1517話 炎の鉄板バーニング

翌日、目が覚めてみれば昼すぎだった。


「ガウガウ」


おおカムイ。食事中なのね。もう大丈夫か?


「ガウガウ」


だいぶ良くなった? それはよかった。お前もよくやったな。立派な戦いぶりだったぞ。


「カースおはよう。何か食べる?」


「おはよ。うん食べる。何かスープ系が欲しいな。」


気分的には味噌汁よりミネストローネって感じだな。でも注文はお任せで。どんなスープが来るのかな。


「ピュイピュイ」


コーちゃんもおはよ。あらら、昼から飲んでるの? もー、コーちゃんたら。




運ばれてきたスープは、豚汁だった。これはこれで旨いな。これだけのつもりだったけど食欲が湧いてしまった。もう少し何か食べたら寝よう。ごめんねアレク……




「じゃあカース、大人しく休んでいてね。少し出てくるから。」


「うん、おやすみ……」


ぐう……





「カムイ、カースを頼むわね。」


「ガウガウ」


「コーちゃんは一緒に行く?」


「ピュイピュイ」


コーネリアスはそう返事をするとアレクサンドリーネの首に巻きついた。カムイはベッドへと。カースの隣に潜り込んだ。

それからアレクサンドリーネは眠っているカースの頬に口付けをしてから寝室を出た。行き先は……










……ずま……






……けて……






……ず……ま……







……す…………け…………










…………ず……ま…………













「ガウガウ! ガウガウ!」


ん……お、おおカムイか……


「ガウガウ」


かなりうなされてたって? またか……

一体どんな夢を見てたんだ? ふぅ……またすごい汗をかいてるじゃないか……

私はどうなってるんだ? かなり疲れが溜まってるせいだろうか……

水でも浴びてこよう……




はぁ。すっきりした。カムイは体調どうだ?


「ガウガウ」


私よりマシだって? そうかも。

あれ? そういえばアレクがいない。カムイ知ってる?


「ガウガウ」


コーちゃんと出かけた? 覚えてないのかって? あ、そういえば私が眠る直前に何か言ってたな。夕方まではまだ時間がある。アレクのことだから日没までには帰ってくるだろうけど……


「ガウガウ」


大人しく休んでおけって? 分かってるよ。ここで出歩いたらまたアレクにお仕置きされちゃうからな。うーんでも気になるなぁ。

よし……カムイさあ、たまには気分変えて外で旨いものでも食べたくないか?

ほら、この前行ったあの肉の店。炎の鉄板バーニングって言ったっけ? ワイバーン肉とミスリルフライパンを預けてるんだよな。こんな時だからこそ体の回復のために行くべきだろう。


「ガウガウ!」


だろ? お前あそこの肉をかなり気に入ってたもんな。よし、行くぜ!

もちろん隠形を使って飛んでいくけどね。歩く気はない。


おお、ここだここだ。今の時間は営業してるのかな?


「へいらっしゃい! おおっ! 待ってやしたぜ! 豊穣祭ではお見事でした! 只者じゃねぇとは思ってやしたがね!」


おお、知られてるのか。照れるな。


「待たせたな。とりあえず二人前焼いてくれるかい?」


「ガウガウ」


「訂正。四人前焼いてくれよ。」


「へいがってんでぇ!」


ミスリルフライパンで焼くワイバーンステーキ。香ばしてくて堪らない匂いが店中に漂っていく。カムイなんか尻尾がブンブン動いてやがる。

待ち遠しいな……




「へいお待ちぃ!」


来た!

余計なことは何もしていない。味付けはお好みでワサビと醤油か。この店主が試行錯誤した結果、これが一番旨いと判断したんだろうな。楽しみだ。まずは何も付けずに、どれどれ……


「ガウガウ!」


カムイの専属料理人として連れていくって? 無茶言うな。でもかなり旨いよな。いつだったかゼマティス家で食べた数々のワイバーン料理にも勝りそうだ。これはやはり絶妙の火加減のせいなんだろうな。


「かなり旨い。最高だ。もっと肉を置いていくからまた寄らせてくれ。」


「ありがとやんす! いただいたワイバーン肉のおかげでしっかり練習できやしたからね! そう言っていただけて料理人冥利に尽きやすぜ!」


ワイバーン肉はまだまだあるもんな。ここを贔屓の店としよう。


「へいらっしゃい!」


おっと来客か。


「おー、表までいい匂いプンプンさせてんじゃねーか!」

「そいつを三人前だー!」

「腹へってんだよ! 早くしろやー!」


何だこいつら? 冒険者ともチンピラともつかぬ奇妙な服装しやがって。強いて言えば……昔王都で見た傾奇者って感じか?


「いやーすいやせん。ありゃ限定品なんでさぁ。それよりウチの自慢の迷宮産ミノタウロスはいかがで?」


「あ? うるせーよ。ミノなんぞ食べ飽きてんだよー!」

「俺らぁもうすぐ闘士だぜ? いいから出せや!」

「おっ、そこに出してあんじゃねーか! あれぇ寄越せや!」


もうすぐ闘士ってことはまだ五級ですらないのか。つまり素人。バカ丸出しじゃん。


「ガウガウ」


あらら。カムイったらわざわざ見せつけるように食べちゃって。でも旨いんだから仕方ないよな。私もラスト一切れ、ワサビをちょいと乗せてから醤油を一雫。うーん、うまぁーい!


「あんじゃあ? こんのガキぃ……?」

「あいつが食ってて俺らが食えんたぁどういうことよ?」

「あんま舐めてやがったらこの店ぐちゃぐちゃにしてやんぞ?」


「はぁー、兄さん方。この店は一級闘士光蜂みつばちヤリスさんのご贔屓ですぜ? 今から闘士になろうって方がそれじゃあやっていけませんやな?」


みつばちヤリス。聞き覚えがあるな。


「なっ!? 光蜂ヤリスだぁ!?」

「けっ! どうせハッタリだあ!」

「なぁーにが一級闘士だぁ! こないだの豊穣祭じゃあよそモンにあっさりやられてたじゃねーか!」


よそモンって私かな。


「今の言葉、ヤリスさんにお伝えしておきやすよ。それが嫌なら出ていってくださいや。今なら何もなかったことにしておきやすぜ?」


「とことん客ぅ舐めやがって! てめぇら料理人は言われた通りに料理だけしてりゃいいんだよ!」

「料理のできねぇ料理人なんざ生きてる価値ねぇだろぉが! さっさとしねぇとぶち殺すぞ!?」

「腹へってイライラしてんだよ! 酒も付けろや!」


あーらら。どこのお登りさんか知らんが料理人を侮辱する発言はアウトだな。そんな奴らに料理を食う資格はない。よーしお仕置き決定。


「よぉー、いい匂いしてんな。やってるかい?」


私が立ち上がろうとしたら、また新たな客がやって来た。やっぱここは人気店なんだろうな。高いけど旨いし。

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