1542話 懐かしきクタナツ

体感で一時間半。陸が見えた。


『遠見』


なるほど。ここはタティーシャ村から南に百キロルってとこかな。ならばクタナツまではもう三十分とかからない。少しペースを上げよう。ここからは魔物が増えるからな。


ハーピー、オオガラス、サンダーバード、ストリクス……

ストリクスは初めて見たかな。人の血と肉が好きな大フクロウって感じだ。まあ、どいつもこいつも私達には追いつけないんだけどね。もし帰りに出会ったら相手してやるよ。




さて、いよいよだ。懐かしきクタナツの城壁が見えてきた。うっわぁー……南北に街道がめっちゃ延びてる! しかも北の方ではさらにいくつか枝分かれしてるし! すごいなこれは! ちょっと見ない間に発展してるんだなぁ……

久しぶりだけど構うことはない。いきなり北の城門前に着陸だ。おおー、けっこう賑わってるなぁ。見たところ商人率が高いようだが……いや、商隊が多いのか。バランタウンやソルサリエ、それからグラスクリークなんかと往復してるんだろうな。もうクタナツは最も魔境に近い街ではないんだね。時の流れを感じるなぁ。


ざわつく周囲をよそに私達は列に並ぶ……ことはなく関係者入口へと足を運ぶ。なんせアレクがいるからな。果たして、ささっと通してもらえるだろうか……




だめだった。私達はともかく他国の人間だらけだもんなぁ。しかもほとんどが眠ってるし。手続きが面倒だなぁ……


ならば、必殺技。


「騎士長かメイヨール卿を呼んでもらえない? 俺たちの身分はこんな感じね。」


まあ騎士長が城門警備に顔を出すわけないけどさ。スティード君パパなら大抵いそうなもんだけど。




いた!


「カース君かい!? 遠くへ行ったと聞いていたが帰ってきたのかい!? 騎士長のお嬢様も……」


「おじさんお久しぶりです。まだ旅の途中なんですけど、ちょっと母上に用ができたもので戻ってきました。こいつらを入れるのがだめでしたら母上を呼んでもらえないですか?」


「うーん……知らないようだね。聖女様はもう数ヶ月も前にアラン殿と一緒に旅立たれたよ。何でも山岳地帯を目指すそうだが……」


「え……」


山岳地帯だと!? 父上と二人で!? 何考えてんの!? 大丈夫なのか!?


「おまけにオディロン君やマリーさんも同行してる。あと、あの子も……ベレンガリアと言ったかな。総勢五人で旅立っていったよ。」


えー!? オディ兄やマリーも!? おまけにベレンガリアさんまで!? 何考えてんだよ! 母上が一緒ならもうとっくにフェアウェル村には到着してるぐらいだろうか……

少し予定は変わるが行ってみるか……だが、これだけの人数で山岳地帯かよ……

ちょっと危険すぎるな……どうしよう……


「そうでしたか……ありがとうございます。じゃあ僕らだけ中に入ります。」


「そうか。それは全然問題ないよ。」


さっと行ってさっと戻るしかないな。


「ドロガー、お前は城門から少し離れたところでこいつらと一緒に待っててくれ。俺らは中で用事を済ませてくるから。」


「しゃあねぇな。さっさとしろよ?」


ドロガー以外の奴らはまだ目覚めることはないだろう。余計なちょっかいを出されなければそれでいいのだ。


「カース、どこに行くの?」


「僕は薬屋だよ。ポーションを補充しておかないとね。アレクはお義母さんに顔だけでも見せてきたら?」


「ああ、そうね。そうするわ。じゃあ別行動ね。一時間ってとこかしら?」


「うん。それを目処にここに戻ろう。




ポーションはどっさりと買えた。以前より少し値下がりしてたな。グリードグラス草原へ行きやすくなったからだろうか。原料の薬草が手に入りやすくなったんだろうなぁ。でもあんまり開発が進むと逆に薬草の群生地が減りそうな気もするが。


あと、ギルドにも寄っておかないとまずいか。何も用はないが私に何か伝言が来てるかも知れないからな。




大した伝言はなかった。運搬や採取など依頼の話ばかりだ。よってしばらく依頼は受けられないと返事をするよう受付に伝えて終わりだ。組合長ゴレライアスさんにも挨拶をしておきたかったが、これも受付嬢に「よろしく伝えておいて」で終わりだ。


女たちに服でも買ってやりたいが、クタナツには既成服の店なんかないもんなぁ……私が知らないだけで古着屋でもあればいいのに。

さすがにあれだけもの数をファトナトゥールで仕立てるのは無理だもんなぁ……


え? 古着屋あるの? さすが受付嬢。詳しいね。へー、三番街なんだね。ちょっと遠いが、まあ構わん。リリスへの土産も必要だし、どっさり買ってやろう。楽園では衣類が不足してそうだもんなぁ。




よし。買い物終了。店ごと買い取る勢いでどっさり買ってやった。楽園には冒険者もいることだし、余った衣類はリリスが売るなり何なりすることだろう。


さーて少し時間オーバーしてしまったが、いい買い物ができた。ドロガーはいい子で留守番してるかな。コーちゃんが付いてるから大丈夫とは思うけど。




関係者出入口から悠々と外に出る。アレクはまだなのか。ドロガーたちは……お、いたいた。ん? 囲まれてるのか? 冒険者に?


「おう、待たせたな。何事だ?」


「なぁに、もっと遅くても構わねーぜ。こいつらに教育してやるとこだったからよぉ?」


「なんじゃあこらぁ!」

「一人増えたぐれぇで調子ん乗ってんじゃねぇぞ!」

「城門の外ぁ騎士も助けちゃくんねぇからよ!」

「よそモンがイキがってんじゃねぇぞ?」


私の顔を知らないこいつらの方がよそ者じゃないのか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る