1541話 一時帰国

あいつは、私やアレクと同じピラミッドシェルターで寝かせた。

だから、今夜は何もせず大人しく……寝た。




翌朝、私は悪臭とともに目を覚ました。

『浄化』


意識がないんだから仕方ないよな。とりあえず風呂にでも入れてやるか……


「待ってカース。私がやるわ。いくら無意識とはいえ、カースにそんな姿を見られるのはアーニャにとって屈辱よ。だから私がやるの。」


「アレク……」


「カースは洗濯だけお願い。」


「うん、分かった。」


アレクはたちまち服を脱がせたら、あいつの体を闇雲で覆って出ていってしまった。湯船は外に置きっぱなしだからな。


『洗濯』

『乾燥』


私の方は一瞬で終わる。服も下着も、床も布団も。わずかな悪臭すら残ることはない。

介護か……やはり簡単なことじゃあないな。迷宮攻略にどれだけ時間がかかるか分からないし、さっさと他の女たちを楽園に連れて行かないとな。


ふぅ、朝飯の支度でもするかな……


「あぁーあ、疲れた疲れた。おっ、魔王さんおはようございやす! 結局町長しか捕まえられやせんでしたぜ。リッキーの野郎どこに隠れてんだか。」


「案外農奴に紛れ込んでたりしてな。朝飯食ったら俺達はいったんヒイズルを離れる。たぶん三、四日で戻るとは思うがな。」


「あらら、どちらに行かれるんで? まあその言い方だとローランドにお帰りになるんですかい? 海を隔てた遠いお国に三、四日ですかい。まったく魔王さんはとんでもねぇお人ですぜ。」


飛んで帰るけどとんでもねぇってか。ふふふ……はぁ……




「カズマぁぁーー!」


うおっと、アレクはあいつを覚醒させたのか。身ぎれいになってるな。


「カズマカズマカズマぁ!」


別に両手を使って料理をしているわけではないから飛びつかれても危険はないが……


『浮身』


とりあえず一口食べてみな。焼いただけの肉。軽く塩をふっただけ。


おっ、大人しく口を閉じて咀嚼している。元気になった証拠だな。コーちゃんの祝福付きポーションを飲んだんだからな。体はさぞ元気になったことだろう。見たところ変な病気を持ってなさそうなのは幸運だったようだな。いや、それもう奇跡だろ……




さて、朝食も済んだ。色々と気になることはたくさんあるが、後は丸投げだ。


「それじゃあカドーデラ。俺達は出かける。用が済んだら真っ先にアラナカに戻ろうと思うが、それでいいな?」


「へいっ! ここまでお膳立てしていただいたんでさぁ。後のこたぁあっしらで何とでもいたしやす!」


「おいおい待てよ魔王! 今度はどこに行くんだよ! 俺も連れてけよ!」


んー……


「別に構わないが、付いてくるからにはこき使うぞ?」


「もう使ってんだろ! で、どこだ?」


使い道ってあったっけな?


「ローランド王国に戻るんだよ。ほんの三、四日だけな。まだ俺達の旅は終わってないからさ。」


そう。まだまだ旅の途中なんだ。だから本当なら帰りたくはないんだよな。なんとなく気恥ずかしいし……


「はぁ!? ローランド王国だぁ!? 三、四日だぁ!? オワダからでも早くて二週間って聞いて……あー、飛ぶんか。途中で落ちんなよ……」


「要らん心配だ。それよりドロガーにピエル、安物でいいから着替え持ってないか? あっちの女たちに着させるのにさ。」


さすがにこれ以上アレクの着替えを使うのは無理だ。


「あー、こんなもんでいいならやるぜ?」


「ああ……サイズは問題だが、使ってくれ」


見たところ、どうにか人数分はありそうだな。あいつらを連れてクタナツの城門をくぐるつもりだからな。せめて最低限の服装ぐらいさせておかないと、私が違法奴隷を連れているのかと勘違いされてしまう。


『麻痺』

『浄化』


心が壊れた女たちを着替えさせるのは容易ではない。なんせ放っておいたら服を脱ごうとするんだからさ。とりあえず麻痺させてから着替えさせてやった。男が二名、総勢十三名か。意外と少ないと見るべきか……それともたったこれだけの人数でここの男どもを相手にした結果、心が壊れたと見るべきか……




よし。これでいいだろう。

では麻痺ついでに『快眠』

さっき起きたばかりだろうけど、もう少し寝ててもらおうか。空で暴れられたら事故の元だからな。


よし、それじゃあ行くか……


「すまん、兄上に手紙を渡してもらうことはできないだろうか?」


「悪いが無理だ。方向が違うもんでな。」


クタナツはここから西北西、バンダルゴウは西南西だからな。オディ兄から貰ったクタナツ限定の羅針盤は超便利だわ。どこからでもクタナツを指してくれるんだもんな。

でも緯度的にバンダルゴウの方がアラキ島より南だったとは普通の羅針盤を使うまで気付かなかったな。まあどうでもいいか。


「そ、そうか……」


『氷壁』

『風壁』


氷壁で乗り場を作り、その上に風壁というカーペットを敷く。さすがに氷の上に直接寝かせるわけにはいかないからな。


「じゃあカドーデラ、後は頼む。ローランド人を見つけたらアラナカに集めておいてくれ。」


「へいっ! かしこまりやした!」


「ガウガウ」


えっ、カムイは残るの? まだエリアボスが見つかってないから? 偉いな。よーし、それならローランド産のオークか何か仕留めてこような。お土産だ。

オークもワイバーンもまだ魔力庫にあるけど、他の肉も食べたいだろうしね。


「ガウガウ」


よし。では全員を乗せて……


「ピエルもだ。カドーデラの言うことをよく聞いて、ローランド人をしっかり助けてくれよ。分かったな?」


「あ、ああ。任せてくれ……」


こいつって本当なら闇ギルドの言うことには従わないんだったな。解呪しておいてよかったかな。真人間ってのも時には考えものだよな。


『浮身』

『風操』


ではクタナツまで空の旅だ。おっと、その前にポーションをごくごく。一割ちょいまでしか回復してないんだもんな。空でヤバい魔物に遭遇したらアウトだ。

よし、だいたい二割ってとこか。全力で逃げる分には問題ないだろう。コーちゃんによると私は風の精霊より早いそうだからな。


それでも、あまり飛ばしすぎると燃費が悪くなるものだ。速度を二倍にして魔力消費が八倍になったんじゃあ大損だわ。普段通りの速度にしておこう。まあ、普段ならそれでも誤差でしかないけどね……

だが、それでも二時間かかることはないはずだ。


タティーシャ村とか寄りたいけどね。断腸の思いでクタナツ直行だ。やはり困った時は母上に頼るのが一番さ。


『消音』


アレクがささっとかけてくれた。ドロガーの奴、自分が高所に弱いってことをすっかり忘れてやがったな? こいつもノリで行動してんなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る