ってリリスは仕事へと戻っていった。

ではアレクを起こしてから朝食、それからフェアウェル村に飛ぶとしよう。

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