1511話 総合優勝

「魔王さん。いい戦いっぷりでやしたね。ですが、アタシを相手にあんなヌルいことしてたら……死にやすぜ?」


カドーデラの奴、ご丁寧に会場への入口で待ち構えてやがった。


「心配しなくても決勝は普通に戦うさ。恨みっこなしだぜ?」


「ふふ、それでこそ魔王さん。いい戦いをしましょうぜ。」


そう言ったくせにカドーデラはこの場を去ることもなく、私の後ろを付いてくる。ちなみにアレクは客席へ、いや放送席へ戻った。


「それより金は稼げたのか?」


「へえ。おかげさまでどうにか目標の五千万ナラーを揃えることができやした。危うく大きな借金を抱えてしまうところでしたぜ?」


「俺の命を狙っておきながらあの程度の金で許してやったんだ。感謝しろよ?」


「それは当たり前でさぁ。おまけに一度はお返ししたはずの刀までいただいちまいやして。このご恩は一体どうやって返したもんかと途方にくれてますぜ?」


「別にいいさ。ローランド人を一人でも多く助けてくれたら充分だ。」


闇ギルドに近付いたり、色んなイベントに参加してるのも半分はそれが目的だもんな。オワダからテンモカにかけてはもうかなり魔王の名前が売れたことだろうよ。


「分かっておりやさぁ。ローランド人奴隷を購入した奴らぁ今ごろ顔ぉ青くして震えてやすぜ?」


「素直に差し出してくれたら約束通り買い取るんだけどな。」


「そんな素直な奴らばかりじゃないのが辛いとこですやな。まっ、アタシらに任せておいてくださいや。きっとご満足いく結果にしてみせやすぜ?」


私が倍値で買い取るからって集めてる奴らとかもいるんだもんな。まあ餅は餅屋ってことで。任せておけばいいだろう。


「ああ、期待してる。」


あ、そうだ。言っておかないとな。


「なあカドーデラさぁ。」


「なんでやしょ?」


「次の試合棄権しないか?」


「ほぉう……そりゃあアタシも舐められたもんですやなぁ?」


「いや、別にどっちでもいいんだ。正直もうかなり疲れたもんでな。決勝ではいきなり魔法をぶちかます。死にはしないとは思うがな。」


「魔王さん、残念ですぜ。あんたがそんな甘っちょろいことを言うお方だったとはねぇ?」


「俺が甘いのはいつもだよ。お前や蔓喰の奴らは気に入っている。だからあまり大怪我をさせたくなくてな。」


「舐めんじゃねぇぇーー!」


おっと危ない。さすがにムラサキメタリックの刀で斬らるのはヤバい。


「魔王さんよぉ……アタシら闇ギルドのモンってのぁねぇ? 男ぉ売って生きてんですぜ? それがですぜ? いくら勝ち目のない戦いだからって尻尾ぉ巻いて逃げるような真似ぇできるわけないでしょおが! テンモカ中の人間が見てるんですぜ!」


会場の隅、客席からは見えるこの位置でもう決勝戦が始まってしまったな。ぶち切れて斬りかかってくるカドーデラ。私は浮身と風操で距離を取るのみだ。間合いになんて近寄らせないぜ?


「そんなことぐらい分かってるさ。だが俺はローランド王国、クタナツの人間だからな。負けるぐらいなら逃げるってのは恥でも何でもないのさ。生き残れば勝ちだからな。」


これってクタナツじゃなくても貴族だとそこそこ普通なんだよな。まあ、負けるぐらいなら死ぬって貴族も多いけどさ。


「アタシらぁねぇ……退いたら負けなんでさぁ。そしたら明日から飯が食えなくなるんですぜ? 蔓喰の看板に泥ぉ塗るぐれぇなら! 見事に散ってみせやさぁ!」


「前も思ったけど、お前って死にたがりだよな。よく今日まで生きてこれたな?」


「問答無用でさぁ! かかってきなせぇ!」


いかねぇよ! まだな。


『なんとぉ!? これはどうしたことでしょうか!? 会場の片隅で! カドーデラ選手が魔王選手に斬りかかっているぅーー! ま、まだ賭けが締め切り終わってないのにいぃーー! あぁーもう! でも止まりそうにないですね! 仕方ありません! 決勝戦開始です!』


なし崩し的に始まってしまったか。始まったのならば仕方ない。もういいだろう。悪いなカドーデラ。死ぬなよ?


『轟く雷鳴』


会場に隙間なく雷を落とした。かなりうるさかったし、変な匂いがプンプンする。これって確かオゾン臭なんだっけ? くっさ。


『水滴』『風操』


さて、砂埃が落ち着いた。


『ああーーっ! カドーデラ選手が倒れております! しかも! 丸焦げです! 早く! 早く医務室に運んでください!』


そりゃそうだ。どこにも避ける場所がないんだから。ただの落雷だけだとムラサキメタリックの刀で防がれると思ってめちゃくちゃ落としてやった。あれでは避けることも防ぐことも不可能だろう。


『テンモカ豊穣祭! 最終日! あまりにもあっさりとした幕切れでしたが! 総合優勝は! ローランド王国からやってきた殲滅魔王こと! カース・マーティン選手に決まりましたぁぁーー! あっ! 皆さん静粛に! これよりデメテーラ様がお言葉をお発しになられます!』


なんと。この場の全員に聴こえるように喋るというのか? 神との距離が近いな。


『この地に住まう我が子らよ

此度も良質な捧げものであった

褒めてつかわす

来年も豊穣であろう

励むがよい』


へー。デメテーラってこんな声なんだ。キャリアウーマンタイプだな。それにしてもえらくあっさりしてるな。もう少し何か言うことないのかよ。顧客満足度が下がっても知らんぞ? いや、この場合は信者満足度って言うのか?


『デメテーラ様! お言葉をありがとうございました! 今年も豊作をありがとうございます! 来年の豊穣も何卒よろしくお願いいたします! さあそれでは! 表彰式を行います!』


あ、また会場に表彰台を作ろうとしてるな?

どうでもいいから早くしてくれよな。痛みは無痛狂心を使ってるからいいけどさ。疲れや貧血気味なのはどうしようもないんだから。はぁー、私よく頑張ったよなぁ。今夜はアレクにたくさん癒やしてもらおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る