1513話 領主邸の舞踏会
さて、みんなを乗せて宿まで帰った。もちろん飛ぶ時は
あー疲れた……とりあえず風呂かな……でも、とうぶん無痛狂心を解除できないぞ。
やっぱ疲れた時は風呂が一番だよな。
はー、こうやってのんびり浸かってると……こりゃあ寝るな……
「カース、じっとしてて。私が洗ってあげるから。」
「ありがと。というかもう寝そうだから日没前に起こしてくれる? 舞踏会行こうよ。」
「いいわよ。カースには休んで欲しいけど、でも私だって久しぶりにカースと踊りたいもの。でも、あまり無理しないでね?」
「はは、分かってるよ。じゃあ、あとで……」
ぐうぐう……
……ずま……
……けて……
……ず……ま……
……す…………け…………
…………ず……ま…………
『助けて!』
「うわぁ!」
「カース!? だ、大丈夫!? すごくうなされてたわよ? 汗もすごいし……」
「はぁ……はぁ、なんだろう……何だか懐かしいような怖いような、変な夢を見たよ……」
「よっぽど覚醒を使おうかとも思ったんだけど……判断が遅くてごめんなさい……」
「いやいや、アレクのせいじゃないよ。ふぅ、ちょっと水でも浴びてくるね……」
快適な室温に保たれているこの部屋で、これほどの大汗……いったいどんな夢を見たんだろう……まったく思い出せない……
そもそも私ってあんまり夢を見ないんだよな。たいてい目覚める直前までぐっすりだもん。
でもわずかに感じた懐かしさ……どことなく覚えのある声を聞いたような……
ふー。冬は目前だが水を浴びる。あー気持ちいい。体の疲れはほとんど回復してないが気分は高揚している。よし、今夜は舞踏会だ。嫌なことは忘れてフィーバーするぞ!
今夜の服装は……いつも通りでいいか。礼服にしようかとも思ったが、踊りにくいのは嫌だ。やはり慣れた服装が一番だよな。シャツだけ新品、ケイダスコットンの白でいこう。
おっ、アレクはやっぱりドレスだね。
ルーブ・ラ・ポロネーズって言ったかな。私が贈ったドレスだ。ピンクに近い赤はゼラニウムレッドって名前だったか。フランティア領都の高級服飾店ベイツメントで仕立てたんだよなぁ。深い胸元、腰まで切れ上がったスリット。うーん、貴族らしくないが本当によく似合う。
胸元に青く輝く
おっ、オワダで手に入れた二本足の鼈甲のかんざしじゃん。きれいに髪をまとめてるな。フォーマル度もセクシー度もアップだ。
軽く頬紅を付け、ほんのりと赤い口紅を引いている。ほとんどすっぴんと言える程度しか化粧をしていないが、それでもこの美貌だ。こりゃ舞踏会場の男どもはトチ狂ってしまうだろうね。
カムイは起きないのでこのままにしておこう。コーちゃんは私達と一緒だ。酒も踊りも好きだもんね。カムイには悪いが楽しむとしよう。後のことなんか考えないぞ。
馬車で領主邸に到着。さすがにローランドの王宮やフランティアの辺境伯邸ほどの大きさはないが、それでも私の自宅よりはだいぶ大きいな。三百人単位のパーティーをするのに何の不足もないだろう。
さて、もう始まってるかな。こんな時はまず主催者である領主に挨拶をする必要があるのだが……
「ようこそおいでくださいました。魔王様がいらっしゃったらすぐにお連れするよう旦那様から指示を受けております。どうぞこちらに」
いかにも執事って感じのナイスダンディおじさんが出迎えてくれた。
「少し遅かったですかね。失礼しました。」
「いえいえ、始まったばかりですので」
少し遅かったのか。
大きなドアが開き、会場に入ると視線がこちらに集まった。なんだよ、まだ領主の挨拶の最中じゃないか。そんな時に入らせるんじゃないよ。
『おお魔王よ! 待ちかねたぞ! さあこちらに来てくれ!』
領主の声がかかるとステージまでのルート上にいた客たちがすっと割れた。ならば堂々と歩こうではないか。アレクと腕を組んで。コーちゃんは私の首に巻きついている。
それにしてもここの奴らの服装って統一感がないよな。大半はごく普通の礼服だが、次いで多いのは羽織袴なんだよな。オワダでも元中央貴族のオッさんが羽織袴だったな。変な国。ちなみに領主は煌びやかな礼服だ。
促されるままにステージに上がると、飲み物を手渡された。
『お前たち! 改めて紹介しよう! ローランドの魔王ことカース・マーティンと! 氷の女神ことアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルだ! こちらの蛇はローランドではフォーチュンスネイクと呼ばれているそうだ! 彼らの精強さはすでに見た通りだ! この場は我らと彼らが対立するためではない! 仲を深めるためにあるのだ! 分かっておるな?
さて、今年一年は良い実りであった! 来年もこうありたいものだ! これからも一丸となってアラカワ領を盛り立てていこうではないか! 乾杯!』
領主の号令と同時に全員が乾杯をし、音楽が流れ始めた。乾杯もそこそこに踊り出した者もいる。なるほど。ここはそういう場か。私達は先に食事だな。結構腹がへってるんだよね。
「アレク、何か食べようよ。」
「そうね。私もお腹すいちゃったわ。」
「ピュイピュイ」
おっ、コーちゃんも珍しく食事が先なんだね。まあ食べながら飲む気満々みたいだけどさ。
「それにしても魔王よ。お前の伴侶、女神の姿は目に毒だな。それはローランドではフォーマルな装いなのか?」
「いい質問だ。もちろん違うな。このアレクの魅力を最大限に引き出そうとしたらこんなドレスになったってだけの話さ。もっとも、引き出すまでもなく魅力が溢れてるけどな。」
「も、もうカースったら……!」
ドレスの左側には腰まであるスリット。歩くたびにアレクの白い生足がチラチラするんだよ。普通はくるぶしより上を晒すなんてことを貴族女性がするはずがない。肩とか胸元ならば結構大胆に開けてる場合はあるけどさ。
「なるほどな。本日よりアラカワ領内でも流行するやも知れんな。会場中の男が目を血走らせて見つめておるではないか。」
今でさえこれなんだから踊り始めたらどうなることやら。まったく、アレクは罪な女だぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます