1546話 楽園の光と闇

軽く事情を説明するだけで後は丸投げ。ただしアーニャだけには客を取らせないようにと。どうせ明日は一緒にフェアウェル村まで連れて行くしね。エルフやダークエルフの魔法でどうにかならないものだろうか……


ちなみに、ここまで私もリリスも裸。風呂場だからな。私の目の前で直立不動なリリスは凛々しいね。


「かしこまりました。人員を補充していただきありがとうございます。お食事はいかがなされますか?」


「いや、いい。例によって好きにやるから構わないでいいぞ。」


「かしこまりました。旦那様がご無事でお帰りいただき嬉しく思います。」


うーん。リリスは相変わらず堅いな。でも以前よりさらに忠誠心を感じるんだよな。身分的には未だに私の奴隷だからってこともないだろうが……


ちなみにクタナツで購入した大量の古着は脱衣所にどんと置いてきた。後はリリスがうまく分配することだろう。


私に絡みつくあいつ、アーニャもリリスに任せて私達は寝室へと立ち入った。久々の寝室だが、やはりきれいなまま。きっとリリスがきちんと掃除しててくれたんだろうな。ありがたい。


「カース。色々と大変だったわね。横になって。今夜は私が……」


「アレク……」


アレクからさっきまでの飢えた獣みたいな雰囲気が消え去り、リードしてくれるお姉さんモードになっている。お言葉に甘えるとしよう。まったく、私達は昼から……





















はっ……寝てたか……


アレクも私の横ですやすやと寝息を立てている。途中までは覚えているんだけどな。いつの間にやら寝てしまったらしい。


寝起きだが『浄化』を使うまでもなく、私が眠りに落ちた後にでもアレクによってきれいにされてる形跡があった。なんてサービスがいいんだ……


「ピュイピュイ」


あ、コーちゃんおはよ。コーちゃんってドアを開けなくても入ってくるよね。お腹すいたの? ああ、今夜の宴会が楽しみだって? そうだね。私もだよ。目が覚めたら私も腹がへってきたかな。ならばアレクを起こして遅めの昼食、いやもう夕食かな。

お姫様を起こすには愛の口付けだと昔から決まっている。寝息を立てる蕾のような唇に……




ふぅ。目を覚ましたアレクに頭ごと抱きしめられて、逆に私の方が蹂躙されてしまった。


「ありがとうカース。素敵な起こし方だったわ。」


「おはよ。それはよかったよ。さて、食事にしようか。」


私もアレクも寝起きの歯磨きなんて必要ない。それぐらい目覚めた瞬間に魔法によって終わらせているからだ。




リリスにも私達が起きたら宴会を始めるから希望者には休みを与えて全員参加させるよう伝えてある。むさ苦しい冒険者の野郎だけより、盛り上がるためには彩りが必要だもんな。


執事ゴーレムのバトラーに伝言を残して私達は楽園の掘立て小屋エリアへとやってきた。ここの公衆トイレや公衆浴場のある付近は開けているので宴会をするのにちょうどいいだろう。

もっとも、中心部にある高台、つまり我が家エリアと掘立て小屋エリアを除けば楽園内はまだまだ何もない。もう千人や二千人は余裕で暮らせるよな。もっともそうなるとインフラ的には全く足りなくなるが……

今はせいぜい三百戸、人数にして四、五百人といったところだろうか。街にごみが落ちている気配はない。ゴミを捨てる奴は殺せってリリスには言ってあるし、きっちり実行してるんだろうね。リリスは偉い。しかも犯罪者は見せしめで不死晒しの刑でもあったな。うーん治安がいい街になっているねぇ。


「あっ、その格好! もしかして魔王さんっすか!?」

「えっ! 魔王さん!?」

「あっ! マジだ! 今から宴会っすか!」

「お前ら集まれ! 魔王さんに挨拶しろや!」


おお、続々と集まってきたな。別に挨拶なんかしてくれなくてもいいのに。毎月の家賃を払ってくれて、ゴミさえ捨てなければ。


「おー魔王! 久々じゃねーか!」

「おっ! ほんとだ! いつぶりだ?」

「元気そうじゃねーか!」

「早く飲もうぜ!」


おー、以前からの顔見知りもいるな。ノワールフォレストの森から命からがら帰ってきたところを助けてやった奴らか。


「おし! それじゃあ宴会始めるか! まずはヒイズル土産だ! 好きなだけ飲みな!」


アラキタでごっそりゲットした酒樽だ。大盤振る舞いしてやるぜ。


「うおおーー! ヒイズルに行ったって噂はマジだったんか!」

「おっしゃあ飲め飲めぇ!」

「魔王にかんぱいだぁー!」

「氷の女神にもだぁ! かんぱーい!」


さて、それでは私は肉を焼くとしよう。ミスリルボードを加熱して……

隣には鉄ボードも出して焼けた肉を積み上げる……はしから食われていく。いい食べっぷりだ。


「おうこの肉ぁワイバーンじゃねぇか!」

「さっすが魔王だぁ! 気前がいいぜ!」

「うっひょおーうめぇ!」

「逆に酒ぁ微妙じゃね?」

「おお、ちーと味が尖ってやがるなぁ」

「やっぱスペチアーレが一番だよなぁ」


うるせぇな。私だってそう思うぞ。ディノ・スペチアーレの二十年物なんか飲んでみろ。他の酒が飲めなくなるぞ!?

でもこいつらったら文句を言いつつも酒を飲むペースが止まらない。そもそもこんな大魔境で酒を飲めること自体が贅沢なんだから。


「うおおっ! 女が来たぜぇ!」

「うっひょお! 愛しのリンディちゃんだ!」

「俺のルナルカもいるぜ!」

「リリスさん今夜もきれいだあ!」


さすがに新入りは連れてきてないな。あいつらが来たら楽しい宴会が淫靡なパーティーになってしまうからな。


「旦那様、いくつか汁物も用意してあります。出してよろしいでしょうか?」


「おお、それはありがたい。どんどん頼む。」


いいねぇ。私は肉を焼くことしかできないからね。味付けだって個人個人にお任せだし。


ちなみに私とアレク、そしてコーちゃん用には手元のミスリルフライパンで焼いている。そして味付けは岩塩やペプレの粉末、または魚醤とワサビだ。それ以外にも昔王都で買った各種ソース類。かなり充実している。うーん、旨い。


サザエやアワビも焼こおっと。くぅー酒が進むね。それでも肉を焼き続ける私って偉いねぇ。


「そうだリリス。あの時から犯罪者って出た?」


「ええ。やはりこのような場所ですから。それだけでなく、ここの支配権を奪おうとする者も何人かおりました。」


「へぇ。で、そいつらはどうなった?」


「手足を切り落としてから南の鉄牢に放り込みました。放っておいても死ぬところをアンデッドに食い殺させました。ああその件でちょうど相談がございました。」


うほーリリスったらえげつないねえ。まあここを狙うなんて太ぇ野郎にはちょうどいい仕置きだけどね。


「ん? 何だ?」


「南のアンデッドを処分しておいていただけませんか? アンデッドですからあまりに長期間生かしておきますと強くなってしまいますので。活きのいい肉もたっぷり食べておりますし。」


「あー、そりゃそうだ。明日やっとくよ。灰も残らないように燃やしておく。」


「ありがとうございます。」


リリスとしてはこのタイミングで私が帰ってこなかったら適当な冒険者に仕事として頼むつもりだったんだろうな。霞の外套があるから対人戦では無敵でも、アンデッド相手にはあまり意味がないもんな。檻の中に入るのも危険だし。


仲間の死体を百匹食べたゴブリンは上級ゴブリンになるって言うしな。アンデッドでもきっと似たようなことは起こる。魔物を甘く見るのは危険だよな。リリスはいい判断をするじゃないか。

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