1536話 カースの葛藤

さて、まずはどうするべきか……

この手の人間の介護ってどうしたらいいんだ? 思えばエルフの村で私が一ヶ月近く意識を失ってた時ってマリーにも姉上にもかなり世話してもらったんだろうなぁ。今度は私の番か。


「ピュイピュイ」


おお! そうだねコーちゃん。まずはポーション直飲ませだね。お願いコーちゃん。


「ピュイピュイ」


眠らせたまま口を開かせて……ポーションを飲み込んだコーちゃんがするすると入っていく。心の健康は戻らないとしても、せめて体の健康ぐらいは戻してやりたいからな。どうせヤバい病気だっていっぱい持ってるんだろうしな……

くそ、エチゴヤの奴らめ……女はオモチャじゃないんだぞ……いや、女だけじゃないか。あいつら男も女も構わずオモチャに、商売道具にしてやがるもんな……


「ピエル、他の女たちも集めてきてくれ。こんな目に遭ってるのはこいつだけじゃないだろ?」


「あ、ああ、そうだな。分かった!」


全員を助けるなんて無理だろう。たぶんポーションが足りないし、足りたとしても治らない。それに万能薬は残り二個。一個は後でこいつに飲ませるつもりだが、残り一個は予備だ。滅多なことで使うつもりはない。

だから、助かる見込みのない者は……


「おや? 魔王さんどうされたんで? そんな怖い顔しちゃって。いつも余裕の魔王さんらしくないですぜ?」


「無理言うな。そんな時だってあるさ。」


「聞きやしたぜ? また迷宮に潜るんですってねぇ。それも足手まといの女ぁ連れて。いやいや、ちいっと迷宮を舐めすぎじゃあないですかねぇ?」


「そうかもな。」


「え? 魔王さん……あんたぁマジで大丈夫ですかい? あっしにこんな舐めた口ぃ叩かれてんのに……ちいっと休んじゃあどうですかい?」


ちっ、カドーデラに心配されてしまったか。自分では平気なつもりなんだけどな。私の前世と因縁があるかも知れない女……そんな奴が目の前に現れただけでこの様かよ。

あいつとは似ても似つかないこの女が……


「ピエルが戻ってきたらな。それよりお前こそ大変だろうが。ここの奴らは勝手に働いてくれそうだけどよ。それでも支配体制の確立ってのは楽じゃなさそうだぜ?」


「その辺のこたぁ別にいいんでさぁ。後でビレイドにやらせやさぁ。まあせいぜいお嬢様を泣かせないことですぜ?」


「うるせえよ……」


私がアレクを泣かせるわけないだろうが……

どうせ私には超強力な契約魔法だってかかってるしね。もし……もしもこの女があいつだったとしても……私にはどうすることもできないんだよ……




「すまん……来てくれないか……」


ピエルだ。一人だけか?


「どうした?」


「とてもここに連れて来れるような状態ではないんだ……俺たちは最低だ……」


「別にお前が自分を責めても意味ないだろ。お前もそんな女達で遊んでたのか?」


「いや、お、俺はアーニャとしか……」


遊んでたんじゃねぇかよ……


「確かに最低だな。もう終わったことだが、あいつのことは忘れろ。俺が何とかする。契約魔法が効いてたせいだろうが、お前にもうあいつの側にいる資格はない。だが、あいつのために命懸けで動いたことは評価してやる。」


「すまない……」


今ごろのこのこやって来た私が何を言うって感じだけどな……


「ここだ。アラニシにはアラキタやアラナカで使いものにならなくなった女が、いや男もだが、廃棄同然に連れてこられる……その成れの果てだ……」


あいつはなぜか小さな掘立て小屋に一人だったが、ここは少し大きい納屋ってとこか。ちっ、やはり中は臭い……『浄化』

内部はだいたい二畳ごとに仕切りがあり、その一つ一つに女が横になっている。どいつもこいつも目が飛んでやがる……


「あはぁ……まだやるのぉ……」

「もっとぉ……わきゃいんだからぁ……」

「えしぇしぇ……ひょひゃ……」

「おとこぉ……しぃてぇ……」


ちっ……どいつもこいつも私やピエルを見ると足を広げて見せつけてきやがる……

やはりこいつらはもう……とっくに狂ってるのか……

こんな環境なんだ。狂わなければ生きていけなかったんだろう……くそ……エチゴヤめ……絶対全滅させてやる……




「この中にローランド人はいるのか?」


「分からん……会話が通じないからな……」


くっ……私は酷く身勝手だ。あいつは助けようとしているのに、こいつらを助ける気が全く出てこない。エチゴヤに激しい怒りは感じるが、全身全霊でこいつらを助けようなどと……とても思えないんだ……

理由は分かってる……壊れた心は二度と元に戻らないからだ……


『今からお前らを殺す。死にたくなければ立ち上がれ。そしてここから逃げろ』


最早まともに喋っても通じないだろうから、伝言つてごとで直接それぞれに伝えた。魔力の高くない奴に伝言を使うのはかなり大変だ……


しかし、動き出す者はいなかった。先ほどと変わらず私たちに誘いをかけている……やはりだめか。


やるしかない……のか。


「お前は外に出てろ。今からこいつらを殺す……」


「なっ!? 何を!? い、いや……そうか……そうだよな……そうするしか……」


「ついでにさっき死んだお前の元仲間も運んでこい。まとめて焼くから……」


「わ、分かった……」


私はクタナツの民だ。悪党を殺すことならば少しの躊躇いもない。だが、ここの女たちは……生きてさえいれば、もしかしたらある日突然治ったりしないのだろうか? 心が壊れたままでも、それなりの幸せを掴むことはできないものだろうか……


楽園に連れて行くか?


あそこなら……ここと環境は雲泥の差だ。運が悪ければ魔物に襲われるか、荒くれ冒険者の暴力で死ぬが……服も着れないような虫けら扱いではないし、金を稼ぐこともできる。身の回りの世話はメイドゴーレムもいるしリリスだっている。

もしかしたら、ここで殺した方がこいつらにとって幸せかも知れないが……よし。アレクに相談だな。私なんかよりアレクの考えの方がよっぽど信頼できるってもんだ……

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