1539話 カースの告白
それから私は語った。
あいつのことを。
そして前世での死に様を。
このうす汚い廃屋で。
「さすがカースね。やっぱり私が惚れた男。生まれからして他者とは一線を画してる……惚れ直したわ。」
「アレク……ありがとう。」
「じゃあこの女はもしかしたら昔カースが愛した女かも知れないのね?」
「うん。カズマって名前を知ってたからね。」
あとは微妙なイントネーションだろうか。両親が私を呼ぶ時、友人が私を呼ぶ時とは微妙に違うんだよな。どこかどう違うのか私にも分からないが……
「カズマ……不思議な響きね。この世には星の数ほど謎があるって言うぐらいだから、生まれ変わりなんてそこまで不思議じゃないのかも知れないわね……」
「そうだね。」
「ローランド王国でも昔は
「あら、そうなの?」
それは初耳だ。女性用の下着ってめちゃくちゃ高いんだよな。でも品揃えは現代日本並み。私より先輩がいたのか。いつか会ってみたいな。
「ええ、お若い頃から先代王妃殿下と仲が良いらしくて下手な貴族も手を出せないって聞いてるわ。確か名前は……ガブリエル・ボンソワールだったかしら。まだ生きてるはずよ?」
「そ、そうなんだ……他にもいるのかな?」
「きっといると思うわ。私が知らないだけで。現にカースだってそうだったじゃない?」
「そうだね。きっとまだまだいるんだろうね……あ、それよりこの話は僕ら二人だけの秘密ね。両親に知られるのは恥ずかしいから。」
「ええ、分かってるわ。私しか知らないカースの秘密。最高の気分よ。」
そう言ってアレクは私の胸に飛び込んできた。さっきまでの憂鬱な気分が吹き飛んでいくかのようだ。
「でもカース、一つだけ約束して欲しいの……」
「いいよ。何だい?」
「浮気は許すし、側室だって何人いても構わない。でも正室は私。もし……例えばあの女を正室なんかにしたら……」
「するわけないよ。アレクも知ってるよね? 僕に超強力な契約魔法がかかってることを。アレク以外の女性を抱くことはないよ。」
アレクにも私より長生きするという契約魔法がかかってるもんな。どちらも今の私ではおいそれと解けない。解く気もない。
「心の狭いこと言ってごめんなさい……私は……カースさえいてくれたらそれでいいのに……
どこに行こうとも、最後は私のところへ帰ってきてくれたらそれで……」
「そもそもどこにも行かないよ。いつも、ずっと一緒だよ。だよね?」
「カース!」
「アレク!」
私の頭をかき
「ねぇカース……」
「なんだい?」
「あの女の身柄だけど、私に任せてくれない?」
「え……そりゃあアレクが望むなら構わないけど……大丈夫なの? かなり大変だと思うよ?」
介護された経験はあっても介護する経験なんてない私が言うのもなんだけどさ。
「もし、もしもね? カースがあの女を側室にするってなった時……上下関係を叩き込んでおく必要があるの。それなら今から始めておいた方が楽だから……だめ?」
「い、いや、そりゃあ、も、もちろん構わないよ……」
「決まりね。とりあえず『あの女』だと呼びにくいからアーニャと呼ぶわね。昔の名前は聞かないことにしておくわ。」
「う、うん。それがいい……」
私だってこの女があいつだと確信できるまでは……あいつの名前を呼びたくないんだ……
「じゃあ夕食の続きね。栄養のつくものを食べさせないとね?」
「うん。そうだね。頼むね。」
アレクに身柄を渡すとは言ったものの、実際のところ私達はいつも一緒なんだよな。だからどちらが面倒を見ようが大差ない気はする。でも、アレクには考えがあるんだよな。私よりよっぽど信頼できるってもんだ。
「おーう? 遅かったじゃねぇか。ちょっと暗くなったからってイチャイチャしてんじゃねぇぞ?」
「うるせぇぞドロガー。今夜は酒を飲ませる約束だったがいらねぇのか?」
「ばっ、ばか! いるに決まってんだろ! よこせ! たっぷりよこせ!」
「ほらよ。好きなだけ飲め。ついでにお前らも飲んでいいぞ。」
カドーデラや元エチゴヤの奴らにも飲ませる。鞭の後にはやっぱり飴をやらんとな。それなら農奴にはやらんのかって話だが、今は無理だな。あれだけもの人数に解呪なんか使ってられないし、これだけの大樽でもすぐなくなりそうだもんな。たっぷりあるけど無限じゃないからな。節約節約。
今夜はこの周辺だけでもわいわいと盛り上がりたいものだが……
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