1519話 いざアラキ島へ

翌日。

私は朝からテンモカ騎士団の詰所に来ている。ここに集められた五十人ほどのローランド人をオワダまで送るために。アレクとコーちゃんは一緒だが、カムイは宿で寝ている。


「魔王よ。今のところかかった費用は六千万ナラーといったところだ。聞くまでもないと思うが払えるであろう?」


領主も朝からご苦労だな。そして人数の割にかなり安い。やはり豊穣祭でのパフォーマンスが効いているのだろうか。


「ええ。問題ありませんよ。先に少しばかりお支払いしておきますね。」


周囲には部下がたくさんいることだし気を遣って敬語だ。

白金大判を五枚、五億ナラーだ。これだけ渡しておけばぐうの音も出ないだろう。


「いいだろう。それと儂が許可する。本日は城門を通らずにこのままオワダに向かって構わんぞ?」


「ありがとうございます。」


ちっ、やはり私が飛んでオワダまで行ったことはお見通しかよ。やっぱこの領主は間抜けとは程遠い奴だな。バレてんなら仕方ない。このまま行くぜ。


『氷壁』


前回と同じように全員を乗せて……

騎士達が驚いているのを尻目に出発だ。乗ってる奴らはもっと驚いてるけどね。

さあ、晩秋の空を突き抜けていくぜ。




終わった。

オワダからバンダルゴウ行きの船が出港するのを見届けてから私達はテンモカへと戻った。シムも、姉やことバネッサも無事に旅立っていった。後はどうにか船が沈まないことを祈るのみだ。オワダで寄りたい所もあるが、今日はもう帰る。予定が詰まってるからな。


帰りは普通に城門をくぐった。あまり横紙破りばかりするのもよくないからな。さて、宿に戻って昼前まで休憩しとくか。まだ十時ぐらいだし。

と思ったら……


「よお魔王、来たぜぇ。」


傷裂ドロガーだ。


「早いな。もう来たのかよ。」


「へっ、ちょいと楽しみになっちまったもんでな。早く行こうぜ?」


まいっか。少し休むつもりではあったが筋肉痛以外の疲れはだいぶましになったことだし。今朝も痛みで目が覚めたが、激痛ってほどではなかったもんな。

じゃあコーちゃん、カムイを呼んできてくれる?


「ピュイピュイ」


その間に私は客室係に数日留守にする旨を伝えておこう。あとは……


「蔓喰の事務所に寄ってから行こうか。一応カドーデラも行く約束だし。」


「それもそうね。でもあいつ大丈夫なのかしら? 落雷での火傷って体の芯まで響くから治し辛いのよね。」


それこそ治癒魔法使いの腕次第だよな。まあカドーデラが来ないなら来ないで全然構わないけどね。寄ってみてからの話だな。


「お待たせいたしやした。」


噂をすれば。いいタイミングで現れるじゃないか。


「おう。体調はいいのか?」


「へい。治癒魔法使いの先生の腕がよかったみてぇで。魔王さんの魔力のおかげでもありやす。重ね重ねありがとうございやす!」


「ほぉう。こいつが人斬りカドーデラかよ。隙のねぇ立ち方してんぜ。おっと、俺は傷裂ドロガーってんだ。まっ、知ってんよな?」


「こいつぁどうも。あっしはヤチロ蔓喰の若頭をやっておりやすカドーデラ・タカマチと申すケチな野郎でございやす。ヒイズルにその名を轟かす傷裂のあにぃにお目にかかれるたぁ思わぬ幸甚。今後とも万端御昵懇ばんたんごじっこんに願いやす!」


足を開き肩を落として前傾姿勢。そのまま一気に口上を述べたカドーデラは意外にかっこいい。ドロガーが少しあたふたしてやがったな。


「お、おお……頼むわ……」


「それから魔王さん。申し訳ねぇがもう一人連れてっちゃもらえやせんか?」


「人によるな。誰だ? ヨーコちゃん以外なら構わんぞ。」


「へいっ、ありがとうございやす! おい、入ってこいや!」


「失礼します!」


あらら。ビレイドか。


「大丈夫か? 男の身を守ってやる気はないぞ?」


「へい。そこら辺はあっしがどうにかしやすんで。後のことを考えた時に、こいつみてぇに場を仕切れる奴がいなけりゃどうにもならんでしょ? あっしも魔王さんもそこら辺は苦手ですからね?」


うるせぇ。私だってその気になれば島の運営ぐらい……

無理だな。考えただけで面倒すぎる。運営なんてもんはできる奴に任せるのが一番だ。ちっ、カドーデラの言う通りだ。


「ん? 後のこと? 場を仕切る? 遊びに行くんじゃねぇのか?」


「いや、俺らとお前は遊びに行くのさ。カドーデラとビレイドはお仕事だな。」


「ふーん、まあいいぜ。アラキ酒は嫌いじゃないからよ。楽しみだぜ。」


それは私もだ。芋焼酎に似た方とラムに似た方、どちらのアラキ酒も欲しい。ついでに砂糖もたっぷりゲットしておきたいもんな。


「よし、それじゃあ行くぜ。とりあえず城門から外に出るぞ。」


「ん? カモイケ港まで歩くんか?」


「いや。まあ出てからのお楽しみだ。行こうぜ。」


「お、おお……」




さあて楽しいハイキング。いやピクニックかな? 南の島までひとっ飛びだ。

ピークニック ピークニック ヤッホーヤッホッホー。


「ぎゃああああああああーーーー!」


『消音』


ドロガーは高所恐怖症か? 離陸した瞬間から叫びやがった。だらしない奴だなぁ。五等星のくせに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る