1518話 アレクサンドリーネのデート!?

来客は一人。どこかで見た覚えのある男だった。


「やあヤリスさんいらっしゃい。いいところに来てくだすった! 助けてくだせぇ!」


ヤリス……あっ! 思い出した! 五日目の何でもアリ部門で最後まで立ってた奴だ! あれだけの榴弾の嵐の中、よく立ち上がれたもんだよな。さすがは一級闘士。


「助けてって……焦熱しょうねつレッカともあろうお人が何言ってんですか。おうお前ら。元一級闘士の焦熱レッカさんを知らねーのか? 骨まで燃やされんぞ?」


「ひいっ! み、光蜂ヤリス!?」

「しかもこのオッさんが焦熱レッカ!?」

「に、逃げっかねぇー!」


へー。この店主って元一級闘士なんだ。しかも二つ名が『焦熱』ときたもんだ。鉄板焼き屋に相応しい名前……なのか?

あっ、本当に逃げた。なんという逃げ足の早さ。でもこの二人にしっかり顔を覚えられたんだろうな。こりゃ今後が大変だ。ざまぁないね。


「祭りの前後はバカな奴らが増えるんだよな。それにしてもレッカさん、いい匂いさせてんじゃん。ちいっと体調は良くないんだけどさ、この匂いには勝てねーよ。まだある?」


「いやぁ申し訳ねぇ。あるにはあるんですが、限定品なんでさぁ。すまねぇな」


「いいよ。食わせてやんな。」


こいつには少し迷惑をかけたからな。一人前ぐらいは構わんさ。


「いいんですかい? ありがとうごぜぇやす。ああ、ヤリスさん。あの肉はこちらの方の持ち込みなんでさぁ」


「おお、そうなんだ。そいつはすまねぇ。ありがたくいただ……てめぇ! 魔王か!」


やっと気付いたのか。鈍い奴だなぁ。


「よう。元気そうだな。」


私は元気じゃないけど。


「元気じゃねーよ! てめぇにズタボロにやられて! やっと今朝歩けるようになったんだよ!」


「それはよかったじゃないか。生きてて儲けモンだな。それより食わないのか? ワイバーン肉。」


「ゴクリ……ワイバーン肉……だと!?」


「ヤリスさん。あっしが言うのもナンですが、この肉ぁかなり旨いですぜ? ここはひとつ、魔王さんのご好意に甘えてみちゃあどうです?」


「レッカさんがそう言うなら……」


大人しくなった。ここの店主は人格者だね。


「じゃあ帰るとするよ。いくらだい?」


「いえ、今回は結構でさぁ。またたくさん肉をいただいちまいやしたし。フライパンまでお借りしてんですから」


「そう。ごちそうさま。近いうちにまた来るよ。」


「へいっ! お待ちしておりやす!」


「ちっ……」


ヤリスは悔しそうな顔してんな。でも腹の虫には勝てないってか。ヒイズルじゃあワイバーンなんてそうそう食べられないだろうからな。


さて、いよいよ外出した本命。アレクを探そう。頼むぞカムイ。お前の鼻が頼りだ。


「ガウガウ」


え? 近くにいるの?


「ガウガウ」


はあぁ!? 男と一緒だとぉ!? ふざけんな! アレクに限って浮気なんかするわけないだろ! お前の鼻でも間違うことだってあるさ! どこだ! 早く案内しろよ!


「ガウガウ」


あの店? あっ、あれはいつかの甘味屋だ。スイートサトーだったかな。ここにアレクが……男と……

いや違う! そんなはずがない! きっと何かの間違いだ! かくなる上は入って確かめるしかないな……

ちょっとカムイと二人では入りにくい店だが……ええい! 構うもんか! 行くぞカムイ!


「ガウガウ」


何ニヤニヤしてんだよ……狼のくせに。


「いらっしゃいましー!」


「ここに眩いばかりに輝く金髪が素敵な美少女が来てるよな。ローランド人の。そこの隣の席を頼む。」


そう言って若い女店員に小判を握らせる。金の魔力には勝てまい。


「はぁーい! お一人様ご案なーい!」


ふふ、話が早いぜ。


ここか。この隣の個室にアレクが……「ピュイピュイ」

げっ! コーちゃん! 個室からひょろりと現れた。


「あらコーちゃんどうし、カース……なぜここに……」


コーちゃんに続くようにアレクまで! もうバレたぁー!


「いや、そ、その起きたらアレクがいなくて……どこに行ったか気になったもんで……カムイに頼んで……そ、その……」


「だめじゃないカース。きちんと休んでないと。でもせっかく来たんだしカースも何か食べる? カムイも。」


「押忍! 魔王様!」


あっ、シム! まさか……カームーイー……男ってシムのことかよ!「ガウガウ」


「おおシム。もう体調はいいのか?」


いくら何でもこんなガキに焼き餅焼いただなんてアレクに思われるのは恥ずかしすぎる! ここはしれっとごまかそう。


「押忍! 大丈夫です!」


こいつはアレクの前だと礼儀正しいんだよなぁ……


「それはよかった。お前はもう蔓喰の人間として生きていくのか? 村には戻らないのか?」


「いえ、明日の便でオワダに行きます! 村にはたぶん戻りません! そして姉やと一緒にローランドで生きていくつもりです!」


やっべ……すっかり忘れてた。明日だっけ? オワダ発バンダルゴウ行きの船は……

それに間に合うよう私がテンモカで集まった者を運ぶんだったよな!?


「カース、大丈夫? 難しそうなら明日は私が何とかするわよ?」


「いやいや、問題ないよ。アレクこそ明日は昼までのんびりしててくれていいよ。」


アレクの魔力で私と同じことをしてもらうのは不可能ではないが、ギリギリだ。だいたいオワダと往復するだけなんだから私はただ座っていればいい。問題ないさ。


「分かったわ。それはそうとカース……」


「えっ? な、何かな?」


「宿で大人しく休んでなかったからお仕置きね。」


ぎゃふん!

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