1512話 祭りの後
さて、表彰台の設営が終わると、次に現れるのは……
『それでは表彰式を始めます! 本来であれば準優勝のカドーデラ選手にも表彰台に立っていただくのですが! 現在生死の境をさまよっております! よって魔王選手だけお願いします!』
そりゃそうだ。あの治癒魔法使いのジジイは今日それなりの魔力を使ってしまってるだろうからな。カドーデラを治すほど残っていればいいのだが。
よし、あそこに立てばいいんだな。観客全員の視線を独り占めだ。悪い気分ではない。
『表彰に先立ちまして! 魔王選手! 一言いただけませんか?』
構わんけどさ……普通ならインタビュアーが拡声の魔道具を持ってやって来るところだろ? 誰も来ないってことは私に自前で拡声を使えってことか。横着しやがって。
『えー、この度はよそ者の私を快く参加させてくださいまして、デメテーラ様とアラカワ侯爵閣下に感謝申し上げます。皆さん知っての通り私は不当に拐われて自由や誇りを奪われたローランド人を取り戻すべく戦っております。ですがその辺にはお互い様の一面もあると思います。ローランド王国で不当に働かされているテンモカの民もいるのではないかと思うのです。ですから、私がローランド王国に帰ってのち、ヒイズルの民を発見したならば必ず保護すると約束します。その後にバンダルゴウからオワダへと渡る手配までつけることまで約束します。ですから皆さん。どうか快くローランド人奴隷を見つけた場合は最寄りの騎士団詰所までお知らせください。いい値段で買い取りますし、通報者の方には報奨金もお支払いいたします。どうかよろしくお願いします!』
総合優勝までしたんだから、もう脅す必要もないだろう。低姿勢でこいつらの顔も立ててやらないとな。
『恐ろしい魔王選手に睨まれてまでローランド人奴隷を所有し続けるようなお人もそうそういないとは思います! どうか皆さん! 隠し立てしないようお願いします!
さあ! お待たせしました! それでは我らがご領主様! シュナイザー・アラカワ侯爵閣下のご入場です! ご起立脱帽、そして盛大な拍手でお出迎えくださぁぁーーい!』
お、領主の奴もう歩けるようになったのか。まあ普通の治癒魔法使いなら骨折を治すのって難しくないもんね。もっとも、あれだけ蹴りまくってやったんだから骨はつながっても筋肉へのダメージは甚大だろうよ。よく歩けてるもんだ。あ、私もか。
「魔王よ。お前の健闘を讃えこれを渡す。必要とは思えないが儂の気持ちだ。受け取ってくれるか?」
「これは……」
ふーん。まあ粋なことするじゃん。確かに必要ないものだが悪い気はしない。残念ながら足枷にも首輪にもなり得ないけどな。
「魔王カース・マーティン。そなたを名誉アラカワ領民と認め、アラカワ領全域への立ち入り自由を保障する。もちろん納税の義務などない。我々領主一族に次ぐ特権があると考えてくれてよい。」
「謹んで拝領いたします。」
『なんと! 皆さん聞きましたか!? 魔王選手が名誉アラカワ領民になってしまいました! 貴族です! お貴族様になってしまいました! これはもしかして魔王選手ではなく! 魔王閣下とか呼ぶ必要があるのでしょうか!?』
魔王なら陛下じゃないの? どうでもいいけど。
「それから、変わり映えせぬがあれも持っていけ。デメテーラ様のおかげで今年も豊作だったからな。味は保証する。」
「ありがたくいただきます!」
大量の農作物ゲット! これは私達四人で毎日食べても一年は軽く持つな。酒もたっぷりあるし。いやぁー参加してよかった! テンモカ豊穣祭って最高じゃん!
よし、荷台ごと収納っと。
『これにて本年度の豊穣祭を終わる! お前たち! 今夜は派手に飲め! 歌え! 踊れぇぇーー! 分かったかーー!』
うわっ、これはすごいな。闘技場が揺れるほどの歓声と怒号。今夜は街でもお祭り騒ぎってわけか。
「さて、魔王よ。今夜の約束を忘れてはおるまいな?」
「ああ、舞踏会だろ? ちょっと疲れてるが参加させてもらうよ。」
豊穣祭も終わったことだし、さすがにもう敬語はいらんな。フランクにいこうぜ?
「ならばよい。開始は日没時からだ。待っておるぞ?」
「ああ、必ず行くよ。」
さて、日没までもう三時間ってとこか。それまで何してようか……
アレクの膝枕で眠りたいな。でも起きれなかったらどうしよう……まあいい。とりあえずカムイを迎えに行こう。
医務室。おっ、カドーデラの治療中か。
「ようじいちゃん。魔力は足りるか?」
「こんなチンピラのために魔力を差し出すと言うのか? お前を殺そうとしたのであろう?」
「まあ、こんな奴でもダチだからな。ほれ、適当に吸い取れよ。」
手を差し出して錬魔循環。吸いすぎ注意だぜ?
「ほおっふ、ふぅ……もうよい。これだけあれば此奴は助かるであろう。もう行け……」
「ああ、頼んだぜ?」
そしてカムイは……
「ピュイピュイ」
あらら。まだ寝てるのね。寝坊助だなぁ。それなら宿まで運んでやろうかね。まあ私だって歩いて帰る気ないし。
『浮身』
カムイを鉄ボードに乗せて……と。医務室にミスリルボードは大きすぎるもんな。
『浮身』
鉄ボードを浮かせて会場まで戻ろう。そこでアレクを乗せて宿まで飛んで帰るのだ。もう歩かんぞ。さて、そろそろ……
「カース!」
ほぉら来た。
「最高だったわ! 全然溜めなしであれほどの威力の轟く雷鳴だなんて! 痺れまくりよ!」
「いやー手加減しないとカドーデラが死んでしまうからね。」
「もうカースったら。見てたのよ? カドーデラったらいきなら斬りかかってたわよね? それなのに試合開始まで手を出さないでいるなんて。どこまでも甘いんだから。」
「どうせなら一気に終わらせてしまいたかったもんでね。始める前に終わらせて、再試合なんて言われたら面倒だからさ。」
あの時はそんなことを考えていたわけではないが、何となくアレクに言い訳をしたくなったのだ。
「そうだったの。さすがカースね。考えが深いわ……好き。」
これだよこれ! アレクは私に対してだけチョロいんだよ。このかわいいアレクを見たくて適当なこと言ってしまった。正面から抱きついてきて……その濡れた瞳が私を……
「用がないならさっさと出ていけ! 邪魔じゃあ!」
ちっ、うるせぇジジイだな。若者の恋路を邪魔するんじゃないよ。でも出ていくけどね。
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