1520話 傷裂ドロガーの矜持

のんびり飛んでも一時間。ドロガーが暴れなかったらもっとゆっくり空の旅を楽しめたのにさ。まったくもう。


さて、どこに降りようかな。


「いきなり行くぞ。この島の中枢と言えばどこだ?」


「大きくわけて三つありやす。アラキタ、アラナカ、アラニシでさぁ。アラキタぁ主に交易の中心でさぁ。島の北側に位置し、まあまあでけぇアラキタ港があるんでさぁ。」


へー。やっぱカドーデラってバカじゃないんだな。見知らぬ島のことでもちゃんと知ってやがる。実は常識なのか?


「それから?」


「へい。アラニシは島の西。ここは農業の中心でさぁ。見渡す限りの平野が広がってやしてね、アラキ酒の原料となるサトゥマイモやサトゥーキビがわんさと実ってまさあ。小せぇ港もあるにゃあありやすがね。」


「ほうほう。」


「んで、やっぱお偉いさんが居座ってんのは島の統治の中心、アラナカでやしょうねぇ。テンモカに比べりゃあしょぼいんですが、遊べるところもありやすぜ?」


なるほどね……それならアラナカから一気に落としてしまうか……


「カース、少し気になることがあるの。」


「おや、何かな?」


アレクが気になることはきっと重大だ。


「オワダで第三番頭ラウミ・アガノと戦った時よ。あいつ最後に『では魔王さんさようなら。今日のところは負けておきますよ』なんて言いながら地面に魔法陣を描いたわ。あれはきっと転移の魔法陣よ。おそらくどこでも自由に行けるタイプではなく、ある特定の場所に飛ぶための。だからもしも今回、アラナカで暴れたとして、そこに要人がいなかった場合……あっさり逃げられたりしないかしら?」


「さすがぁ女神さんでさぁ。あいつら番頭ときたらそりゃあ色んな魔道具を持ってやがるんでぇ。もしこのアラキに番頭の一人がいるとすりゃあ、位置的にトツカワムの第四番頭クラギ・イトイガってことになりやさぁ。もっとも、第四番頭ほどのモンがわざわざこんな島に来てるかどうかぁ怪しいですがねぇ?」


なるほどねぇ。二人の言うことはどちらも説得力があるなぁ。


「おい……遊びに来たんじゃねえんかよ……?」


「だから言っただろ? 俺たちは遊びに来た。カドーデラとビレイドはお仕事だって。こいつらのお仕事はこの島をエチゴヤから奪還することだ。まあ、完全にエチゴヤの仕業と決まったわけじゃあないけどな。」


わずかな確率だが蔓喰四天王の第二と第四の奴が島を私物化してるって可能性だってあるもんな。


「そんじゃ魔王……お前は何して遊ぶ気なんだよ……」


「それを今相談してるってわけさ。まずはアラキタを潰して島を封鎖するか、アラニシを潰して収入源を断つか。それとも一気にアラナカを制圧してこいつらのお仕事を終わらせてやるか。どうよ、お前ならどうする? 五等星傷裂ドロガーの叡智を見せてくれよ。」


「くくっ、くはっ、はははっ! ははははは! バカかお前! こんな遊びがあるかよ! 相手ぁエチゴヤかも知んねーんだぜなぁ? あいつら最悪の闇ギルドなんだぜ? 知らねーのかよぉ!?」


「知ってるさ。だから潰すのさ。その言い方だとお前もあいつらが気に入らねえんだろ? いいタイミングじゃん。俺が潰すって言ってんだ。もうエチゴヤの命運は尽きてんだよ。知らねーか? 『魔王からは逃げられない』って言葉をよ?」


たぶん『剣鬼からは逃げられない』もありだよな。


「くっくっく……ははは……はーはははは! イカれてんぜ魔王! それをよくも遊びだなんて言って俺まで巻き込んでくれやがったなぁ! こうなったらやってやんぜ! 確かにエチゴヤぁ気に入らねぇからよ! だが! 俺も冒険者だ! ただで動く気ぁねぇぜ!? この腕ぁ安かねぇんだぜ! 俺を動かすほどのモン見せてみろや!」


『浮身』


急上昇。白い雲を突き抜けどこまでも。天空の精霊が出てくるかな?


「ぎゃああぉああぉぉーーーー! あばぁああああーーーー!」


「やるか? それともここから一人で落ちてみるか? 下は海だからお前なら死なないだろ。」


「ぎゃうあああああーーーー! や、やるぅ! やるっからっよぉぉーー! おろぜ! おろじでべぇぇぇぇーーーー!」


「分かった。降りる。お前ほどの男との口約束だ。契約魔法はかけない。期待してるぜ?」


「あばっっっあぎゃああああーーーー!」


まあ働きぶりによっては白金大判の一、二枚ぐらいくれてやってもいいかな。




「さあ。気を取り直して打ち合わせの続きといこうか。各地に分散して同時にやってもいいんだが、それはちょいと危険なんだよな。具体的にはお前らの身が。」


私達四人は少々バラけても関係ないけどさ。こいつらの腕だとちょっとなぁ……


「あっしもそう思いやす。一ヶ所ずつきっちり制圧することが肝心かと。そうなりやすと……やっぱ島を封鎖するためにもアラキタからですかねぇ? ヒイズル本土と往復できるような巨大船ぁアラキタにしかありやせんからねぇ。」


なるほどな。アラキタさえ落としてしまえばこの島は孤立する。私のように長距離を飛べでもしない限り助けも呼べないってことになるな。大丈夫だよな? 抜け道はないよな……?

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