1516話 舞踏会終了

それから、いくつかの余興と数曲分のダンスが済んだ。他の男と踊るアレクをただ見ているのは苦痛だったぞ! キヨバルだけでなく領主の四男シューマールとも踊ってたな……

ついついヤケ酒が進みそうだったが、コーちゃんに私の分まで飲まれてしまった。どうやら私の体を気遣って飲ませまいとしているようだ。コーちゃんたら……


『さあ! 宴もたけなわとなってきた! それでは次がラストダンスだ! お前達! 意中の相手と踊るのだー!』


そういう領主は誰と踊るんだ? どうでもいいけど。


「カース、お待たせ。最後の一曲よ。大丈夫? 踊れそう?」


「大丈夫だよ。あと一曲ぐらい何てことない。今夜のアレクはずいぶんと悪い子だったね。帰ったらお仕置き……と言いたいところだけど今夜は無理かな。」


「うふふ、カースが悪いのよ。私に心配ばかりかけるから。もっと簡単に勝てたくせに、無理ばかりして……バカ。」


確かに勝つだけなら簡単だったんだよね。でもそればかりだとつまらないし私の成長にも繋がらないからな。


「ごめんごめん。さあ、踊ろうよ。ゆらゆらとさ。」


「ええ、そうね。さあカース、お手を。」


アレクに引き寄せられて椅子を立つ私。逆じゃん。

やはりのんびりとした曲が流れる。


『ハァア〜〜〜〜♪

女伊達らに 薙刀かつぎ

ついて行きます いくさ場に

街の大事と聞いたなら

男も女もあるものか

鎧兜に鉄の靴

凛々しき姿が 目に浮かぶ


ハァア〜〜〜〜♪

テンモカ女は 鈴の声

雅な音で 今日も鳴く

だけど男が 弱くなりゃ

薙刀かついで 走り出す

鎧兜に鉄の櫛

凛々しき声が 胸を刺す』


いきなり領主が歌い出した時は驚いたが、意外にもいい声してやがる。司会もすれば歌いもする。芸達者な奴だな。

それでもやはりダンスはいいな。アレクと密着してゆったりゆらゆら。チークダンスとも微妙に違う不思議な時間だったな。




『お前たち! 今年も豊穣祭は大成功だった! また来年に備えて一丸となり! アラカワ領を盛り立てていこうではないか! 今宵は大儀であった! また来年! お前たち元気でいろよ!』


そう言って領主はステージから姿を消した。代わりに執事や侍女っぽいのが客の案内をしている。まあもう帰るだけなんだけどさ。


「よう魔王。お楽しみだったようだな」


「おお、キサダーニ。いたのか。」


乱魔らんまキサダーニだ。話しかけてくるんなら私が座ってる時にしろよな。帰る時でなくてもさ。まあ、あの時は私は色んな女に囲まれてたからな。座りっぱなしだから逃げることもできなかったんだよ。


「俺もいるぜ。女神にゃ楽しませてもらったぜ」


「お前もか。楽しい余興だったよな。」


傷裂きずさきドロガーもいたのか。あっ、そうだ。いい事思いついた。


「お前らさ、明後日から二、三日ぐらい暇じゃないか?」


「何だ? 俺はちいっと無理だな。明日にはもう天都に向かうからな」

「俺も暇じゃねぇぜ。だが魔王の話によっちゃあ付き合ってやんぜ?」


キサダーニはだめか。


「なぁに、大した話じゃないさ。明後日の昼ぐらいからアラキ島に行くもんでな。バカンスのお誘いさ。」


「アラキかぁ……俺は船が嫌いなんだよなぁ……」

「俺は構わんぜ。顎足あごあし付きなんだろ?」


ドロガーの奴セコいなぁ。まあ寝泊まりがどうなるかは分からんが飯の面倒を見るのは全然問題ない。


「往復の心配はいらない。飯の心配もな。でも寝泊まりについては着いてみないと分からんけどな。あとはそうだな……蔓喰のカドーデラも一緒に行く予定だぞ。」


あいつ大丈夫なのかな? 明後日までまだ時間はあるけどさ。


「へー。ちょっと面白そうだな。お前もっと早く言えよな」


今思い付いたんだから仕方ないだろ。


「よし、俺は行くぜ。明後日はどこで合流すんだ? カモイケ港か?」


ドロガーは参加ね。せいぜい暴れてもらおう。


「いや、俺らの宿。沈まぬ夕日亭に昼前に来てくれ。」


「いいぜ。そんじゃまたその時な」


そう言ってドロガーは去っていった。


「俺に用がある時はギルド経由で連絡くれ。どうもお前からは面白そうな匂いがするからな」


何だその芸人臭は……


「おう。俺に用がある時は……ん?」


どうしたらいいんだ? 私はヒイズルのギルドには冒険者登録してないもんな。


「適当に登録しとけばいいだろ。どうせヒイズルもローランドもギルドの仕組みは似たようなもんだろ?」


「それもそうだな。アラキでの用が済んだら登録しとくわ。」


「おう。じゃあな魔王。お前とは二度と戦いたくはないが遊ぶとなると面白そうだからな」


「おう、またな。」


乱魔キサダーニと傷裂ドロガーか。面白い二人だよな。確か五等星だったな。国は違えど冒険者の階級分けは同じなんだよな。どんな歴史があるんだろうね。

さあ帰ろう。


あいつら話しかけてきてくれたおかげで余計な奴らが寄ってこなくて助かったわ。キヨバルやシューマールはアレクを熱い視線で見つめてたけどね。二、三回踊ったぐらいで勘違いしてんじゃないぞ?


領主邸の正門を出たらすぐに隠形を使ってミスリルボードに乗った。もう歩きたくないんだよ。こりゃ帰ったらすぐ寝てしまうな……

アレクには悪いが……


明日は一日中のんびりして……明後日からはいよいよアラキ島だ。それまでに回復してるかな……?

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